フレキシブルな暮らしに合わせた住宅提案が必須に　働き方とともに、住まいへの価値観が変容

コロナ禍を経て、働き方はかつてないほどの変貌をみせている。テレワークのメリットや快適さに気づいた人々は、以前とはまったく異なる働き方を求めている。こうした新しい暮らしを求めるニーズをに落とし込んだ住まいの提案が必要となっている。

コロナ禍でテレワークが普及したことにより、ここ数年で働き方が大きく変化してきた。

内閣府の「第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、2022年6月時点でのテレワーク実施率（働き方に関する問に対し、「テレワーク（ほぼ100％）」、「テレワーク中心（50％以上）で定期的にテレワークを併用」、「出勤中心（50％以上）で定期的にテレワークを併用」、「基本的に出勤だが不定期にテレワークを利用」のいずれかに回答した人の割合）は、非常事態宣言やまん延防止の声がかかっていた一時期よりは低下しているものの23区においては50.6％と過半数を超える。また、「働くうえで重視するもの」の項目では、テレワーク経験者の40.9％が「テレワークやフレックスタイムなど柔軟な働き方ができること」を挙げており、決められた時間・場所のとどまらない働き方を所望する人が多くなっていることが分かる。

場所にこだわらない働き方という点で、移住を検討する人も増えている。総務省の「令和3年度における移住相談に関する調査結果」によると、令和3年度中に受け付けた相談件数は、全体で約32万4000件となり、約3万3000件増加、調査を開始した平成27年以降、最多となった。「第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」でも、東京圏在住者の地方移住への関心は高まり続けており、特に23区内の20歳代では、「強い関心がある」、「関心がある」、「やや関心がある」と答えた人の合計が50.9％となった。関心を持った理由については、調査当初（2020年12月）と比べると、「現在地の感染症リスクが気になるため」や「感染症を契機に将来のライフプランを考え直したため」という回答が減少し、「テレビやネット等で地方移住に関する情報を見て興味を持ったため」という回答が増えており、社会全体として地方移住への機運が高まっていることがうかがえる。

一方で、地方移住に関心のある人の移住にあたっての懸念は、「仕事や収入」が最も多く、調査開始から継続して50％前後を保っている。そんななか注目されるのが、多地域居住だ。都市にも拠点を持ちながら休暇や仕事の状況に応じて生活の場所を変えられるため、完全移住よりも心理的なハードルが低い。

トラストバンクの「地方暮らしに関するアンケート」では、地方暮らしに関心があると答えた人のうち、望む地方暮らしのスタイルについて、最も回答が多かったのが「二地域居住」（42.4％）で、地方のみで暮らす「移住・定住」（31.1％）を上回った。

2019年度に転入者数が転出者数を上回る8年ぶりの社会増を成し遂げた徳島県神山町は、空き家マッチングや通信環境の整備によるサテライトオフィスの誘致といった取り組みが成果につながっている。町内全域に整備された光ファイバー網や、他の市町村に先駆けて設置したフリーWi‐Fiスポットが評価され、16社のサテライトオフィスが集結する。空き家になっていた縫製工場を改装したコワーキングスペースは、1時間の時間貸しから月契約まで多彩な使い方ができ、サテライトオフィスを構える前に試験的に利用する人も多い。

地方暮らしに憧れる層をどのように取り込んでいくかは、地方の人口減少を食い止めるうえで、大きなポイントとなりそうだ。

2022年6月に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想基本計画」では、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」の取り組みとして、関係人口の創出、拡大や二地域居住の推進を図ることで地方と都市の間に人の流れをつくる方針が掲げられている。また、中長期的な取り組みとして、2024年度末までに全国の地方公共団体1000団体でのサテライトオフィスなどの設置を目指すとした。各地方自治体および企業による、移住・多地域居住への取り組みは今後一層加速していくだろう。

多様な働き方に合わせた住まいのかたちに注目が集まる

多拠点居住は地方移住を目的としたものだけではない。

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