2024.2.9

移り行く時代の屋根材戦略

防災力のアピール、ラインアップの拡充、施工者に喜ばれる商品づくりなど

屋根材を取り巻く環境が大きな転換期を迎えている。
住宅市場が新築から改修へと移行を始め、施工業者の仕事の仕方も変わりつつある。
また、太陽光設置や建設業の時間外労働の規制の開始などの社会的な変化もある。
さらに、激化する災害に、防災性へのニーズも高まる。時代の変化に屋根材各社はどのような戦略を取るのか。

屋根材は、粘土瓦、スレート瓦、ガルバリウム鋼板、セメント瓦、アスファルトシングルとさまざまな種類があり、それぞれに特徴を持つ。

(独)住宅金融支援機構の「【フラット35】住宅仕様実態調査報告(平成29年度)」によると、そのシェアは「ガルバリウム鋼板またはジンカリウム鋼板」が37.8%、「スレート瓦」が32.7%、「粘土瓦」が18.7%、「ガルバリウム鋼板またはジンカリウム鋼板以外の金属板」が4.3%、「屋根一体型太陽光パネル」が1.4%、「その他」が5.2%だ。シェアを年々高め4割に近づく金属屋根、シェアを下げながらも依然3割以上で採用されているスレート、これに和風住宅が減るなかでも根強い人気の粘土瓦が続く。一方で、矢野経済研究所が算出した「2021年度 国内屋根材市場における素材別シェア」では金属が63.2%、セメント系瓦(スレート瓦)が15.0%、粘土瓦が13.4%、シングル材が5.6%、石粒付金属が2.9%という結果も出ている。

このシェアは、住宅デザインの違い、屋根形状の違い、また、新築かリフォームか、リフォームの場合は葺き替えかカバー工法かで大きく異なる。それぞれの屋根材が独自の特徴を生かして住宅市場でしのぎを削っている。

今、住宅市場は大きくその様相を変えつつある。持ち家の市場が冷え込み、ストック活用市場が拡大しつつある。住宅を長く大切に使い続けるため屋根材のメンテナンスや葺き替えは欠かせない重要な要素だ。また、職人不足が深刻化するなかで施工現場の合理化・省力化が強く求められている。脱炭素化が進むなか太陽光発電の搭載に強い追い風が吹き始めているが、これも屋根業界に大きな影響を与えよう。

こうしたなか屋根材メーカー各社は、さまざまな商品開発・技術開発を進め、販売戦略を展開している。

移り行く時代のなか、屋根業界の今を追った。

改修市場はおおむね好調
デザインや施工性で差別化を図る

田島ルーフィングは、23年2月に改修向けのアスファルトシングル材「OHVAN(オーヴァン)」を発売している。一枚のサイズを大判化し、従来1㎡あたり7~9枚必要なところを約5.5枚で賄えるようにし施工性を向上したほか、葺き足を化粧スレートに合わせて開発してあり、カバー工法での改修を行った際にきれいな仕上がりとなる。また、見た目だけでなく、下地材と異なる葺き足のアスファルトシングル材でカバー工法を行うと、下地材の段差部分が浮いてしまい、釘がきちんと刺さらず漏水の原因にもなる。防水材を主力とする会社として、こうしたリスクへの対策にはこだわりを持って製品開発しているという。海外企業に日本向けの屋根材製作を依頼し、輸入したものに対して自社内でプレセメント加工を施す。改修用に強度を向上した専用釘などの発売もしており、品質向上に努めている。アスファルトシングル材は安いというイメージを払拭し、高品質な改修商品で新たな市場を開拓することを目的としているため、価格設定は安価ではないものの、営業活動を通して向かうべき方向性が見えてきたとする。

OHVANについては、発売から1年間は以前からかかわりのあった屋根施工会社を中心に営業活動を行い、市場の感触を探った。「安い商品ではないので、提案の仕方に苦労したが、BtoCで直接エンドユーザーからの依頼を受けている屋根施工業者の方からは採用をいただけることが多い。一度使っていただいた方からは高確率でリピート注文が入っており、方向性は間違っていなかったと感じる」(住建事業部 近藤聡副部長)と、使用した施工業者からは、専用釘の使いやすさや下地に合わせる手間がかからない点などが評価を得ているそうだ。営業活動からの学びを生かし、今後は、特にBtoCで事業を行っている屋根施工業者へ向けたアプローチを強める。具体的には、エンドユーザー向けに事業を行いたい地域の施工業者に対し、同社がポスティングなどの営業サポートを行う。25年~30年前に建てられたリフォーム適齢期の分譲住宅などをターゲットに、地場の工務店と協力して屋根改修の提案を行っていく計画だ。新設住宅着工戸数の減少の影響で、自ら元請けとなってリフォーム事業を行おうと試みる屋根施工業者は増えており、リフォームショールームを開設する事業者もあるという。また、24年からは、ハウスメーカーのリフォーム事業部などへのPRも進める。「アスファルトシングル材はカッターで切断ができる施工性のよさや、独特のデザインが強み。カバー工法の新たな選択肢として実績を積みたい」(近藤副部長)。

田島ルーフィングのアスファルトシングル屋根材「OHVAN」。住宅屋根用化粧スレートのカバー改修工法に適したサイズで、仕上がりを美しくできる

一方で、リフォーム市場で勢いを見せるのが金属屋根材だ。

アイジー工業は金属製屋根材の主力商品である「スーパーガルテクト」の販売が好調に推移しているという。同社によると、屋根改修の主力である塗装は耐用年数で見ると長持ちしないため、ランニングコストを考えると金属製屋根材のカバー工法が経済的であるという認識が広がりつつあるほか、既存の屋根の劣化が激しい場合は塗装での改修が行えないため、塗装業者がプランBとして提案することも多くなっているという。こうした背景などから、「スーパーガルテクト」の販売数量は23年4~12月間で約10%の伸びで推移しているとする。

「スーパーガルテクト」は、遮熱性鋼板と断熱材を一体成型した金属製屋根材。断熱材を嵌合部まで隙間なく充てんしており、高い断熱性能を発揮することと、特殊なちぢみ塗装で見た目の意匠性を向上するほか、キズがついた際に目立ちにくく、施工業者からは急勾配の屋根で施工する場合に足が滑りにくい点でも評価を得ている。

アイジー工業の金属製屋根材「スーパーガルテクト」は役物も充実しており、施工業者から広く支持を集めている

カバー工法によるコストパフォーマンスのよさや、金属ならではの軽量さ、「超高耐久ガルバ」による高い耐久性も強みで、超高耐久ガルバは腐食に強いため海岸線の500m以遠までで穴あき25年保証を実現、鋼板と断熱材という材料構成で地震によるひび割れや飛散の心配もない。屋根同士が組合う形状で最大風速65m/sという大型台風にも耐えられる。横ジョイント部に排水機能を持ち水密性能も高いため、台風災害などが起きた後には需要が急増するという。こうしたニーズの高まりから同社は、大きな需要地である関東圏に工場を整備し生産能力を増強する。茨城県下妻市で土地と建物を取得し、25年春から金属製屋根材製造工場として稼働させる予定だ。さらに、山形県内事業所・工場では2023年12月にカーボンニュートラル(scope1‐2)を達成、山形県で生産するアイジーサイディング、アイジールーフ全品を24年1月よりカーボンフリー商品として供給を開始し、環境への配慮も行っている。

また、カバー工法による屋根改修は高額となるため、購入の決断を迷う施主も多い。同社はこうした施主の問い合わせに対して、少しでも不安をなくすために専用ダイヤルを開設している。23年7月から試験的に実施したうえで、10月から本格運用しており、技術企画室の担当者が月20~30件ほどの問い合わせに対応する。

屋根施工業者の営業手法の変化も追い風となっている。近年、エンドユーザーからの直請けを狙う屋根施工店が増えているが、こうした事業者がSNSなどでエンドユーザー向けに発信を行うなかで、「スーパーガルテクト」の紹介をすることが、認知度拡大につながっているようだ。また、「役物のラインアップが豊富なこともポイント。施工業者の方から施工しやすい屋根材だと認識してもらうことが重要」(原田康営業第1部長)というように、同じ役物でも、地域などに合わせて数種類を展開し、施工業者に寄り添った提案が採用に繋がっている。同社は、通常であれば施工業者が板金を加工して納めなければならない取り合い部の加工を簡略化する部材を扱っているが、特に、新しく金属屋根の取り扱いを始めた施工業者は、板金加工の技術を持たないことも多いため、重宝されているとする。昨今では、瓦屋根の業者が金属屋根でのリフォームに挑戦するケースもあるといい、施工性のよさも販売拡大のカギとなっていそうだ。

また、採用エリア拡大に向け力を発揮しているのが、10年ほど前に編成した市場開発チームだという。市場開発チームは、直接、元請け業者にPRする目的でつくられたチームで、認知度拡大の大きな支えになっているとし、今後も増員する予定だ。また、定期的に社内で分科会を行い、エリアごとの採用実績の向上に注力している。

ニチハが販売する金属製屋根材の「超高耐久 横暖ルーフ」は、採用先のおよそ9割がリフォーム用途だ。20年代に入り新型コロナウイルスによる市場影響、また原材料の価格高騰による価格の改定や、フッ素焼付塗料の供給制限の影響による一部商品の生産休止を余儀なくされたが、厳しい環境だからこそ、顧客満足を得るための商品開発を目標に邁進してきたという。直近の23年に入り、市場は回復基調にあり、リフォームの潜在的市場規模により商品の販売が伸びる余地はあるとしている。

横暖ルーフは、「軽量・耐震・断熱性に優れた」断熱材付き一体成型屋根として2000年4月に発売した。高耐候商品から高意匠、スタンダード商品まで幅広い商品アイテムと標準色を揃え、鋼板仕様はさびに強く丈夫な「塗装高耐食GLめっき鋼板」を全商品に採用している。「横暖ルーフは、お施主様の要望にお応えし、設計時に役立つ屋根材」(金属外装営業部・森 優司部長)であるとし、今後も商品を充実させ、顧客のニーズに合った提案を行っていく。

現在は6種類をラインアップしており、平葺きタイプの「横暖ルーフS」、山高タイプの「横暖ルーフαS」、狭小現場などの作業効率に一役を担う6尺品の「横暖ルーフS 1820」、耐候性に優れたフッ素樹脂塗装鋼板を使用した「横暖ルーフ プレミアムS」、「横暖ルーフα プレミアムS」、南欧風の色調で意匠性を高めた新商品の「横暖ルーフαS窯変」だ。名前にプレミアムが付くものが、フッ素樹脂塗装鋼板をしたもので、より高い耐候性を求めるユーザーに適している。αがつく商品は、厚みが最大17㎜あり凹凸が際立つ意匠になるため、カバー工法を行う場合、既存の化粧スレート屋根材のデザインを重視したい場合は平葺きタイプの「横暖ルーフS」、屋根を重く魅せデザインを変更したい場合は「横暖ルーフα」というように葺き上がりデザインに応じた選択が可能だ。

23年7月に、供給制限の影響で販売を休止していたフッ素樹脂塗装仕様の「横暖ルーフ プレミアムS」、「横暖ルーフα プレミアムS」の販売を再開、さらに「横暖ルーフαS窯変」を新発売し、建築物の形状や外壁材の色にあわせ、選択肢の幅を拡げたラインアップとした。

ニチハは新商品として「横暖ルーフαS窯変」を発売。洋風瓦をイメージし、色味に濃淡のグラデーションを持たせたデザインが大きな特長

新商品の「横暖ルーフαS窯変」は、洋風瓦をイメージし、色味に濃淡のグラデーションを持たせたデザインで、リフォーム適齢期の約20~30年前に人気を博した洋風の住宅デザインや、南欧風の店舗、またゴルフ場施設など、住宅から非住宅の屋根改修に幅広く採用が見込まれる。

また、同社の開発の取り組みとして、商品開発、製品保証の充実のみならず施工に関わる課題にも着手している。横断ルーフの施工可能地域を全国(一部施工条件あり)へ拡大し、2020年12月には梱包入数を8枚から6枚へ変更、1梱包当たり約7㎏の重量を軽減した。併せて、狭小現場での作業性を考慮した6尺サイズの「横暖ルーフS 1820」を発売するなど、作業効率向上に貢献する。

充実した保証もポイントで、住宅事業者に対し、海岸500m以遠の広範囲で、通常品であれば塗膜15年・赤錆20年・穴あき25年を保証する。フッ素樹脂塗装鋼板のプレミアム品であれば、上記と同様の赤錆・穴あき保証に加え、変褪色20年・塗膜20年を保証する。なお、保証の条件には認定施工者による施工が必須となっており、同社は認定工事店の数を増やしていく方針だ。講習と試験を行い、標準施工をきちんと施工できる工事店および施工者に対して認定証を発行する。現在、屋根と外壁で登録済みの認定工事店は500社3000名を超えており、さらなる拡大を目指す。

現在、屋根改修は塗装工事が最も多いが、金属屋根の良さをさらに周知し、業界として盛り上げていきたい考えだ。

瓦屋根の葺き替え需要に新たな提案として入り込もうとするのはケイミューだ。

同社の「ROOGA(ルーガ)」は、瓦の重厚感を持ちながら自然災害に強いことが大きな特徴だ。

「ROOGA」は、一般的な陶器平板瓦の約1/2の重量であり、独自の設計と固定方法により雨風にも強く、飛来物が当たっても割れにくいことが特長で、昨今、瓦屋根市場全体の1割近くまで販売を伸ばしてきた。もともと瓦屋根を採用していた住宅をリフォームする際に、自然災害への強さの面から採用されることが多いという。今後は昨今のシンプルな住宅デザインに合わせた商品の展開や、現在「カラーベスト」で行っているプレカットを「ROOGA」でも展開していきたいとする。

ケイミューの瓦屋根材「ROOGA」は、一般的な陶器平板瓦の約1/2の重量であり、独自の設計 と固定方法により雨風にも強く、飛来物が当たっても割れにくい

新築は着工減が響く
長期的な視野で屋根の性能を追求

新築住宅での採用が多い屋根材は、新設住宅着工数の減少により厳しい状況に置かれる。一方、こうした逆境を力に変え、ピンチをチャンスにすべく各社は新たな策を練る。

粘土瓦のトップメーカーである鶴弥は、新築住宅建設への動きが鈍いことに加え、住宅の狭小化や太陽光発電システムの搭載による緩勾配屋根の人気は瓦市場に逆風となっているとする。さらには注文住宅をメインに扱っていた住宅事業者が、資材高騰などで建売住宅へとシフトチェンジを図ったことも市場に響いている。ただ、和風住宅が減少し、スタイリッシュなデザインが人気を集めるなかで、三州瓦は多くのメーカーが平板のF形瓦を早期に商品化したことが功を奏し、昔ながらのJ形瓦に注力した販売活動を行ってきた他産地に比べると、縮小幅は小さいという。

早くからF形需要に応えた三州瓦が相対的にシェアを伸ばし、23年3月期末時点で陶器瓦市場におけるシェアは83.5%と、実に8割以上を占めている。この三州瓦の市場で38%のシェアを占めるのが鶴弥だ。持ち家の新築着工減少の影響を受けながらも「陶器瓦は屋根材として優れており、市場の人気に左右されることなく営業活動を続けていきたい」(角森一夫 取締役 営業本部長)と陶器瓦のアピールを継続していく。特に、最近は瓦を標準仕様で設定する住宅会社が減ったことや、世代交代により若い世代が増加してきたことで、現場監督や設計士から瓦を扱ったことがないとの声も聞かれるといい、原点に戻って瓦のよさを宣伝する必要性を感じているという。こうした傾向は瓦のシェアが屋根市場の半数を切った10年ほど前から少しずつ見られるようになった。23年1月より開始した粘土瓦の60年製品保証もそうした層へのPRのひとつで、改めて耐久性やメンテナンス性を普及していきたい考えだ。「阪神大震災以降に生じた、瓦屋根が重いから倒壊したといった誤ったイメージを持ち続けている方も多い。現在は軽量なものや防災機能を有したものもあるが、その存在すら知らない方もいる」(角森本部長)と、基本的な説明から行っている。

そのためのツールとして、2022年2月からは瓦の特徴を難しい用語を省いて視覚的に理解できるようにした冊子「KAWALIFE(カワライフ)」を作成。住宅会社内での勉強会や、施主に配布して情報提供を行えると好評を得ている。冊子にすることで住宅事業者に渡したあともきちんと目を通してもらいやすく、展示場などに置いておいても折れたり劣化しにくく重宝されているそうで、住宅事業者から、もう何冊か持ってきてほしいと追加の要望もあるという。施主からも、カワライフの情報が瓦屋根を選択する決め手になったとの声が寄せられているそうだ。また、23年10月からは、WEBメディア「ヒトツチ」を開設し、定期的な情報発信を行っている。「当社が先陣を切って、瓦に関する情報発信をすることで、他社にも後に続いてもらえれば」(角森本部長)と激動する住宅市場に対応するために、誰かがやるのを待たずに行動を起こすという方針で宣伝活動を行う。

注力商品については防災洋風瓦のスーパートライ110シリーズから「タイプⅠPlus(タイプワンプラス)」を挙げる。長年の人気商品「タイプⅠ」を原型に防水機能を強化し、F形瓦で初の2寸勾配にも対応した商品で、近年の緩勾配人気に対応する。また、「タイプⅠ」には新色の「トスティーブラウン」を追加。単色の商品が多かった同社において、2色の吹き付けを行い、施工した際に何色かを混ぜて葺いたようなデザインを実現する。色味の変化が欲しいといった問い合わせは以前からあったため需要に応える形でラインアップした。

鶴弥の防災洋風瓦「スーパートライ110 タイプⅠ」の新色、トスティ―ブラウン。2色の吹き付けを行い、色味の変化を持たせた

また、環境配慮を意識した製品開発も行っている。23年10月より受注生産を開始した「スーパートライ110スマート純いぶし(いぶし瓦)」は、三州地域でいぶし瓦を製造する創嘉瓦工業(愛知県高浜市)と協業し、鶴弥で発生するテスト品を創嘉瓦工業の工場で焼成(燻化)することで、いぶし瓦として活用する。

2017年に発売し、2021年にリニューアルした「スーパートライ 美軽(みがる)」については、軽量で厚みがあり、現代的なデザインなどの特徴があるものの、これまでの粘土瓦とは大きく異なる製品仕様や施工方法から、認知度向上を課題としている。その一方で、さらなる施工性向上のため、工場でのフルプレカットの実施も具体的検討に入っている。また、粘土瓦における従来プレカットも、現場ごとに使い切れて、手間がかからないといった点で予想以上のニーズがあることから、今後、他商品での展開を見据えて開発に取り組んでいる。

新築住宅の屋根で採用が非常に高いのがスレート屋根だ。スレート屋根材の市況は、ほぼ新設住宅着工に比例する形で推移している。

スレート屋根のほとんどのシェアを占めるケイミューは、「住宅トレンドの移り変わりにより、緩勾配や軒のないシンプルなデザインの住宅が存在感を増しているが、夏の日差しや台風などによる風雨を考えると、日本の住環境に合った適度な軒の長さや勾配屋根が必要なのではないか」(屋根材事業担当 川口剛執行役員)とし、同社の営業活動や販促ツールを通じて、勾配屋根の良さについての発信を行っていきたいと考えている。また、今後は長期的な視点から、屋根材製品単体に焦点を当てるのではなく、プレカットや部材・工法までを含めた屋根全体を総合的に提案することで、職人不足や激甚化する災害などの屋根業界が抱える課題解決に向けて取り組みたい姿勢だ。

同社は、2020年5月より主力製品の「カラーベスト」において、プレカットシステムを開始している。対象の屋根形状については、従来から対応している寄棟屋根に加え、今年度より、切妻屋根を追加した。切妻屋根は、寄棟屋根よりも桁方向の長さ調整が難しいが、ケラバ部分での長さを調節することでこの問題を解決した。プレカットにより、屋根上での切断作業を削減できるほか、切断時に発生する粉塵や端材を回収・清掃する作業もなくなり、およそ0.8人分の作業が軽減でき、約20%の工期短縮が見込める。また、現場での廃材を削減し工場でのリサイクル率がほぼ100%になるほか、輸送時のCO2排出量も削減できるなど、環境保全に貢献することができる。こうしたメリットから、今後はプレカットをより広範囲な事業者へ広げていきたいとする。一方で、「屋根野地板のプレカットを行っている住宅であれば、図面と現場寸法の誤差が比較的少ないが、現場で屋根野地板を加工する住宅の場合、図面と現場寸法の誤差が発生しやすく、積算割付が課題」(川口執行役員)とし、例えば、現場の寸法が図面から多少異なっても使用できる役物の設計や、プレカット向け積算割付体制の構築などを進めていく。

また、デザイン面では、「GRANDNEXT(グランネクスト)」シリーズで、個性的なデザインをラインアップし、屋根のデザイン表現力の向上に力を入れている。これらのシリーズはいずれも、表面塗装に耐候性の高いグラッサコートを使用し、30年後もほとんど色あせのない美しい外観を保つことができる。

一方で、厳しい環境下でも順調に売り上げを伸ばすのが田島ルーフィングだ。

同社の「ロアーニⅡ」は、23年、売上金額が前年比115%で過去最高を更新した。アスファルトシングル材の輸入製品が全体的に値上がりしたことで、住宅事業者が比較的値上げ幅が小さく、プレセメント加工により施工性のよいロアーニⅡを採用するきっかけになったとする。プレセメント加工により確実に接着剤が塗布されることで、大型台風にも耐えられる防災性を確保できる。また、下葺き材との組み合わせで1.5寸勾配の防水保証を付けられる点もハウスメーカーを中心に好評だとし、緩勾配での採用が増えたのではないかとみている。

新築住宅でも採用を伸ばすのが金属屋根だが、野地板やアスファルトルーフィングへの直貼りは、腐朽の原因になるとして、屋根環境に一石を投じようとしているのがハウゼコだ。

同社が、21年1月に発売したのは、通気機能を一体化した立平葺き金属屋根材「デネブエアルーフ」。金属屋根は軽量さや金属特有のデザイン性が住宅トレンドとマッチしているなどの理由で、新築住宅でも採用が拡大している。しかし、金属屋根材は、透湿抵抗が高い野地板やアスファルトルーフィングに密着して施工するため、下地材や野地合板が腐朽し、屋根全体の耐久性を損なう恐れがある。スレート屋根材や粘土瓦であれば、野地板との間に多少の隙間があるが、金属屋根材は隙間ができないため、軒先や野地合板に雨水が浸入しやすい。木材は含水率が20%以上になると腐朽菌が活発になり、劣化リスクが高まるため、注意が必要だ。

「デネブエアルーフ」は、独自の形状に加工した通気リブと、野地合板の上に施工する透湿ルーフィングの組み合わせで通気層をつくることで、野地板面の湿気を運び乾燥状態を維持、腐朽リスクを低減する。一般的な立平葺き金属屋根と「デネブエアルーフ」の試験体で野地板の含水率を測定した際には、一般的な立平葺き金属屋根の含水率が20~80%だったのに対し、「デネブエアルーフ」は、含水率20%以下で推移し、木材の耐久性向上に貢献していることが分かった。

また、通気・換気部材のメーカーとして、「デネブエアルーフ」と併用することで、屋根の耐久性をより高める軒先換気部材「通気立平用デネブB」や通気立平用換気棟「スピカBT」を用意。軒先からの通気がデネブエアルーフと野地板間の通気層を流れ、換気棟から排出される流れができ、連続して通気・換気を行える。

23年からは、「デネブエアルーフ」のライセンス生産を開始。これまでは、滋賀工場で製造したものを各地に搬送していたが、輸送費の負担が高いことなどから、地域の鉄鋼二次問屋と協力しOEMでの販売拡大を目指す。


「デネブエアルーフ」は、独自の形状に加工した通気リブと、野地合板の上に施工する透湿ルーフィングの組み合わせで通気層をつくり、野地板面の湿気を運び乾燥状態を維持、腐朽リスクを低減する

動きが加速する太陽光
工法や部材など手探りで進める

太陽光パネルの設置増加も屋根市場に大きな影響をもたらしている。例えば、ハウゼコによると、新築住宅で金属屋根の採用が増えている理由のひとつに、太陽光パネルを設置する住宅が増えたことがあるという。光を取り込みやすい片流れ屋根が増加したことで、こうした屋根形状と相性が良く、軽量で太陽光パネルを設置しても、住宅構造にかける負担が少ないと考え採用する施主が増えている。

東京都の延べ床面積2000㎡未満の住宅を含む新築の建物についての太陽光発電の設置義務などを背景に差別化などの観点から太陽光発電の設置に前向きな施工業者は増えており、屋根材メーカー各社の取り組みも注目される。

ニチハは、太陽光パネル関連資材の販売・設置などを行う高島(東京都千代田区、高島幸一代表取締役社長)の「PVA−AT スライド工法」による太陽光パネルの設置を2023年6月より可能とした。「PVA−AT スライド工法」の太陽光パネルメーカーは、国内外8社のメーカーが対応可能で、より多くの太陽光パネルの設置に対応する。

ケイミューは、4~5年前から「ROOGA」に太陽光パネルを支える台座を設置したものを販売している。今後は太陽光パネル設置のさらなる普及を目指して、安心して取り付けられる部材や工法を開発していきたいとする。

アイジー工業は、地方で行う同社主催の展示会「アイジー体感フェア」に、ニイガタ製販(新潟県三条市)を招き、太陽光パネル設置におけるスーパーガルテクトと金具の相性の良さを宣伝している。一方で、屋根改修に合わせて太陽光パネルも設置するとなると、費用がかさんでしまうため同時期の設置が難しいとする。また、太陽光パネルの設置には電気工事店、金具店、屋根材メーカーと関わる業者が多いため、課題も多いとした。

激動の時代を生き残り、新たな顧客を取り込むため、各社は独自の機能やデザインの提案を行っている。働き方改革の建設業界への猶予期間が終了する24年3月末へのリミットも迫っており、職人不足が深刻な課題として挙げられるなか、施工性はより求められるだろう。周辺環境が刻々と変わるなか、屋根材各社の動向に目が離せない。