2023.1.17

圧巻の純木造「茨城県大子町庁舎」が《森の建築》で話題

在来工法による大型木造建築展開への道を拓く

日本の3大名瀑の袋田の滝で知られる茨城県大子町の新庁舎が《森の建築》として話題を呼んでいる。2階建て延べ5000㎡のスケールの庁舎を混構造などでなく「純木造」として建築、しかも特殊な構法ではなく在来工法により実現しており、中大規模の木造建築の促進が叫ばれる中、そのモデルとして普及への期待が高まっているのだ。

設計は公募型プロポーザルで最優秀賞を得た遠藤克彦建築研究所(東京都品川区)で、所長の遠藤克彦氏は2021年に完成した大阪堂島美術館の設計者としても知られる気鋭の建築家だ。大子町庁舎は完成にこぎつけるまで敷地変更など数々の問題に突き当たり、実に基本設計変更5回、実施設計変更2回を余儀なくされるという難産の末に2022年7月に完成した。実に4年がかりで、遠藤さんも「プロジェクトは消滅するのではないか」と心が折れそうになる場面も何度かあったと苦笑する。だが、設計変更を繰り返す中で、世の中が大きく変化、特に建築界では木造建築ブームと言われるほどに木造建築の促進が唱えられ、政府の補助金など支援策も打ち出される。その流れの中で、茨城県も木造建築の推進をうたい、タイミング的に大子町が浮上。特に大子町は八溝山を抱える7割が森林という林業の町ということもあって、新庁舎は当初の鉄骨造から木造へとかじを切ったと。難産ではあったが、その分、大子町にとっても、また遠藤さんにとっても木造建築という新分野への挑戦という何よりの機会を得たわけで、まあこのあたりのいきさつはちょっとしたドキュメンタリー映画になるかもしれない。

新庁舎は大子町を見下ろす小高い丘の上に立つ。建物高さを9メートルに抑えた2階建てで、桁行方向113・7mと細長く水平に伸びる大屋根の下に木材の架構が林立する。特徴というか見物は柱だ。上部へと延びる4本の方杖材(柱と梁をつなぐ斜めの木材)を接合した柱が2間(3600mm)間隔で並ぶ。構造耐力を補てんするためだが、これが壁のない開放的な内部空間を実現することになった。外観もこの柱が象徴的に斬新なデザインとして映えるが、庁舎内部に入ると柱がチューリップの花が咲いた様に林立するさまはまさに「森の建築」と呼ぶにふさわしい景観だ。開放的な執務空間は訪れた町民にとっても執務の様子が一望できる町民のための庁舎として親しみやすい雰囲気を演出する。「木の香も漂い森の中で仕事をしている感じ」と働く側からも好評だ。

庁舎は行政棟、議会棟、倉庫棟からなるが、行政棟と議会棟は渡り廊下で接続。2時間耐火コア区画を適用し、区画コアを境に両棟の面積を3000㎡以下に抑え、準耐火建築物として「燃え代設計」を適用。これにより木の現しを実現した。庁舎に足を踏み入れるとこの現しによって圧倒的な木造建築感を体感することになるわけだ。

純木造建築として、材積は900㎥で、これは普通の木造住宅に使われる木材45戸分にあたる。すべて茨城産材で、6割が大子町産材のまさに地産地消。そのために流通材の寸法感から逸脱しないように柱は240mm角の杉集成材、梁は240×360mmの杉BP材(接着重ね材),方杖は120×210mmの杉製材を使用するなど、在来の木造建築技術で5000㎡という純木造を実現するための工夫の数々がみられる。今、木材利用の促進で、中大規模木造建築への注目度が高まっているが、現実にはS造やRC造などとのハイブリッド構造や大手建設業者によるクローズドな独自工法によるものが多く、在来木造住宅を主力とする一般工務店が手掛けるまでにはなかなかいかないのが実情だ。その意味でもこの大子町庁舎の持つ意味は大きい。流通木材の仕様は木造流通の活性化につながるし、工務店にしても慣れた在来軸組み工法により大規模木造建築への道が拓かれることになる。

遠藤さんはこの純木造建築を手掛けた中で「木の接合部の継ぎ手となる金物がなく、特注せざるを得なかった。コストにも響く。また建築法規の規制がまだまだ厳しく、例えば渡り廊下を耐火構造にしなければならないので窓を設置できず暗い空間になってしまった。木造建築の規制合理化に向けて建築学会や行政などで議論していくことも少なくないだろう」と語るとともに「木材サプライチエーンや森林所有者などとの連携の大事さ、木材知識の勉強の大事さを身をもって知ることができたのは収穫」とも。木造建築普及のモデル、ヒントとしてこの「森の建築」大子町庁舎は一見の価値ありである。