2021.6.4

VUILDが具現化する民主的な住宅供給システムとは

見えはじめた“未来”の住まいづくり

住宅供給システムに変革をもたらす可能性を秘めた動きが胎動している。

建築テック系スタートアップのVUILD(神奈川県川崎市、秋吉浩気 代表取締役)は、BIOTOPE(東京都目黒区、佐宗邦威 代表)と協業し、デジタル家づくりプラットフォーム「Nesting(ネスティング)β」を開発、近夏にも正式ローンチすると発表した。

デジタル家づくりプラットフォーム「Nesting(ネスティング)β」

「Nesting β」を簡単に説明すると、施主自ら専用のアプリを使い間取りを簡単に入力すると、その間取りに応じた構造躯体が自動で立ち上がり、住まいづくりが完結するというもの。概算の見積りも自動で提示される。

自分好みの土地を探すこともでき、「建築の民主化」、「誰でも設計者になれる社会の実現」を目指すVUILDの理念を具現化したサービスである。

施主自ら住まいづくりに参画していくという取り組みについては、これまでも似たようなことが試行されており、それほど大きな驚きは感じない。しかし、「Nesting β」がこれまでの挑戦と一線を画す点が、住宅の生産システムの変革にまで踏み込んでいる点ではないか。

木材版3Dプリンターでモノづくりを地域に戻す

VUILDは、「まれびとの家」で2020年のグッドデザイン賞で金賞を受賞している。「まれびとの家」は、3D木材加工機「ShopBot」と地域産材を使い、地域内で完結する新しい住宅供給形態を具現化したものだ。

2020年のグッドデザイン賞で金賞を受賞した「まれびとの家」 (Photo Takumi Ota)

「ShopBot」は、いわば3Dプリンターの木材版のようなアメリカ生まれの加工機。本体価格は300万円から。本体サイズによって変動するが、大きいもので3660mm x 1520mmのサイズまで加工できるという特徴をもつ。

VUILDでは製材業者や工務店などに、「ShopBot」を約70台販売し、分散型製造ネットワークを既に構築している。データさえ送信すればどこの3Dプリンターでも同じものを製造できるように、この分散型ネットワークを利用すると製造工程をデジタル化していくことができる。また、中央集権的な産業構造から脱却し、モノづくりを地域に戻すことにもなりそうだ。

「Nesting(ネスティング)β」でも、この分散型製造ネットワークの仕組みを活用する。

施主自ら設計を確定させると、そのデータが最寄りの製材工場など送られ、ShopBot」で地場産材を使い構造躯体の加工がはじまる。独自に開発した構造躯体は、柱と梁が一体化したものになっており、断熱材が一体化したパネルとともに躯体を構成していく。

完成した構造躯体は、1日で上棟まで行うことも可能だという。開口部や空調システムなどについてもアプリ上で選択することができる。

VUILDの代表取締役である秋吉氏は、この住まいづくりについて「注文住宅のシステム化」と表現する。

注文住宅の最大の特徴である設計の自由度を損なうことなく、より効率的に高品質のものを供給できるようにシステムを構築していく―。 製造コストが安い地域や国で製造し、消費地に輸送するという旧来型の製造システムではなく、地域内でサプライチェーンが完結する分散型製造ネットワークによって、この難題の回答を導き出そうとしている。

専用のアプリで間取りを決めていくだけで構造躯体が自動で立ち上がる

ポスト資本主義的な価値を提供する住まい像

秋吉氏は「コミュニティホストの存在が重要」とも語る。「Nestingβ」では、日本各地域のコミュニティホストが提供する敷地の中から、風景やコミュニティなども参考にしながら好みの土地を選択できる。

入居後はコミュニティホストや地域住民と交流を深めながら、経済合理性では図れない暮らしの価値を創造していくことを想定している。

「今の若い世代の多くは、お金では価値判断ができない価値を望んでいる。表面的な土地や建物の値段ではなく、高くても地域内の森林資源を有効に活用する建築や、コミュニティや脱炭素などを重要視した暮らしなど、多少値段が高くなっても、そういう価値を大事にする人にポスト資本主義の住まいを提供していく」(秋吉氏)。

「お金では判断ができない価値を望む人にポスト資本主義の住まいを提供していく」と語る秋吉氏

分散型製造ネットワークを基盤とした民主化された住まいづくり。そして、ポスト資本主義的な価値観を創造する暮らしの創造。こうした理念をパッケージ化した「Nestingβ」は、表層的な“未来”ではなく、これまでの常識を根底から揺さぶる“未来”の住まいづくりを示そうとしているのかもしれない。

なお、今後、1年以内に10棟以上の建築を目指してく方針で、北海道弟子屈町で第1棟目が建築される予定だという。また、秋田県五城目町にてコーポラティブヴィレッジとして5棟同時建設を計画している。

Housing Tribune最新刊

住宅産業総合誌「ハウジング・トリビューン」は隔週金曜日発売。年間購読者には電子版News Report「Housing Tribune Weekly」を配信しています。

ハウジング・トリビューンVol.621(2021年11号)

特集:

ストック市場拡大の起爆剤になるか

中古マンションの買取再販市場が拡大している。
「リノベーション」への認知度が高まり、中古住宅の「不安」「汚い」「わからない」といったマイナスイメージが払しょくされ、昨今の新築マンションでは求めにくい、消費者の“値ごろ感”や“住みたいエリア”へのニーズに対応できるためだ。
それに伴い新規参入が後を絶たない。中古マンションの買取再販市場の最前線を追った。

目次を見る

関連記事