「パネルの工業化」から「情報の工業化」へ 「建築知能」が変える設計の常識
ウッドステーション 代表取締役会長 塩地博文 氏
2018年の創業から現在、そして未来へと続くウッドステーションの挑戦を塩地博文会長に聞いた。目下進める「情報の工業化」の意味とは。実現した先にどのような木造建築の未来が広がっているのか。
──2018年にウッドステーションを立ち上げた際、塩地さんが真に成し遂げたかったことは何だったのでしょうか。

一言で言えば、日本の木造住宅建築における「無理」と「無駄」を、情報の力で解決したかったのです。2018年当時、私たちがまず掲げたのは「大型パネル」の普及でした。なぜパネルだったのか。それは、木造住宅の現場が、もはや個人の職人の技能だけで支えられる限界を超えていたからです。
背景には2つの大きな潮流がありました。1つは、深刻な大工不足と高齢化です。もう1つは、住宅の高性能化に伴う部材の重量化です。現代の高性能な窓(サッシ)は一枠で200㎏を超えることも珍しくありません。これを現場で大工さんが数人で持ち上げ、ミリ単位で調整して取り付ける。そんな過酷な作業を、60代、70代のベテランに強いて、若手が魅力を感じる業界になるはずがありません。
私は、工場でサッシや断熱材までを組み込んだ「大型パネル」を生産し、現場ではクレーンで吊るして組み立てるだけの状態にすることで、現場作業の劇的な省力化と品質の安定化を目指しました。しかし、そこには大きな壁が立ちはだかっていました。
──その壁とは何だったのですか?
日本の木造住宅業界の「情報の解像度の低さ」です。日本の家づくりは、長年、詳細な「施工図」がないまま進められてきました。設計士が描くのは「意匠図」という、いわば完成イメージに近いものです。そこから先の、柱の一本一本をどう組み合わせるか、防水処理をどう施すかといった「納まり」の詳細は、すべて現場の大工さんの頭の中に委ねられてきました。
大工さんは、工場というよりは、あらゆる曖昧さを現場で吸収して形にする「インフラ」のような存在だったのです。しかし、情報の解像度が低いままでは、真の意味での工業化は進みません。大型パネルをただ作るのではなく、その前提となる「設計情報の工業化」こそが、私が真に成し遂げたかった革命の核心でした。
パネルの蓄積データを活用し
AIによる画像解析へ
──現在進められている「設計情報の精緻化」や、意匠PDFからの「納まり解析」は、創業時の志とどう関連しているのでしょうか。
創業時の「パネルという物の工業化」から、現在は「情報そのものの工業化」へとフェーズを深化させています。どれほど優れたパネル工場があっても、そこに流し込むデータが不正確であれば、結局現場での調整(手戻り)が発生してしまいます。
そこで私たちが開発したのが、自社ソフト「WSパネル」による施工図の自動生成です。私たちはこの数年間、数千棟に及ぶ住宅の一棟一棟に対して、釘の一本、パネルの一枚までを定義した緻密な「パネル図面(施工図)」を作成し、データベースとして蓄積してきました。
現在取り組んでいるのが、この蓄積データを活用した「画像解析AI」です。これまでの設計図面(意匠図)はPDFなどの画像データとして存在しますが、AIによって図面上の「座標点(マウスでクリックする点)」、つまり建築の「節(ふし)」をすべて解析し、抽出することに成功しました。
この座標データから3D建築図を再現できれば、そこから構造計算、温熱計算、積算、さらにはプレカット加工データまでを自動で生成できます。これまでは各工程で異なるソフトにデータを「再入力」する必要があり、その手間が多大な負担となっていました。AIが図面から直接データを読み解くことで、この「再入力の壁」を突破できるのです。
既存のCADソフト、BIMソフトなどは、そのシステム内では完結しますが、他ソフトとの互換性が低く、結局は再入力が発生してしまいます。私たちのAI技術は、純粋に「画像」から情報を抜き出すため、特定のソフトの制約を受けません。
クラウド上で図面をアップロードするだけで、構造や温熱の計算結果が瞬時に返ってくる。そんな「無人化」された環境を目指しています。
──この「設計情報の無人化・自動化」が実現することで、業界にはどのような変化が起きるのでしょうか。
この技術が普及すれば、施主・施工者・設計者の三者に劇的な変化をもたらします。施主は、設計の初期段階から、ビジュアルだけでなく詳細な構造や性能のシミュレーションを何度もやり直せるようになります。
施工者(大工)は、曖昧な図面による現場での「手戻り」や苦労がなくなり、正確な情報に基づいた効率的な作業が可能になります。
設計者は、面倒なデータの再入力作業から解放され、よりクリエイティブな設計に専念できます。
現在の木造建築現場は、窓の重量化や断熱性能の向上、さらに法改正による構造・温熱計算の義務化など、現場への負担が「過剰」な状態にあります。職人の勘や残業で補ってきたこの限界を、データの活用と工業化でスマートに解決するのが私たちの使命です。
建築知能の社会実装
一般向け「サブスク」とプロ向け「個別解」
──今後、「設計情報の無人化・自動化」の技術を具体的にどのようなサービスとして提供していくのでしょうか。
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