「脳波」で測る絶対的な建築指標  本当に心地良い空間づくりとは?

東京大学生産技術研究所准教授 川添善行 氏

 

空間の心地よさを脳波の動きから解き明かす「神経建築学(ニューロアーキテクチャ)」という新たな学問が、注目され始めている。東京大学生産技術研究所の川添善行准教授は、国内で数少ないその研究者の一人である。川添准教授に神経建築学とはどういった学問か、そして将来的な住宅設計にどのような影響をもたらしそうかなどの話を聞いた。

東京大学生産技術研究所准教授
川添 善行 氏

[プロフィール]
建築家。東京大学生産技術研究所准教授。「東京大学総合図書館別館」、旅館「望洋楼」(福井県)などの建築作品や、「このまちに生きる」(2013)、「空間にこめられた意思をたどる」(2014)などの著作がある。

──「神経建築学」とはどのような学問なのでしょうか。従来からある環境心理学との違いについても教えてください。

これまでの建築評価では、対象空間から受ける印象を5~7段階の尺度で答えてもらうSD法のような、環境心理学の手法がよく使われてきました。しかし、こうした手法は回答者のその日の気分や状況によって左右される主観的な要素が大きく、普遍的な評価軸にはなりにくいという課題があります。

そこで着目されたのが、1990~2000年代にかけてイギリスを中心に大きく発展した「神経美学」という分野です。これは、絵画などの芸術作品が人にもたらす影響を脳波から分析するもの。この脳波計測の手法を建築空間の評価に応用したものが、「神経建築学」です。

環境心理学は人間の「心」のありように着目しますが、神経建築学では心の問題にまでは踏み込まず、あくまで空間の刺激に対して「脳」がどう反応するかというデータを分析するのが特徴です。私の研究では、これまで脳波以外にも脈拍や汗などに着目した検証も行いましたが、これらの要素は気温や身体運動といった外部要因の影響を受けやすく、活用が難しい。そのため、空間からの純粋な影響を抽出するには、今のところ脳波が最も確かな指標だと考えています。私は学生時代から、建築の良し悪しを判断する絶対的な指標がないことにずっと疑問を持っていましたが、脳波から建築を評価する神経建築学であれば、この絶対的な評価ができる可能性が高いです。

ただ、建築空間はスケール感や素材のテクスチャーのほか、朝・夜といった時間の変化でも違った表情をみせます。研究をする上ではどうしても変数が多くなるため、現在は要素を絞って研究を進め、少しずつ知見を積み上げている段階です。


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