2019.11.6

国家が不渡りを出し、破滅する日が来る?

権力機構に立ち向かう気骨の韓国映画「国家が破産する日」

振り返ってみると、今年は国家権力などに対峙したいわゆる社会派映画を何本か観た。米国政治を陰で動かすフィクサーとしての米国副大統領を描いた「VICE」、米国のイラク侵攻の虚実を暴いた米国映画「新聞記者たち」、邦画でも菅官房長官との記者会見でバトルを展開した東京新聞の望月衣塑子記者の原案による「新聞記者」があった。そしてこのほど試写会で観たのが韓国映画「国家が破産する日」だ。今も韓流TVドラマは人気のようだが、迂闊にも当方、韓国映画には馴染みが薄く、この映画も予備知識なしで刺激的なタイトルに惹かれて観た。最近は眠気を催す(年齢のせい?)映画が多いのだが、これは違った。2時間余、スクリーンを追い続け、エンドロールが流れた後も、すぐには席を立てず。腕組みし、唸るしかなかった。

映画の解説は他者に譲るとして、同映画は1997年に起きた韓国の未曾有の経済危機を描いたもの。タイから始まった通貨危機がアジアに及び、韓国ウオンもヘッジファンドの投機対象として狙われ金融危機に発展したのは、記憶に残っている人も多いだろう。映画は国家の不渡りという国家破産危機の中、韓国銀行の通貨政策チーム長の女性が実態をオープンにし国民の犠牲を減らそうと政府に立ち向かう姿を軸に、IMF支援をめぐる攻防、そしてIMF支援の結果としての町工場など中小企業の倒産、経営者の自殺、さらにはIMF支援を見越して不動産投資の大博打を打つ金融コンサルタントの動きなどを交えてまさにドラマチックに描く。そしてみどころは、国家危機をあくまで国民には知らせまいとする政府、秘密裏に進めるIMF との交渉、韓国経済侵食を狙うIMFの思惑、中小企業を犠牲にしての財閥など大企業擁護の政府、堕ちたマスコミーーなどを赤裸々に炙りだしたことだ。緊迫のシーンの連続に、韓国映画のエネルギーと水準の高さを見せ付けられた思いで、その気骨にも脱帽だ。

翻って日本はどうか。決してジョークではなく、強者、権力者に対してあまりにも忖度がまかり通る薄気味悪い嫌な世の中になりかけてはいないか。現に映画「新聞記者」は当初、製作者らが上映館を探すのにも苦労したと言う。何か、あれこれ言われたくない、面倒くさいことには拘わりたくない、との風潮が強すぎる。メデイアの世界だってそうだ。ジャーナリズムの最大の使命、権力者監視の責をどこまで果たしているか。文春砲の独り舞台を指をくわえて眺めているようではあまりにも情けない。映画「新聞記者」の広告に「映画こそ真に自由な表現を」のフレーズをみたとき、忸怩たる思いに駆られた新聞記者は少なくなかったはずだ。大手マスコミのニュースだけを見ているとフェイクとは言わないまでも裏や底にうずもれている真に大事な庶民の考えなどを見逃し、誤解を生む危険も多い。日韓関係もそうだ。関係が悪化するなか、善悪、好き嫌いを抜きにして、様々な場面、機会を通じてそれぞれの良さ、立場を理解し、学ぶことが大切なのだろう。そんな当然のことをこの映画は思い起こさせてもくれた。やはり映画はいい。

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