気候変動×防災に舵を切る

ターニングポイントを迎える防災・減災

国をあげた防災・減災対策の取り組みが加速している。
キーワードは“気候変動×防災”だ。
これまで進めてきたダムや堤防などハードを重視した対策だけでなく、「危ない土地に住まない」、「自然の機能を活用する」など「災害をいなす防災」も重視するスタンスへのシフトである。
各省庁の施策も、自然生態系の活用やグリーンインフラの整備、ハザードエリアの利用規制、流域治水など、これまでとは異なる新たな取り組みが目白押しだ。
猛威を振るう自然災害のなか、まちづくり・家づくりにも新たな対応が求められる。

自然を活用し災害をいなす時代へ

今年6月、小泉進次郎環境大臣と武田良太内閣府特命担当大臣(防災)が共同メッセージ『気候危機時代の「気候変動×防災」戦略〜「原形復旧」から「適応復旧」へ〜』を発表した。

「気候変動はもはや気候危機と言える状況」とし、こうした時代の災害に対応するためには「気候変動リスクを踏まえた抜本的な防災・減災対策が必要」と、気候変動対策と防災・減災対策を効果的に連携して取り組む戦略を打ち出したものである。

近年、大型台風や集中豪雨により洪水氾濫、土砂災害など大きな被害が続発している。

今年も梅雨前線に伴う大雨があり九州や中部の各地で浸水や土砂崩れによる被害が多発した。また、猛暑日も多く、静岡県浜松市で国内の最高気温に並ぶ41.1℃が観測されている。

これまで蓄積してきたデータ、また経験に基づく想定をはるかに超える気象災害が頻繁に発生しているのである。

災害を”いなす”適応復興へと軸足を移す

共同メッセージでは、これまでの防災対策を新たな方向へと大きく舵を切った。

具体的には、被害を最小限にするため、古来の自然の性質を生かして災害をいなす知恵に学びながら土地利用のコントロールなど気候変動への適応を進める。また、自然が持つ多様な機能を活用して災害リスクの提言を図る「グリーンインフラ」や「生態系を活用した防災・減災」に取り組む。例えば、都市部では「雨庭(レインガーデン)」の設置や都市緑化による暑熱緩和対策など、また、河川流域では遊水機能を持つ湿地の再生・保全などを全国展開することが重要としている。

また、災害復興については、「被害を最小限にするとともに、被害を受けてもより強靭で魅力的な回復をする、いわば『災害をいなし、すぐに興す』社会を目指す」、「災害からの復興に当たっては、単に地域を基の姿に戻すという原形復旧の発想に捉われず、土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応により気候変動への適応を進める「適応復興」の発想を持って対応していくことが重要」としている。

ダムや堤防などハードの整備による対策だけにとどまらず、より柔軟な対応へと自然災害への姿勢を変えたと言ってもいい。

内閣府と環境省は、今後、このメッセージを踏まえて連携した取り組みを進めていく考え。令和3年度の概算要求につなげていくなど取り組みを推進していく考えだ。

キーワードは”気候×防災”

共同メッセージでは「各分野の政策において、気候変動と防災を組み込み、政策の主流にしていくことを追求する」と謳われており、今後、国の災害に対する施策は新たな方向へと進んでいくことになる。

国土交通省は、今年1月に国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置し、全部局で「総戦力で挑む防災・減災プロジェクト〜いのちとくらしをまもる防災・減災〜」に取り組み、先にそのとりまとめを発表した。

河川や運輸なども含め幅広い対策が打ち出されているが、住宅・まちづくりに関連するものでは、「災害ハザードエリアにできるだけ住まわせないための土地利用規制・誘導」、「災害リスク情報を活用したまちづくりの推進」、「水災害対策と連動した容積率緩和の創設」、「建築物の電気設備の浸水対策」といった柱で施策を講じていく方針を示した。

こうした流れのなか、先には日本建築学会が「激甚化する水害への建築分野の取組むべき課題〜戸建て住宅を中心として〜」との提言をまとめた。「建築の耐水性能に関しては建築学の他分野の知見を総合して対策を講じる必要がある。しかしながら、現時点ではそうした取組みは行われていない」とし、取り組むべき喫緊の課題について提言したものだ。

住まいづくり・まちづくりにおいて防災・減災対策は避けては通れない。その取り組みにおけるキーワードは“防災・減災”である。

今、“防災・減災”は大きなターニングポイントを迎えている。

【環境省】自然生態系を生かせ 事例調査、ポテンシャルマップも作製

適応復興、いなす防災へ

環境省は、気候変動により高まる防災リスクの抑制に向け、新たに、自然生態系を基盤とする地域づくりに向けた事前調査、ポテンシャルマップづくりなどを進める。


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