2022.11.7

「森林グランドサイクル」で持続可能な好循環

竹中工務店の木造建築にかける想い

竹中工務店の木造建築への取り組みが脚光を浴びている。脱炭素化を背景に建築物の木造化の動きが加速する中、1610年に創業し宮大工の「棟梁精神」を源流に持つ同社の木造建築にかける想いとは。

「フラッツ ウッズ 木場」の外観。熱処理木材を効果的に外装に使用し、ハイブリッド木造建築であることを際立たせている

木造建築が今、世界の潮流になっている。「ウッドファースト」、つまり鉄やコンクリートの代わりにまず木材が使えないか、建物を建てる上で検討することが主流になりつつある。これは2050年の脱炭素化に向けて、再生可能な循環型資源である「木材」を建築物に積極的に利用しようとする機運が高まっているためだ。木造建築とすることで、長期間炭素を大気に戻さず建物内に固定化(貯蔵)できるため、脱炭素への寄与が期待されている。先行する欧米では、アメリカ ミルウォーキーの集合住宅「Ascent」(2022年7月完成、25階、高さ86・6m)など、高層の木造建築が相次いで建設されている。2024年完成のイギリス ロンドンのGoogle本社や、2024年開催のパリオリンピック選手村も木造建築で建設される予定だ。

海外では、木造建築は、脱炭素化への貢献だけでなく、鉄筋コンクリートに比べて約30%の軽量化、25%~40%の短工期化、約10%のコストダウンの効果が期待できることなどもメリットとして認知され、普及を後押ししている。また、木造オフィスに入居する企業は、環境意識が高く、ESG投資の観点からも高い評価を得られやすくなっている。若くて優秀な人材の確保にもアドバンテージを持つといわれている。

日本においても環境建築として木造建築が注目されている。その一翼を担うのが大手ゼネコンであり、竹中工務店は、2016年9月、「エンジニアリング本部」内に「木造・木質建築推進本部」を設置した。国内外で高まる木材活用促進の背景において国産木材資源の更なる活用に貢献し、同分野における新規事業の検討を視野に入れ、技術開発の促進とプロジェクト創出に向けた活動を一層強化する。木造・木質建築を統括する松崎裕之 参与は「宮大工を源流に持つ会社であり、木造建築に対する想い入れは強い」と話す。同社が木造化を推進するのは、現状では9割超が非木造で建てられている4階以上、21階以下の中高層の部分だ。「鉄やコンクリートを使わないわけではない。鉄やコンクリートにも良さがあり、適材を適所に使ったハイブリッドな木造建築を目指す」(松崎参与)。

中高層木造の普及拡大に向け、耐火集成木材「燃エンウッド」などの独自の技術開発も進める。「燃エンウッド」は、荷重支持部と燃え代層の境界に、モルタルなどを充填した燃え止まり層を設け、荷重支持部を木材の燃焼温度と言われる260度以下に抑え、耐火性能を高めたもので、1時間耐火、2時間耐火の性能を有した柱、梁の開発に成功。1時間耐火の「燃エンウッド」についてはオープン化している。2022年3月時点で21件の中高層木造建築で使用され、他社が開発した耐火木材よりも使用実績で抜きん出ている。さらに、今年度中に3時間耐火の認定を取得できる見込みで、実現すれば、高さの制限はなくなる。

木造建築のアイコン的作品「フラッツ ウッズ 木場」

12階テラスの外部空間には、薬剤処理を施したヒノキで柱外周を覆った外部仕様燃エンウッド柱を使用している

竹中工務店の木造建築のアイコン的作品と言えるのが東京都江東区に建つ「フラッツ ウッズ 木場」だ。地上12階、延べ床面積9150㎡の企業向け単身者用賃貸住宅で、2020年2月竣工。RC造+木造のハイブリッド建築で、5階~8階に2時間耐火の燃エンウッド柱、9階~8階に1時間耐火の燃エンウッド柱を使用した。また、居室の耐震壁として、エポキシ樹脂接着剤でRCの構造体と一体化するCLT耐力壁「T‐FoRest Wall」を採用。簡易施工、短工期で耐震性能を高められる。乾式の耐火遮音間仕切り壁と併用することで遮音性も高めた。12階テラスの食堂には、「CLT床 接合部ウェイブコッター」を使用。非常に軽量で超大スパンが可能で、職人不足の中でも施工性向上の効果が期待できる。加えて、建物外装には、熱処理木材を使用。200度の加熱処理により木腐りの原因となる糖を炭化させ、寸法安定性、防腐性能を持たせた材で、木造ハイブリッド建築であることを際立たせるアクセントになっている。

木材利用量は、燃エンウッド柱・梁で約39㎥、CLT床、耐震壁、屋根で約69㎥。2020年度のグッドデザイン・ベスト100を受賞したほか、2020年のウッドデザイン賞優秀賞、木材利用優良施設コンクール 木材利用推進中央協議会会長賞、木材活用コンクール 日本住宅・木材技術センター理事長賞など、数々の受賞歴を持つ。

「フラッツ ウッズ 木場」などで蓄積したノウハウを生かして、2025年には日本橋本町1丁目計画で、17階建ての国内最大・最高層の木造建築を建てる計画だ。

山側に適正な利益を還元
中高層木造のサプライチェーンが必要

同社は、森林資源と地域社会の持続可能な好循環を「森林グランドサイクル」と名付け、中高層木造建築の普及促進を目指す。松崎参与は「中高層の木造建築には、大量の木材が必要になり、日本全国の森林から木材を搬出してもらう必要がある。それがサステナブルに行われるように、利益が山にちゃんと還るような仕組みづくりを考えている」と話す。

12階テラスの食堂は、CLT 屋根下地、燃エンウッドSAMURAI梁などを使用し、木質感あふれる空間に仕上げた

現状、日本においては、木造建築にすることにより、軽量化による基礎工事の簡略化、省施工化の効果など、コスト削減効果はあるが、耐火部材など材料費のコストアップなどにより、建築費トータルでは、RC造などに比べて5%ほどコストは高くなるという。中高層木造が普及していけば、自ずとコスト削減への道筋も見えてくる。松崎参与は、日本でこれから中高層木造建築の市場を拡大していく上で「規制緩和」、「技術開発」、「木材のサプライチェーン」の3つの課題があるという。

地震大国でもある日本は、世界で一番厳しいとされる耐火建築の規制がある。海外においては、脱炭素化の側面から木造推進に舵を切り、従来は木造では4階建てまでしか建てられなかったが、この10年ほどで、木造で高層建築が建てられるように法規制が改正されている。日本においても安全性を確保した上で、規制緩和を進めていく必要があるという。併せて、高層の木造建築を実現していく上で、技術開発をさらに加速していくことも求められる。そして、中高層建築に対応した木材のサプライチェーンを新たにつくっていくことも重要になる。既存の木材サプライチェーンは、住宅を対象としたものであり、これまで安価であった外材が競争力を持っている。対して、中高層の建物を木造化していこうとすれば、中高層木造に特化した新たな木材サプライチェーンが必要になる。林業・建築業の各分野に精通した複数の企業が出資して、鹿児島県・湧水町で設立したMEC Industryには、同社も20%出資している。原木の調達からCLTなどの建材を製造・加工、販売まですべての工程を単独で行うビジネスモデル「統合型最適化モデル」の構築を進めている。「こうした取り組みから、中高層木造建築に特化した新しいサプライチェーンをつくり出していきたい」(松崎参与)考えだ。