スタートアップ企業の誘惑/花びら産業の魅惑
スタートアップ企業の誘惑
昔の記者仲間から相談とも、悩みとも、愚痴ともつかぬ溜息まじりのつぶやき。「来年卒業の息子が就職せずに起業したいだなんて言ってるんだ―」。「どこかの企業で少し社会経験を積んでからのほうが―」といった昭和世代の考えは、秒速分歩の今の時代にはもう通用しないのかもしれない。というより、激変の時代だからこそ「やるなら今でしょう」ということなのだろう。若者の眼に写る海はまさに前途洋々たる澄んだブルーオーシャンなのだろう。レッドオーシャンのなかでもまれ、もだえて過してきた当方には、ただただまぶしい。20年ほど前、ベンチャー企業がもてはやされた時期があったが、いまの流行語はスタートアップ企業だ。一般的には革新的なビジネスモデルを構築し、創業2~3年で成長させる企業のことを指すが、最近はスタートアップ企業を育てようと政府も資金を含めてさまざまなかたちで支援に乗り出している。脱炭素をはじめ社会課題の解決に取り組もうという企業はあえてインパクト・スタートアップの名で多彩なサポートも得られる。さらに最近では大企業がスタートアップへのテコ入れ、支援に乗り出す動きも出ている。激変する社会環境のなかで、スタートアップしやすい環境にあると言っていいのだろう。そして次に狙うは“ユニコーン企業”。「企業評価額が10億㌦以上で、設立10年以内の非上場ベンチャー企業」となる。日本ではまだまだその数は少ないが、スタートアップするからにはユニコーンに乗る“夢”“志”を持っていい。
もとよりスタートアップといっても現実はそんなに甘いものではない。記者稼業のいわば役得は、若い駆け出しの頃から百戦練磨の経営トップと会い、取材するなかで、人生、そしてビジネス面などでさまざまに薫陶を受けることにあると思っている。そんななかで今でも印象に残っているのは“アイデアの4段階”という言葉だ。その社長はアイデア社長と呼ばれるほど新ビジネスや事業を展開していたが「実はアイデアそのものについては極めてシビアな態度でのぞんでいる。アイデアそのものを売るような人や企業は評価しない」と語る。アイデアとは頭のなかの閃きであって、大切ではあるが、それ自体ではそれほど大きな価値はない。そして、会議などでは集まってきたアイデアは4段階にわけてふるいにかけるという。
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