今、求められる屋根材

施工性、強靭性、デザイン性…変化し続けるニーズに応える

円安や世界情勢による資材価格の高騰、新築住宅市場の冷え込みなど厳しい局面を迎える住宅市場。こうしたなかで屋根材各社の動きが活発だ。職人不足、災害対応、耐久性・意匠性の向上など、高まる市場ニーズに対する取り組みが進む。

資材価格高騰で屋根材市場に動き
改修は確実な需要が続く

社会環境や住宅市場の大きな変化のなかで、屋根材の市場地図が動きそうだ。

住宅市場が新築中心からストックへと着実に移りつつあるが、さらに部資材の高騰などによる住宅価格上昇が拍車をかけている。国土交通省の「建築着工統計調査報告」によると、2022年11月の新築住宅着工戸数は7万2372戸、前年比1.4%減であるが、特に持家の減少が顕著で、2021年の12月から前年同月比で減少を続け、11月の着工戸数は前年比15.1%減と12カ月連続の減少となった。一方、好調を維持しているのがリフォーム市場。約5362万戸(2018年時点)と膨大な数にのぼるストック住宅、コロナ禍を通じた住宅への関心の高まりからリフォームの需要は根強く、矢野経済研究所の「住宅リフォーム市場に関する調査」では2022年の予測は6.5兆円を見込み、その後2030年予測の6.8兆円に向け微増を続けるとしている。

住宅の屋根材は金属系、スレート瓦、粘土瓦、アスファルトシングルなどさまざまな種類があり、その特性から、また、企業戦略から新築、改修それぞれに強みを持つ。新築住宅についてのシェアを(独)住宅金融支援機構のフラット35住宅仕様実態調査でみると、2017年度時点では金属系屋根材が42.1%と2007年度の19.5%から22.6ポイントも増加し、スレート系屋根材を抜いてシェアトップになった。2位はスレート系屋根材で32.7%と同3.3ポイント減と微減したものの3分の1のシェアを占める。粘土瓦は2007年度には33.6%とちょうど3分の1のシェアであったが、減少を続け2017年度時点で18.7%と2割を切った。新築住宅の着工減、リフォーム需要の拡大と市場が大きく動くなかで、こうしたシェアに変化がでてきそうだ。

一方、原材料やエネルギーコストの上昇を背景にした住宅部資材の値上げが相次ぐなか、屋根材も例外ではなく、各社は価格改定を余儀なくされた。住宅価格が上昇するなか、今後、コスト面を考慮した屋根材の選択が進む可能性があり、こうした面からも、シェア争いの活発化が予想される。

軽量さやデザイン性の高さ、施工性の良さなどが評価され、新築においてシェアを急拡大した金属系屋根材は、もともと、改修時における施工の手軽さからリフォーム市場で大きな評価を得ていた。それだけに、リフォーム需要の高まりは大きな追い風となる。例えば、スレート系屋根材からのカバー改修をメインに金属製の屋根材を販売するアイジー工業は、2022年度の販売量が数量ベースで昨年度比2割増と大きく増加した。新築に比べて住宅1棟の総予算との兼ね合いがないことから資材高騰の影響を受けにくく、住宅着工数にも左右されない点が大きいという。また、台風被害による屋根改修需要が急増した際、施工業者に施工性のよさなどのメリットが広く認知されたことも要因の一つとしてあげている。特に、アイジー工業は金属製屋根材に断熱材を充填し、他社との差別化がしっかりできているため価格転嫁を行いやすいという。近年では、塗装業者が提案のひとつとして扱うことも増えてきたそうだ。同社は、来期の目標として数量10%アップを目標に掲げる。

一方で、スレート系屋根材のケイミューは「原料価格高騰などの状況はもちろん苦しいが、どの屋根材においても言えることなので痛み分けではないか」(屋根材事業担当 川口剛執行役員)と、住宅市場の変動による販売の変化はあまりないという。

鶴弥の防災洋風瓦「スーパートライ110 Smart」は、デザイン性が評価され販売数が伸びる。同社ではフルプレカットシステムの導入で新築市場のシェア巻き返しを図る

対して、資材高騰などによる市場の変化を好機と睨むのは粘土瓦や国産のアスファルトシングル材のメーカーだ。日本の伝統的な屋根材の粘土瓦において3割のシェアを誇る鶴弥は、粘土瓦のシェアの巻き返しをねらう。屋根材の相次ぐ価格改定のなか相対的に粘土瓦の存在感が増すことで、需要回復を期待する。

国産アスファルトシングル屋根材トップの田島ルーフィングでは、看板商品「ロアーニⅡ」の売り上げが前年比25%増の伸びをみせている。同社は、海外製のアスファルトシングル屋根材の輸入の滞りや大幅値上げを受け、国内生産で比較的に値上げを抑えられた「ロアーニⅡ」への需要が拡大したと推測する。また、金属製屋根材の価格が安定しないなかで、アスファルトシングル屋根材は比較的価格が安定しているため顧客に提案しやすいという声もある。

市場環境の大きな変化のなか、屋根材各社はさまざまな価値提案を加速させている。

加速する屋根の職人不足
プレカット、新商品で施工性を向上

屋根業界が抱える問題のひとつが職人不足だ。国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」の報告によると、2020年の平均建設業就業者数は492万人で、ピーク時(1997年平均)から約28%減となっている。特に、暑さや高所作業への不安感から、住宅施工者の中でも屋根の施工者の不足は深刻だ。
こうしたなかで進められているのが現場作業の合理化・省力化で、その一つの提案が屋根材のプレカット化だ。省施工だけでなく、現場での裁断がなくなることで屋根の上が散らからず、動線の確保ができ作業の安全性が向上することや廃材仕分けの手間が減る、現場で粉塵、騒音が起きず周辺環境へ配慮できるというメリットがある。

ケイミューは、2020年5月からスレート系屋根材「カラーベスト」のプレカットを開始しており、これにより、約20%の工期の減少が見込める。現在プレカットは、年間約6000棟で採用されているが、住宅メーカー各社と試験的な導入をすすめており、採用を拡大したい考え。プレカットすることでの価格上昇はあるが、将来的にはプレカット分のコストアップを廃材処理費、人件費分のコストダウンで相殺できる程度にしたいと目標を掲げる。また、廃材削減の方策としては、1枚のカラーベストのうち、今まで廃材となっていた部分を現場で再加工・再利用できるような商品の導入を検討している。

鶴弥は、2022年10月に陶板屋根材「スーパートライ 美軽(みがる)」と粘土瓦「F形」にフルプレカットシステムを導入すると発表した。職人不足から、プレカット代がかかっても省力化をしたいというニーズは確実にあるといい、葺き始めや葺き終わりの、斜めになる部分などのカットを自社の工場で事前に行う。同社によると、瓦のプレカットは2006年より行ってきたが、その範囲は寄棟屋根に限っており、また定尺のものにとどまっていたため、葺き終わりなどは現場で改めてカットする必要があった。今回のフルプレカットは寄棟屋根以外の屋根や、葺き終わりを含めたすべてのカットが必要な部分に対応する。焼き物である陶板屋根材および粘土瓦はカットによる寸法の誤差が生まれやすく、フルプレカットは難しいとされてきたが、正確なロット管理や1枚ごとに寸法を計算しプレカットを行うことで可能にした。現時点で、このような粘土瓦のフルプレカットを行っているのは鶴弥のみであるという。同社執行役員の加藤正司開発部長は「粘土瓦はもともと他の屋根材より工期が長い。フルプレカットの導入で採用率の向上につながれば」と述べる。さらに、工場で出た廃材は現場でカットした廃材に比べ、不純物が混ざらないため再利用しやすいこともポイントで、プレカットの廃材は粉砕し、粘土に混ぜることで再利用が可能だ。プレカットを行わない現場では約300㎏生じる廃材を、フルプレカットをすることで廃材ゼロを、目指せる。

またフルプレカットシステムは、横長形状の「スーパートライ 美軽」と相性がよく、省力化への大きな効果が期待できる。

田島ルーフィングの新商品「OHVAN」を施工した住宅。1枚のサイズを大判化し、改修時の施工性を高めた

施工性に優れた商品を新しく開発した会社も現れた。田島ルーフィングは、リフォーム向けアスファルトシングル材「OHVAN(オーヴァン)」を2023年2月に発売する。

新築向けに販売している「ロアーニⅡ」の優れた品質性能が評価され、以前から改修用途でも使用したいという要望が多く寄せられてきた。「OHVAN」は屋根材を海外から輸入し、住宅の屋根に海外独特のデザインの採用を可能にする一方、接着力の高さで評判の高いプレセメント加工は、自社内で行い品質を担保する。また、海外で使われているものをそのまま輸入するのではなく、海外企業に新しく日本向けの屋根材製作を依頼した。

下地の影響を受けやすいアスファルトシングルは、下地と大きさが違うと、段差がかみ合わずきれいに仕上がらないため被せ改修に向いておらず、改修に使われることはほとんどなかった。「OHVAN」は、サイズを化粧スレートの葺き足に合わせたことで被せ改修を行った際にきれいな仕上がりを実現する。また、同商品は、1枚のサイズを大判化したことも特徴のひとつ。従来のシングル材では1㎡7~9枚必要だったところを5.5枚で賄えるようにし、施工時間の短縮を図った。これにより、通常3~4日かかる工事が約2日で完了できるようになった。海外のシングル材に多い、砂が取れやすいという課題も同社の技術を海外の会社に指導して改善を図った。

新商品「OHVAN」の発売に合わせクギなどの部材も新しく開発した。例えば、化粧スレートへの被せ改修を行う際、新築に使うクギでは化粧スレートの硬さに負けて曲がってしまうことがある。そのため強度を向上した専用のクギを開発、日本特許も取得した。塗装か金属製屋根材の被せ葺き、もしくは貼り換えが主であった屋根改修。ここに、施工性に優れたアスファルトシングル「OHVAN」が参入するというのは、屋根の改修市場に大きなインパクトを与えそうだ。

同社は「OHVAN」の発売に際し、営業体制を強化。これまで提案を行ってきた瓦施工会社を主軸に据え、ハウスメーカーやリフォーム会社へ展開するために部署を新設した。2年後を目安に「ロアーニⅡ」の大型タイプの発売も目指しており、新築・改修ともにアスファルトシングル材の施工性を底上げし、市場に食い込みたい考えだ。

住宅の長寿命化に向けて長く使える屋根が必要に
進む耐久性、災害対策の強化

住宅の長寿命化の動きの中で求められるのが屋根の耐久性能だ。2019年の台風19号とその後の大雨による住家被害は9万1000棟を超えるなど、自然災害が多発化、深刻化している。屋根材が強風で吹き飛ばされる、また、他所から飛来してきた屋根材によって住宅が損傷するといった被害が発生しており、災害にも負けず長く使い続けられる屋根の需要が拡大している。

鶴弥は、瓦の耐久性はほかのどの屋根材にも負けないと自負する。その自信の表れが、2023年1月に発表した粘土瓦の60年製品保証だ。これまで20年間だった保証期間を、CASBEE−戸建(建築環境総合性能評価システム)の和瓦の耐用年数が60年とされていることや、自社でおこなった1968年の製品の施工物件の検証などを踏まえ、保証内容を屋根材の機能品質である「製品の変質による割れ、欠損、釉薬面の剥離」と明確化したうえで60年に延長した。2023年1月1日以降に引き渡す新築物件で鶴弥の粘土瓦を使用した住宅会社に対し、「瓦60年保証書」を発行。保証期間内に、製品の変質による割れ、欠損、釉薬面の剥離が発生した場合は、「瓦60年保証書(写)」と住宅の施主への引渡し時期を証明する書面(写)をもって、補修や代替製品の無償提供を行う。

加藤部長は、フルプレカットや60年保証の取り組みについて、「限りある天然資源の有効活用、消費型社会からの脱却という側面から、SDGsやカーボンニュートラルの取り組みの一環でもある」と施工性や耐久面の訴求としてのみでなく、環境配慮への活動にもつながっているとアピールした。

改修用途で支持を得るアイジー工業の「スーパーガルテクト」はその技術が評価され、令和4年度 文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞

アイジー工業の「スーパーガルテクト」は、アルミニウム亜鉛合金めっきのガルバ鋼板にマグネシウムを2%添加した「超高耐久ガルバ」を採用し、高い耐久性能を実現している。亜鉛は鉄が錆びる前に酸化物・水酸化物に変化し鋼板を保護するが、マグネシウムの添加により、亜鉛がつくる保護皮膜をより緻密なものにする。この性質は切断端部やキズ部で強力な効果を発揮する。めっき付着量も一般的なガルバ鋼板より増やしており、腐食に強い鋼板となっている。このため、穴あき25年保証を海岸線から500m以遠の地域にまで拡大することができた。災害対策に関しては、近年の自然災害の甚大化を受け「何かある前に屋根改修を」という意識が強くなってきており、その際に65m/sの耐風圧性を持つなど災害に強い同商品が検討されるという。また、金属製屋根材ならではの軽量さに加え、端部を重ね合わせて横方向に連結することで高い防水性能も保持しており、雨から人々の生活を守る。「ガルテクトシリーズ」は、遮熱性塗装鋼板とラミネート紙の間に断熱材を充填することで、熱貫流率1.43W/㎡Kの断熱性能を可能にした技術などが評価され「令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(技術部門)」を受賞している。

田島ルーフィングの「ロアーニⅡ」は、災害への強さで大きな評価を受けている。2019年に近畿地方を襲った大型の台風では、暴風により屋根材が飛ばされる事象も少なくなかった。しかし、自社工場で、本体に接着剤をつけるプレセメント加工を施す「ロアーニⅡ」は、強力な粘着性を有しており、台風の際にも被害の報告がなかったという。住建営業部 近藤聡副部長は「大型台風でもロアーニⅡが飛ばされなかったことで、施工業者の方から改めて評価していただいた」と語る。

日新工業がメインとするのは、RC集合住宅の改修だ。同社はもともと防水材を扱っているため、防水材の既存顧客に向けての販売を中心に行っている。日新工業のアスファルトシングル屋根材「マルエスシングル」は高い意匠性や、屋根材として最も優れる一次防水機能を備え人気の商品だが、2022年1月に発売したマルエスシングルの高耐久商品「エクシード」の採用実績も現れ始めた。開発背景として、市場の耐久性能への注目度が高くなってきたことを一番の理由としてあげる。「5年前にアスファルトシングル屋根材の採用が多い近畿地方を大型台風が直撃したことで、自治体によっては耐風圧性や耐久性の高い工法を仕様化する動きがあった」といい、顧客から災害に強い商品の要望が高まった。

「エクシード」は、厚みを従来から70%向上し4.0㎜にすることで、約2倍の引裂強度や、耐用年数25年を実現した。「エクシード」の引裂強度は国内製造品としては業界最高水準だという。「RC集合住宅は陸屋根の部分と、傾斜のついている屋根が混在している建物も多い。陸屋根の防水と一緒に傾斜部分の屋根材も提供できることは顧客からの評判も良い」(執行役員・佐藤隆英副部長)と引き続きRC集合住宅の改修用途での訴求に力を入れる一方で、新築RC住宅での需要の掘り起こしも行っていきたいとする。

時代の要請により、これまでになかった視点での性能も求められ始めている。東京都の2025年太陽光設置義務化などを受け、パネル設置の増加を見込み、耐荷重性のある丈夫な屋根の訴求を進めるのはケイミューだ。川口執行役員は、「屋根に求められる機能は、雨風をしのぐ基本機能からデザイン、再エネ設置への対応と変化してきている」という。このようなニーズの変化に対し、軽量で耐荷重性の高いセメント瓦「ROOGA(ルーガ)」を筆頭に、再エネ設置に適した屋根材に力を入れる。「ROOGA」は、一般的な平板瓦の1/2の重量ながら、独自の形状や施工方法で雨風などの自然災害に強い。被災地の復興施設などの屋根にも採用され、少しずつ認知度が上がってきているという。リフォームに関しては屋根の状態を見極めて対応することが不可決だとし、屋根の状態に合わせたリフォームメニューを施工者に提供しているという。「長寿命化に向けて屋根材だけでなく役物や下葺材を含めてメンテナンスの提案をしていく」(川口執行役員)。今後は、PV一体型の屋根も視野に入れて展開していきたい考え。

住宅デザインのトレンドも今後のシェアを大きく左右

近年、住宅デザインのトレンドとして、シンプルなデザインで屋根の勾配が緩いものが人気を博している。

鶴弥では、売れ筋商品にも変化が現れている。防災洋風瓦のスーパートライ110シリーズで、2013年に発売した「Smart」の販売数が伸びている。同商品は、2.5寸勾配対応のフラットな形状の瓦で、直線的なデザインを創出する防災瓦。同シリーズにおいては、適度な山谷がある「TypeⅠ」が1999年の発売以降変わらぬ人気を保ってきたが、2022年3月末に、「Smart」の出荷数が「TypeI」を上回った。シンプルな住宅デザインが好まれる流れのなかで屋根にも「Smart」のようなスタイリッシュなデザインが選ばれる傾向にある。

ケイミューの「GRANDNEXT」は表面に耐候性の高いグラッサコートを塗装し美しい外観を維持する

一方、シンプルなデザインの住宅は屋根面積が小さく、個性に乏しいこともあり、屋根自体の意匠性に欠ける。これに対しケイミューは、雨漏りなどのリスクが少ない勾配のある屋根で個性的なデザインラインアップをそろえる「GRANDNEXT(グランネクスト)」シリーズの普及に力を入れる。

「GRANDNEXT」は、うろこ、ヒシ、サンド、シンプルの4つの形状を有し、部材にもこだわりのデザインを用意する。

表面塗装には耐候性の高いグラッサコートを使用することで、30年経過してもほとんど色変化がなく、外観の美しさを維持する。

屋根材各社は、厳しい市況にも負けないような優れた高付加価値商品を次々に展開している。

顧客のニーズに応えるなかで屋根はどのように変わっていくのか。市況や各社の取り組みはシェアにどう影響するのか。屋根材市場の動向に目が離せない。