LCCO2、担い手確保、ストック活用など 課題解消に向けた住生活施策を推進していく
国内の住宅市場が少子高齢化や人口減少といった構造的な変化を迎える中、今年度から新たな住生活基本計画がスタートした。今後、住生活行政はどのような方向へ進んでいくことになるのだろうか。国土交通省住宅生産課の課長に新たに就任した勝又賢人氏に、同省住宅局の令和9年度予算概算要求の内容などを踏まえながら話を聞いた。
――令和9年度の概算要求において、柱となる事業についてお聞かせください。
柱のひとつとなるのが、「みらいエコ住宅2027事業」です。これまで、住宅省エネキャンペーンとして補正予算で対応してきましたが、今回は補正を前提としない当初予算として国交省で2000億円を要求しています。また、これとは別に環境省がGX経済移行債で500億円を要求しており、全体で2500億円規模の予算要求となりました。
内訳としては、大きく新築では「GX志向型」、「長期優良住宅・ZEH水準」、そして「リフォーム」の3つに分かれています。今年度と比較すると、新築向けのGX志向型は環境省予算の500億円となり、国交省の2000億円は新築の長期優良住宅とZEH水準とリフォームに充てられるという枠組みです。
2025年4月にすべての新築住宅で現行の省エネ基準適合が義務化されましたが、遅くとも2030年にはZEH水準にまで基準を引き上げる必要があります。これまでの住宅省エネキャンペーンの効果もあり、大手ハウスメーカーなどでは、既にZEH水準が標準化されてきています。今後、中小工務店まで含めて、ZEH水準の標準化を促していきたいと考えています。新築だけでなく、既存住宅ストックの省エネ改修にも、これまで以上に手厚く支援していきたいと考えています。
――LCCO2の削減に向けた新たな支援も盛り込まれました。
「建築物ライフサイクルカーボン削減推進事業」として新規要求しています。これは、資材製造から施工、使用、解体までのライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を評価し、削減する取り組みを支援する仕組みです。具体的には、既存躯体の積極的な活用や、製造時の排出量が少ない低炭素建材を採用するモデルプロジェクトを支援します。
建築物省エネ法の改正によって、今後、延べ面積5000㎡以上の事務所について、着工前の建築物LCCO2評価結果を国に提出することが義務化されます。また、建築主が建築物のLCCO2評価結果および省エネ性能について、登録機関による第三者認証を受け、標章を表示できるようにする制度も創設されます。
現在、国土交通省では、公布日(2026年7月31日)から2年以内の施行に向けて、ライフサイクルカーボンの算定方法や各建材の原単位(CO2等排出量)の整備などの準備を進めているところです。
業界団体などを通じた担い手確保を総合的に支援
――「担い手確保」や「生産性向上」についてはいかがですか。
担い手対策については、住宅生産課単独ではなく、不動産・建設経済局などとも連携し、パッケージとして総合的に支援していく方針です。具体的には、処遇改善やリスキリング、業界全体のDX化といった取り組みを、個別の企業単位ではなく「団体」が中長期的な計画を立てて行う際に支援を行う新たな事業を盛り込みました。中小工務店や専門工事業者が単独で全てに対応するのは限界があるため、業界団体などが主導して連携して取り組んでいただく狙いがあります。
また、今年度末までには、住宅建設技能者の持続的確保に向けた中長期ビジョン策定検討委員会での検討内容を踏まえて、担い手確保に向けた中長期ビジョンを取りまとめる予定です。即効性のある魔法のような対策はありませんが、女性や外国人材の活躍促進、地域の担い手拡大、さらには工務店の経営基盤強化・協業化なども視野に入れた具体的な施策の方向性を示したいと考えています。
――木造建築物の市場も広がっています。現状と今後の支援はどうお考えですか。
中大規模木造建築については、技術的な課題のクリアが進み、市場として自立しつつある状況です。かつては木造の方がコスト高と言われていましたが、RC造や鉄骨造の資材価格が高騰している影響もあり、4階建て程度までなら木造の方が安く上がるケースも増えています。環境的な意義だけでなく、経済的な合理性からも木造が選ばれるようになっているのは非常に力強く、良い兆候です。
今後は、中大規模木造建築物の普及に資する先導的なプロジェクトへの支援を継続しつつ、木造設計ができる人材の育成やノウハウの共有といったソフト面での支援にも引き続き力を入れていきます。
――防災関連でも「密集集落防災事業」という新規事業が挙がっています。
近年、大分市の佐賀関や輪島市の朝市などで、地方部の集落における火災が大規模な火災に発展するケースが生じています。都市部の「密集市街地」対策はこれまでも重点的に進めてきましたが、地方部の高齢化率や空き家率が比較的高い「密集集落」特有の課題への対応が急務となっています。
こうした地域では、住民が将来にわたって安全に暮らせるよう、延焼の要因となり得る管理不全の空き家を計画的に除却するなど、より現実的で安全確保に特化した対策が必要です。右肩上がりの新たな開発を目指すのではなく、集落の安全性を高めながら、ある意味では安全にコンパクト化していくためのソフト・ハード両面での支援を想定しています。
また、その一方で引き続き住宅・建築物の耐震化に取り組んでいくと同時に、今年度から「住宅市街地総合整備事業(水害対策型)」として、住宅市街地における水害対策を総合的に支援する事業もスタートさせています。
住宅の維持保全を適切に評価し
資産価値を守る仕組みづくりを
――既存住宅ストックの有効活用について、新たな方向性があれば教えてください。
今後の非常に大きな政策課題として、「計画的な維持保全」をどのように評価し、住宅の価値に結びつけていくかというテーマがあります。現在、新築時には性能評価や長期優良住宅などで「お墨付き」を与える仕組みが普及していますが、その後の状態がきちんとキープされているかを確認する仕組みが不十分です。
マンションでは「管理計画認定制度」があり、定期的な点検や修繕計画が確認されますが、戸建住宅等でも同様の仕組みが必要です。例えば、5年ごとに定期的な点検や必要な修繕が行われていることを、第三者がしっかりと確認するような制度が求められています。
計画的な維持保全が適切に行われていることが証明され、履歴として残していくことで、30年、40年、50年と築年数が経っても高い性能や価値が認められ、金融機関からの融資も新築並みに受けられるような環境を築いていきたいと考えています。「築20年程度で一律に価値がゼロになる」というこれまでの慣行を変えるためにも、維持保全が適正に評価される市場を構築するための検討を深めていきたいと考えています。
――新たな住生活基本計画では、ストック重視の流れがより色濃くなりましたが。
既存ストックの有効活用と流通市場の形成というテーマは、令和9年度の概算要求でも様々な施策が盛り込まれています。
例えば、「既成住宅地再生推進モデル事業」では、都市部の空き家などを活用し、若年・子育て世帯など向けの住宅を供給するスキームを構築・浸透するための自治体の取り組みを支援していきます。近年、住宅価格が高騰する一方で、東京の23区やその周辺でも空き家が多数存在しています。高齢化によって、こうした状況はさらに加速し、都心への通勤圏の住宅が空き家化するケースが増えていくと予想されています。こうした住宅を若年・子育て世帯に供給することで、住宅価格高騰に対する対応策にもなります。
最近ではいわゆる「空き家税」を導入する自治体も登場していますが、使える空き家化しそうな住宅ストックを市場で流通する仕組みが求められています。
ここで紹介した以外にも、住宅分野で多くの課題があり、今後もこうした課題を解消するための住生活施策を推進していく考えです。
(聞き手:中山 紀文)
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