2050年に向けた住宅・建築分野の施策展開 新築だけでなく既存住宅のZEH化支援も拡充
環境省 地球環境局 住宅・建築物脱炭素化事業推進室長 寺井徹 氏
2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向け、わが国のエネルギー消費の約3割を占める家庭・業務部門の脱炭素化は待ったなしの状況にある。
4月14日に公表された2024年度の温室効果ガスの排出量は、前年度比でマイナスだったものの、引き続きの取り組みの重要性を語っている。
環境省地球環境局住宅・建築物脱炭素化事業推進室の寺井徹室長に、2026年度における住宅・建築分野での施策展開や、今後求められる住宅・建築物のあり方について話を聞いた。
── まず、住宅・建築分野における脱炭素化の中長期的な目標についてお聞かせください。
我々が掲げている大目標は、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」で示された、2050年までにストック全体で住宅・建築物の省エネ性能をZEH・ZEBレベル相当に引き上げるというものです。
これを実現するためのマイルストーンとして、遅くとも2030年度までには「新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の省エネ性能を確保すること」を目指しています。
2025年度からは新築住宅の省エネ基準適合が義務化されましたが、これを遅くとも2030年度には義務基準をZEHレベルまで引き上げる方針を示しています。
今の状況では、一定程度の割合の新築住宅がZEHレベルの省エネ性能を有するに至っていますが、業界全体がこの流れに無理なくついていけるように、国土交通省、経済産業省とも連携しながら、補助事業などを通じて民間の事業者の方々を支援しているところです。
── 環境省全体でGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する中で、住宅・建築分野における対策をどう位置づけられているのでしょうか。
補助事業を通じたGXの取り組みは主に環境省と経済産業省が連携して進めていますが、大きな役割分担として、経済産業省は産業分野、そして環境省は「くらし」や「地域」の分野を担っています。そして、「くらし」や「地域」といった部分で重要になるのが、住宅・建築物分野での対策です。そのため、環境省のGXにおいて、住宅や建築物の省エネ化は柱の一つと位置づけています。
例えば窓リノベ事業などはGX予算を活用して実施していますが、単なる設備導入ではなく、暮らしをより脱炭素化へと進めていく上でも重要な要素なのです。
新築住宅のZEH化へ
課題は賃貸と建売住宅
── 現在、新築住宅のZEH普及状況について、どのような手応えを感じていますか。
ハウスメーカーの方々が供給する住宅に関しては、既にZEHが当たり前の水準になっています。また、地域工務店の皆さまも積極的に取り組んでおられます。今後の課題は、賃貸住宅や一部の建売住宅です。
賃貸住宅については、オーナー側が断熱性能を上げても、光熱費削減のメリットを受けるのは入居者になるため、オーナー側が初期コストを負担するモチベーションが低いという構造があります。
借りる側が「ここはZEHだから選ぼう」という意識を持つ社会にすることで、供給側に投資意欲が湧くようになれば良いと思います。補助金などで初期投資を支援しつつ、そのような市場環境を作っていく必要があります。
── 資材価格の高騰が続いています。補助金の役割がより大きくなっています。
住宅価格が上がる中で、さらに断熱性能を上げるとなると、さらなるコスト増に繋がってしまいます。しかし、住宅は数十年にわたって住み続けるものです。将来の光熱費削減効果や、健康で快適な暮らしという「QOL(生活の質)」の向上、資産価値の維持という観点から見れば、決して高い投資ではないことを伝えていく必要があります。さらに言えば光熱費も高騰しているので、光熱費削減効果がより大きくなる可能性もあります。
消費者の方々の背中を押すという意味でも、補助金などの支援策が重要になると見ています。
「みらいエコ住宅2026事業」では、ZEHより高い省エネ性能を目指す「GX志向型住宅」への補助を行っています。GX志向型住宅への補助については、2025年度も実施しましたが、公募開始から2カ月ほどで予算の上限に達し、予想以上に反響がありました。2026年度については、750億円の予算を計上しており、前年度よりかなり多くの住宅に補助を行える見込みです。
2050年までにストック全体でZEH水準になるためには、新築住宅については、少しでも多くZEHを上回る性能を確保することが求められます。GX志向型住宅への補助を通じて、住宅性能をさらに引上げていきたいと考えています。
── 新築向けの「ZEH支援事業」も実施されていますが。
2026年度予算では、基本となる「ZEH」への補助は1戸あたり55万円(寒冷地等は65万円)ですが、より高度な省エネ・創エネ性能を求める「ZEH+」の要件を満たす場合、補助額は80万円(寒冷地等は90万円)になります。また、蓄電池などを導入した際の追加補助もあります。
ライフサイクルの視点も取り入れた支援策を
── 今回、新たに「ライフサイクルカーボン」を評価する仕組みが導入されたと伺いました。
これまでは住宅を使用している間の「運用時のCO2排出量(オペレーショナル・カーボン)」に着目してきましたが、今後は建てる時の資材製造から解体まで、一生涯の「ライフサイクル」で脱炭素を考えるべきです。
国土交通省を中心に、5000㎡以上の非住宅の建築物を対象として、ライフサイクルカーボンの算定を義務化する法律に関する検討が進められていますが、住宅分野においてもこの考え方を導入していくことが重要であると考えています。
このため、26年度からは、5階建て以下の中・低層集合住宅に対して、ライフサイクルカーボンの計算を実施した場合、1戸あたり10万円を上乗せするメニューを新設しました。
今後の住宅・建築分野における施策においても、ライフサイクルカーボンの視点を盛り込んでいきたいと思います。
既存住宅のZEH化に最大250万円の補助
── 既存住宅のリフォーム、特に「先進的窓リノベ」の手応えはいかがでしょうか。
窓リノベ事業は非常に大きな反響をいただいています。補助を実施した戸数は、23年度の約24万戸から24年度は約32万戸、そして25年度は約36万戸超までに増加しており、窓の断熱改修の重要性が社会全体に浸透してきたと感じています。
── 既存住宅の断熱改修に対する補助も実施していますが。
これまで、窓以外も含めて断熱リフォームを実施される方に対して、1戸当たり120万円を上限として、断熱改修に関する費用の3分の1を補助する制度を行ってきました。この事業については継続的に実施しています。住宅1棟ではなく、部分的に断熱改修する場合も補助の対象になります。
これに加え、26年度からの新規事業として、既存住宅をZEHレベルにまで改修する工事への補助も行います。1戸当たり250万円を上限として、対象工事の3分の1相当を補助します。この補助事業を通じて、既存住宅のZEH化に向けた本格的なリノベーションを後押ししたいと考えています。
事業者の方が、古い中古住宅を買い取ってZEH化して再販する場合などにも活用いただけます。
日本には約6500万戸もの住宅ストックがあると言われていますが、そのうちZEH水準のものは、まだ限られています。2050年を見据えると、新築ではGX志向型住宅の普及を進め、あわせて既存ストックのZEH化改修を促していくこと必要があります。環境省としても、そこを目指した施策展開を今後も行っていくつもりです。
(聞き手:中山紀文)





