2022.2.21

中大規模木造建築を支える技術

脱炭素化、SDGs、木促法改正で脚光

脱炭素化、SDGs、木促法改正などを背景に、中大規模木造建築市場に強力な追い風が吹く。
一方で、これから拡大が期待される市場であるだけに、建築事例はまだ少なく、新規参入の障壁は低くはない。
担い手の確保、木材の調達をはじめ、中大規模木造で求められる大空間を創出するためのノウハウの習得など、様々なハードルをクリアする必要がある。
こうした中で、中大規模木造市場開拓を目指す事業者を支援しようとする技術開発が活発化している。


近年、日本では、伐採期を迎えた国産材を活用していこうという機運が高まっている。また、木は持続可能な資源であり、成長過程でCO2を吸収、削減し、その後、伐採、加工し、建材として建物に使用する過程でCO2を固定化できるため、脱炭素化、SDGsといった観点からも木材利用、木造建築に脚光が集まる。

木材利用、中大規模木造の建設を促進する法改正や環境整備も進む。2021年6月に閣議決定した森林・林業基本計画では、新たに「森林・林業・木材産業による『グリーン成長』」という計画が打ち出された。森林を適切に管理して林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させることで、2050年カーボンニュートラルも見据えた豊かな社会経済の実現を目指す。その新計画達成に向け、大きな施策の一つとして「都市における『第2の森林』づくり」を掲げ、都市・非住宅分野への木材利用、耐火部材やCLTなどの利用、仕様設計の標準化を進める方針を示した。

林野庁は、「ウッド・チェンジ」というスローガンを掲げて、川下の木材需要を喚起する施策を展開する。このウッド・チェンジを進める上で重要なターゲットとして定めるのが中大規模建築だ。現状、コンクリート造、鉄骨造がほとんどで、木造の割合はわずかである非住宅を木造にチェンジすることで、国産材需要の拡大を目指す。

さらに2021年10月、「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材利用の促進に関する法律(改正木促法)」が施行された。木造建築物の設計・施工に係る先進的技術や、強度などに優れた建築用木材の製造技術の開発・普及を図り、低層の公共建築に加えて、一般建築についても木造化を推進していくことが打ち出された。

一方で、これから拡大が期待される分野であり、建築実績も多くはないため、新規参入事業者にとって、参入障壁は低くはない。担い手の確保、木材の調達、大空間を創出するノウハウの習得など、様々なハードルをクリアする必要がある。こうした中で、建材メーカー、流通事業者が中心となり、ハード、ソフトの両面から、技術、サービス開発を加速させ、中大規模木造市場に取り組む事業者を支援しようとする動きが活発化している。

高耐力な合板が中大規模木造でも活躍
超厚合板の開発にも着手

近年、耐震性能、省エネ性能の向上など、住宅高性能化のニーズが高まる中で、簡単な施工で均一な性能を確保しやすいことから、筋かいから耐力面材へのシフトが進んでいる。なかでも構造用合板は、住宅の壁、床、屋根の下地材などとして普及する、“耐力面材の雄”と言える存在だ。

構造用合板は、釘のピッチなどを狭めるなどの工夫により、最大壁倍率20倍相当にまで性能を高めることが可能で、近年は、より高耐力が求められる中大規模木造建築での使用も増えている。特に、地域の工務店などが、中大規模木造を手掛ける上でも、構造用合板は強い味方になる。特殊な工法などを用いずに、住宅建築の延長線上で、構造用合板などを活用し取り組むことで参入障壁を下げられる。

また、日本合板工業組合連合会では、従来の厚物合板(24㎜、28㎜以上)よりさらに厚い超厚合板(CLP)の開発に着手した。合板に関するJAS規格の改正を図ることを目的に技術・製品開発を進め、中大規模木造建築の可能性を広げる新構造材として、新たな用途開発を目指す。

“MP木造建築”普及の鍵握る
設計者目線で部材開発

BXカネシンの「MP ねじ接合システム」。各種トラスの接合部や方杖補強に使用することで、ロングスパンを創出できる

金物メーカーのBXカネシンは、中大規模木造建築を多目的(MP)木造建築と定義して対応金物の拡充を進める。部材開発により、低コストかつ簡潔な設計・施工で実現できるMP木造建築を追求する。

2021年8月には、各種トラスの接合部や方杖補強に使用することで、7m~最大15mのロングスパンを創出できる「MPねじ接合システム」を発売した。一般的な在来軸組工法の仕口を用いたトラスでは、特殊なプレカット加工が必要となり、コストアップの要因になる。対して、「MPねじ接合システム」は、接合部をビスとボルトで構成する新発想の引張接合システムで、木材の加工は端部カットとボルト用の穴あけのみで複雑な加工は不要。加工コストを抑えられる。集成材や2×8材、2×10材といった一般流材を使用してトラスにも方杖にも使用可能なこともコスト削減に寄与する。また、ウッドショックの影響により、集成材が手に入りにくい状況となっていることを受けて、スギの製材も使用できるように追加試験、第三者機関の評価の取得を進めている。

BXカネシンがポラス暮し科学研究所と共同開発したブレース受け金物「MPブレースシート」のイメージ

各種トラスの接合部や方杖を、どんな角度で構成しても接合部耐力と剛性が一定であることも「MPねじ接合システム」独自の強みだ。360度自由に接合できるため、様々な箇所で使用でき、プラン自由度を高められる。ハウスプラス確認検査の評価を取得しており、明確な接合部の耐性と剛性により、構造計算や応力解析へ容易に組み込むことができる。

MP課の村西大介テクニカルマネージャーは、「MP木造建築の設計者には、通常、構造計算ソフトを用いて、部材のどの方向にどのくらいの力がかかり、十分な構造強度を持つのかを検討する必要があるが、『MPねじ接合システム』では、側材で主材を挟み込む構成で評価を取得したため、木材のめり込みを考慮せずに、圧縮時も引っ張り時も同じ性能で設計することができ、設計業務を大幅に簡略化できる」と説明する。

同社は、プレカット工場、設計事務所、工務店などの設計者向けに、「MPねじ接合システム」の使用方法などを解説するWEB講習会を定期的に開催。設計には無料の講習受講と設計者登録を必須とし、安全な製品の使用を促すとともに、設計者のネットワークづくりにも取り組む。意匠設計事務所などから受けたMP木造に関する相談を、登録済の構造設計者に紹介するといった取り組みを行っている。

さらに、2021年11月には、ポラス暮し科学研究所と共同開発したブレース受け金物「MPブレースシート」を発売した。M18鉄筋ブレースを採用することで、高強度の水平構面を構成する建築金物で、最大8mの大構面区画を実現する。

従来の在来軸組工法では、柱のない大空間を実現するには、コストや設計、施工などの課題がある。一般流通材を使用する場合は、コストは抑えられるが大空間の実現が難しい。大断面集成材を使用する場合は、大空間を実現することはできるが、コストアップする。また、梁や合板など部材点数が多く、設計、施工にも手間がかかる。そのため、大空間を必要とする店舗、倉庫、事務所などは、コスト・設計・施工面でメリットがある鉄骨造で建てられることが多い。

こうした課題を踏まえ、「MPブレースシート」では、在来軸組工法の水平構面に着目。梁や合板による細かな構成を、高強度の鉄筋ブレースに置きかえることで、木造でも鉄骨造のようなシンプルな構造で大空間を実現する。大断面集成材の梁や合板などの部材点数を削減できることから、従来の在来軸組工法よりも低コストかつ簡潔な設計・施工が可能になる。

また、鉄骨造から木造への切り替えを検討しやすいように、鉄骨造で用いられている汎用解析プログラムでも容易に検討できるようにするなど、鉄骨設計者にも取り組みやすい計算方法を整備した。

MP木造建築普及の鍵を握る設計者目線で、より使いやすい部材を開発し、環境を整備していきたい」(村西テクニカルマネージャー)考えだ。

パネル化などで大工・職人の負担軽減
直角を簡単に確保できる専用部材を開発

ビスダックジャパンが開発した木造システム工法「木質軸枠パネル構法」。タフボードを組み合わせパネル化した部材を活用

木造建築が中大規模化することで、部材が多くなり、施工の負担が増える。加えて、数㎜の誤差の施工ミスが重大な建物欠陥につながりかねない。大工・職人の不足は深刻化している。中大規模木造市場の拡大に向けて、現場施工を担う大工・職人の負担を軽減するソリューションも求められている。

ビスダックジャパン(大阪府堺市)は、独自に開発した耐力壁「タフボード」を活用し、ユニット建築や、在来軸組工法のパネル化などの提案を強化する。住宅事業者などは、工場で製造したユニット建築、パネル化した部材を活用することで、現場施工の負担を軽減し、住宅から中大規模木造建築の規模まで、無理なく対応しやすくなる。

タフボードは、特殊な材料は一切使用せず、木質系面材、製材というシンプル部材のみを組み合わせて高耐力を実現した耐力壁。柱間にはめ込み釘で留め付け、施工するだけで、壁倍率4・5倍の耐力壁を施工できる。

「土台の四隅の入隅部分、柱と梁の接点の直角を、正確に確保することが難しい」という大工の声を受けて開発した「タフトライ」

同社は、このタフボードを組み合わせパネル化した部材を活用した木造システム工法「木質軸枠パネル構法」を開発し、中大規模木造建築向けなどに提案を強化し実績を重ねている。「木質軸枠パネル構法」では、在来軸組工法の木造建築物の構造を5工種である外壁、床、間仕切り、小屋、屋根を分解しパネル化する。在来軸組工法の外壁下地材と内壁下地材で「モノコック構造」を構成し、その内部に梁、土台、柱などで構成する耐力壁を一体化することで、高耐力を有したパネルを工場で製造。パネルを現場に搬入し、木質プラモデルのように組み立てるだけで上棟作業は完了。プレカット材のみを用いた上棟作業と比較して工期を約半分に短縮できる。

また、新たに開発した、土台の四隅の入隅部分、柱と梁の接点の直角を簡単に確保できる“三角定規”のような形状をした専用部材「タフトライ」を発売する予定だ。「土台の四隅の入隅部分、柱と梁の接点の直角を、正確に確保することが難しい」という現場の大工の声を受けて開発。タフボードと同じ、木質系面材、製材というシンプル部材のみを組み合わせて構成。住宅から中大規模木造建築まで、建物の大きさ、空間の大きさによって、適切な部材を選択できるように5つの種類のサイズを用意した。特に、中大規模木造建築の規模になると、わずか数㎜の誤差が生じ、直角を確保できないことが、重大な建物欠陥につながりかねない。「タフトライ」を使用することで、大工の技術に左右されることなく、簡単、確実に土台の四隅の入隅部分、柱と梁の接点の直角を確保できる。

「タフトライ」は、在来軸組工法で、水平構面で水平耐力を確保するために設置する、火打ち材(斜め材)と同様の役割を果たす部材とも言える。構造計算を省略して、吹き抜け空間や勾配天井などを確保するために、水平構面の強度を確保するためには、火打ち材を設置することが求められる。火打ち材を「タフトライ」に置きかえることで、直角の精度を簡単に確保でき、かつ施工の簡略化にもつながる。現在、「タフトライ」を設置することで、水平構面の強度を高められることを確認する試験を実施中で、第三者機関の評価を取得する計画だ。

さらに同社は、「タフボード」を、耐力壁としてではなく、梁として使用する「タフ梁」の開発にも着手。2022年度中の発売を予定する。平行弦トラスや、大断面集成材の梁などを使わず、「タフ梁」に置きかえることで、6m以上の大スパンを実現できる。コスト削減、施工の簡略化にも寄与する。中大規模木造市場向けに販売していく計画だ。

構造用合板に「耐久性と耐候性」をプラス
外装を木質化できる新材料を開発

兼松サステックと住友林業は、構造用合板に「耐久性と耐候性」をプラスし外部での利用を可能にした新素材を開発。「穿孔加工合板」(左)と「溝切加工合板」の2タイプを用意

中大規模木造の外装木質化の分野においても新しい技術開発が進む。兼松サステックと住友林業の開発担当者らは、「脱炭素化、SDGsといった観点から、中大規模木造への注目度が高まっているが、構造部分の多くに木材を使用し、何千㎥もの木材を使用した耐火建築の事例は、まだ一部にとどまっている。一方、先行してニーズが高まっているのが、RC造や鉄骨造などの外装の木質化。たとえ数百㎥でも木材を表面材として使用することで、木質感あふれる外観を演出でき、建物の資産価値の向上にもつながる。また、新築、改修どちらにも対応できる」と話す。とはいえ、建物の外装部分に木を使うことは、耐久性、耐候性の面で大きなハードルがある。このハードルをクリアして、建物の外装木質化の分野で実績を伸ばすのが、兼松サステックと住友林業だ。

兼松サステックは、業界唯一の高耐久処理木材「乾式防腐・防蟻ニッサンクリーンAZN処理木材」を展開。中大規模木造向けにも販売を伸ばす。乾式処理では水を一切使わないため、木材がほとんど膨らまず、寸法や形状の変化が少ない。処理後に乾燥させる必要もなく、納品から施工まで工程の大幅な短縮にも寄与する。さらに、接着剤への影響がないため、合板や集成材、LVL、CLTなどのエンジニアリングウッド、プレカット加工済みの構造材にも対応できる。また、構造材への処理に加えて、建物の外装として木製のルーバーや、羽目板パネルなどにも採用したいという引き合いが増えている。既存の学校施設の外観を木製のルーバーで覆う改修や、オフィスビルの外装を羽目板パネルでアクセントとして演出する新築の案件などで採用実績を伸ばす。

住友林業は、外装木質化の分野で、独自に開発した木材保護塗料「S‐100」の販売を強化する。S‐100は、木の風合いである木目を生かすために、できる限り着色を抑えながらも、高耐候性を確保した水性シリコーン系木材保護塗料。木材劣化の大きな原因となる紫外線を散乱させる成分を含み、灰色化を抑制し、シリコーンによる高い撥水性のより木材内部への水の浸入を軽減する。また、低臭性・速乾性の塗料であるため、工場での塗装やメンテナンスにも適している。

この兼松サステックと住友林業が協業して、構造用合板をベースに、それぞれの技術を掛け合わせた新材料の開発にチャレンジした。構造用合板は、住宅・建築物の構造材として広く普及し、原料の国産材化も進む。住友林業は、商社として、構造用合板を仕入れ、販売する事業も展開しているが、流通段階での差別化が難しく、新しい付加価値を生み出すことは、長年の課題であった。

今回のチャレンジでは、構造用合板に、「ニッサンクリーン AZN」を乾式加圧注入し、木材の耐久性を高め、さらに、木材保護塗料「S‐100」を施し耐候性を高めることで、外装を含め外部で使用できようにした。

さらなる付加価値として「溝切加工合板」を用意した。表面材としての活用が進んでいない合板に深溝加工を施すことで、羽目板調パネルとして活用できる。小割の羽目板パネルなどを外装に使用するには、施工手間がかかるが、大判(24㎜×910㎜×1820㎜)の構造用合板を使用することで、施工の簡略化に寄与する。斜め曲線など様々なデザインで溝を加工することで、意匠性を高められる。

また、20㎜ピッチで非貫通の孔(直径10㎜、深さ14㎜)を施した、「穿孔加工合板」もラインアップする。必要箇所の穿孔部に鬼目ナットを設置し複数個のボルトで固定することが可能。例えば、天井面や壁面に、穿孔加工合板を設置することで、ハンモックをつるす、プランターを掛ける、サイクルラックとして活用する、といったユーザー側の様々なニーズに対応する拡張性を持つ材料となっているのが特徴。

住友林業の開発担当者らは、「これから市場拡大が期待される中大規模木造市場では、既存の材料でカバーできないところも出てくる。新たに開発した『溝切加工合板』、『穿孔加工合板』を、多様なデザイン設計が可能な新材料として市場投入することで、合板の使用用途拡大、さらなる外装木質化市場の拡大を目指していきたい」と話す。

木造建築を担う事業者を総合的に支援
より柔軟な木材調達、加工、施工まで

木材問屋事業、木材加工事業、建築事業、内装木質化事業などを幅広く展開し、2022年に創業100周年を迎えた長谷川萬治商店/長谷萬は、より柔軟な木材調達、木材加工、施工まで、中大規模木造を担う、住宅事業者やゼネコン、デベロッパーなどの事業者を総合的に支援しようとする動きを加速する。

長谷川泰治社長は、「中大規模木造では、規格品以外の特殊なサイズや加工形状に対応しなければいけないことが多くなる。しかし、これに対応できる大型加工機を持つ工場は全国にまだ多くはない。市場拡大に向け一つのボトルネックになっている」と指摘する。

そこで同社は2021年9月、群馬県の館林事業所のプレカット工場内に、大断面集成材やCLTなどの3D加工、特殊加工に対応できる大型加工機「ユニチーム・ウルトラUT14A」を導入した。同工場は、在来工法プレカット、金物工法プレカット、2×4工法プレカットにも対応しており、1工場で多様な加工に対応できる体制を整えている。さらに生産革新活動から生み出されたセル生産方式により需要の変動や多様化に強い生産体制を会社全体として構築していることも強みとなっている。

また、設計情報と加工情報を連携させる体制整備、その業務を担う人材の育成も中大規模木造市場拡大に向け鍵を握る。

長谷萬は、館林事業所に、中大規模木造向けの特殊加工に対応できる大型加工機「ユニチーム・ウルトラUT14A」を導入した

同社は、注力する木材業界・木造建築業界のDX推進の一環として、グローバルに普及する木材加工用ソフト「CADWORK」を導入し、設計情報をよりスムーズに連携させ、材料加工情報を作成できる体制も整備する。スーパーゼネコンや大手設計事務所などが導入を進めるBIMや3次元CADなどとの連携も可能だ。

加えて、中大規模木造では、大量の木材を使用し、特殊な設計も多くなるため、木材調達の課題もある。国産材活用を促す目的で、中大規模木造の建設を支援する、国や自治体の補助事業が充実してきているが、国産材、地域材、JAS材などの使用を補助の条件とする制約も多く、1年~半年という限られた事業期間内に木材を調達するハードルはさらに高くなる。無理やり間に合わせている事業者は少なくない。

そこで同社は、木材問屋としての豊富な実績を生かして、木材調達の支援体制の構築にも取り組む。この課題解決の一つの方向性として、建築プロジェクトの設計段階から施工者が協議に加わり建築プロジェクトを進める「ECI(アーリーコントラクターインボルブメント)」という考え方がある。

実際に、同社は、施工管理アプリなどを展開するアンドパッドが2021年に立ち上げた、建築プロセスのデジタル化を検証する「ANDPAD HOUSE」プロジェクトに、プレカット事業者、施工者として参画し、ECIを実践した。プロジェクトを進めている最中に、ウッドショックが起こったが、早い段階で入手が困難な部材があることなどが分かり、事前に対応することができた。

長谷川社長は、「『ANDPAD HOUSE』は、住宅の規模であったが、設計段階からプロジェクトに関わる複数の事業者が情報を共有してプロジェクトを円滑に進めていく『ECI』は、中大規模木造にも有効。その場合、施工者に加えて、さらに川上のプレカット工場、製材工場、林業事業者、森林所有者も含めて巻き込んで、様々な課題解決が可能になる。設計情報に基づき、原木調達や製材生産の計画を立てることができ、また、木材の在庫をふまえて最適な提案が可能となる。確度の高い需要情報に基づき、最適な木材を調達し、加工することで歩留まりを高められ、それによって得られた利益を山側の事業者に還していくことも可能になる。こうした『木造版ECI』により、木材の発注から納品に至るまでの生産や輸送などにかかるリードタイムの短縮を実現できるため、自ずと、身近な国内にある国産材、地域材への注目度、使用するメリットも高まっていく」と話す。

そのほか、慶應義塾大学の池田靖史教授と共同で、ARグラスを活用した木材加工のデジタルサポート技術の開発も進める。木材加工のデジタル化を進め、設計情報と木材加工機の情報連動を進めても、最終的には、手加工が必要な部分がどうしても残る。また、建物の規模が大きくなれば、部材の取り付けミスなども発生しやすくなる。そうした課題の解消に向けて、デジタルデータとARグラスを連携させ、工場スタッフの仕事をサポートする技術開発を目指す。

脱炭素化、SDGs、木促法改正などを背景に、拡大する木造建築を支える技術が充実してきている。中大規模木造は、規模が大きくなるだけに、1社だけで完結して取り組むには限界がある。いかに進化する技術を取り入れ、また、関連する事業者とネットワークづくりを進められるかが、中大規模木造市場を攻略していくための鍵となりそうだ。