放置された数寄屋建築が地域の学び舎に甦る 「文化を次世代へ継承すること」が目的
町田・浮輪寮再生プロジェクトの挑戦①
小田急線新宿駅から新百合ヶ丘駅経由で鶴川駅へ。駅前からバスに揺られること約20分、終点の野津田車庫で下車し里山の道を歩く。東京都町田市野津田町。多摩丘陵の豊かな緑に包まれた農村伝道神学校の敷地内に、一棟の美しい数寄屋建築が静かに佇んでいる。その名は「浮輪寮」。かつては森の中に埋もれ、解体も検討されていた建物だが、現在は音楽会や講演会、宿泊体験、地域交流イベントなどが年間約100回開催され、約2000人が訪れる文化交流拠点として再生を果たしている。
農村伝道神学校は1948年、カナダ出身の宣教師アルフレッド・ラッセル・ストーンによって創設された。農業を営みながら農村での宣教活動を行った人物である。1954年、青函連絡船洞爺丸事故に遭遇した際、海に投げ出されながらも日本人青年に自らの救命胴衣を譲り命を落とした。52歳だった。その献身的な行動は広く語り継がれ、校内にあった旧女子寮には「浮輪寮」という名前が付けられた。しかし、その建物は老朽化が進み、後に解体されている。現在の浮輪寮再生を手掛けたのは建築家の丸谷博男氏だ。全国各地で古民家再生や地域づくりに携わり、近年は文化財保存や数寄屋建築の継承活動にも力を注いでいる。
再生のきっかけは、神学校関係者から木造建築群の価値評価を依頼されたことだった。調査を進める中で、長年使われていない和風建築の存在が浮かび上がった。屋根や建具の傷みは著しく、放置すれば解体は避けられない状態だった。ところが調査を深めるうちに、この建物が日興証券創業者で「日本の証券王」とも呼ばれた遠山元一氏から寄贈された建築であることが判明する。歴史的背景が明らかになるにつれ、保存価値は一層高まった。
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