2022.4.14

本格化するか!? 戸建住宅団地の再生

国交省は自治体の担当者などに向けて手引書を公表

国土交通省は、主に戸建住宅の住宅団地再生に取り組む地方公共団体や担当者などをサポートするために「住宅団地再生の手引き」を公表した。現在、多くの郊外住宅団地は人口減少や住民の高齢化に直面している。こうした状況はコミュニティの衰退だけでなく、利用者減少による利便施設・サービスの減退なども招き、居住者の生活環境をますます悪化させる負のスパイラルを引き起こす。さらに、住宅等の老朽化や空き家の増加なども連鎖的に発生しており、特に戸建住宅団地ではこの傾向が顕著だ。こうした状況にメスを入れるために、官民挙げての取り組みが徐々に表面化してきている。

今回の手引きについて国土交通省では、住宅団地の再生に取り組む地方公共団体の担当者等が現場での支援や関係者調整などに活用することを想定して作成したとしている。

手引きでは、同省が平成29、30年度に実施した「住宅団地再生に関するアンケート調査」を引用し、住宅団地の概況や再生の取組み状況等について触れている。その上で、再生の方向性として「①福祉・健康、②子育て、③生活サービス、④交通・移動、 ⑤働く、⑥住まい、⑦住環境、⑧防犯・防災、⑨コミュニティ」の9つのテーマを掲げ、各テーマに即した具体的な施策を相互に連携させることで、相乗効果を図る必要があるとの見解を示した。

また、再生のすすめ方を「①住宅団地の現状を把握し検討体制を組成するまでの準備段階、②取組み内容等を考える検討段階、③実際に取組みに着手する開始段階、④取組み開始後の継続段階」の4段階に分け、段階ごとの検討事項や留意点等を解説しているほか、別冊資料では住宅団地再生に関する47の事例を紹介している。

大分市の住宅団地では人口減少が鈍化

戸建の住宅団地の再生に向けては、全国各地で様々な取り組みが行われつつある。

例えば大分市では「富士見が丘団地」をモデル団地に指定し、新たな入居者の獲得に向けた子育て世代への家賃補助や、空き家等購入支援補助金の給付を行っているほか、住民交流の場を目的とする空き家を利用した公民館の設置、高齢者の円滑な外出を支援する事前予約制の乗合タクシーの運行など、多世代居住を実現するための実践的な取り組みを行っている。

自助、共助、公助を駆使し、市政と住民が一体となって活動することで、1999年以降、年平均約48人のペースで減少していた人口が、2014年には15年ぶりに前年比1名減にとどまり、人口減少の鈍化に成功した。取り組み次第で住宅団地からの人口流出を抑制できることを示した好例だと言えそうだ。

様々な問題が浮き彫りになる郊外の住宅団地。再生に向けた動きも出てきている(写真はイメージ)

民間企業の取り組みも進む 若年層の流入狙う

民間企業も積極的に再生事業に取り組んでいる。大手住宅メーカーの大和ハウス工業は、兵庫県三木市と「『住み続けられるまちづくり』の推進に向けた包括的連携協定」を2020年2月に締結し、「多世代の住民が快適で安心安全に暮らし続けられるまちづくり」の実現を目指している。

全国の郊外型戸建住宅団地に先駆けたモデル構築をしていく狙いがあり、今後は、市内にある既存の建物をリノベーションして、生活利便サービスの誘致や自治会館などの地域コミュニケーションの中核拠点を増設するといった、ストック住宅の活用を検討している。

同様の事例として、東京急行電鉄と横浜市が2012年から締結している「『次世代郊外まちづくり』の推進に関する協定」がある。住まいから歩ける範囲内に暮らしに必要な機能が整い、誰もが安心して住み続けることができるまち「コミュニティ・リビング」を将来像として掲げ、「たまプラーザ駅北側地区」をモデル地区として取り組みを進めている。

具体的には空き家を賃貸住宅やコミュニティ・レストランへ転用し、若年層の流入や地域コミュニティの活性化を促進するといった活動を行っている。空き家など既存の建物を活かすことで、まちの形態はそのままに持続可能なコミュニティの形成を図っている。2017年には協定の更新が行われており、今後は東急田園都市線沿線の別地域への展開も目指すとしている。

全国各地のニュータウンがオールドタウン化するなかで、既存の建築物やインフラなどを有効に活用しながら、新しい暮らし像を実現する住宅団地へと再生することが社会的な課題になってきている。それだけに先進的な取り組みをお手本として、全国で再生事業が展開されることを期待したいところだ。