「規制・誘導・事業」で都市を再生 新自由主義的開発への警鐘
筑波大学システム情報系社会工学域 谷口 守 教授
まち、交通環境への投資が実需を生む
住宅価格高騰が特に顕在化してきているのが東京をはじめとする大都市部だ。
背景に何があるのか、住宅価格上昇を抑えるにはどのような方策があるのか。
都市構造や都市の広がりのメカニズムなどが専門の筑波大学システム情報系社会工学域の谷口守教授に聞いた。
人口減少を踏まえた空間的な視点での検討を
――現在、国土交通省の住宅宅地分科会において次期住生活基本計画の策定に向けた議論が進んでいます。11月4日に公表された中間とりまとめでは、2050年に目指す住生活の姿と当面10年間(2035年まで)に取り組む施策の方向性として主要11項目が示されました。
分科会長代理として参加する谷口教授は、途中の議論で、⑧「持続可能で魅力ある住環境の形成」の中に、2050年に目指す姿として「市場機能を活用した持続可能な住宅地の形成」と記述があることに対して、「市場機能を放置し失敗したから今様々な問題が起こっている。市場機能に任せるだけでなく、行政による規制・誘導・事業の役割を明確にすべき」と発言されていました。この発言に強いインパクトを受けました。この発言にはどのような真意があるのでしょうか。どのような行政による規制・誘導・事業が必要と考えているのでしょうか。

市場に任せることは悪いことではないと思っています。政府の失敗も市場の失敗ももちろんあります。両方の問題を考えながら一番いい選択肢を取っていけばいいと思います。
しかし、今回の住生活基本計画の議論において、「緩やかな市場原理」という表現や、役所が「市場に任せる」という姿勢を取っていることに違和感を覚えました。市場原理はコントロールできないものであり、政府として何をしようとしているのかプランが見えてこない。それであのような発言をしました。
私は、住宅というよりは、都市構造や都市の広がりのメカニズムなどが専門です。交通や人の移動などが都市にどのような影響を与えるのかといった観点から研究に取り組んでいます。都市にしても住宅にしてもコントロールする上でのメニューを整理すれば、必ず「規制」「誘導」「事業」の3つのいずれかに該当します。それぞれに関して、住宅政策で何をやっているのかを考えたときに、よくわからないというのが正直な印象です。
住生活基本計画の議論では、建物単体の話しかしておらず、建物がどこにあるのか、建物の立地や分布についての議論が不足していることを住宅局に対して指摘し続けています。建物のライフサイクルアセスメント(LCA)算定の議論も進んでいますが、都市と郊外では、その建物を使う人のCO2排出量が4〜5倍も異なるにもかかわらず、その点が考慮されていません。建物を使う人のことまで考えて、どこにつくったらいいかということを考える必要がありますが、取り組みが不足しています。
一方、都市局では2014年に立地適正化計画をつくり、面としては都市計画を考えていますが、点としての建物のことも考えなければ有効な方策は取れません。
建物単体ではなく、人口減少を踏まえた空間的な視点での検討が重要だと主張していますが、その意見がなかなか省全体に形として反映されない。「局あって省なし」の状態だと感じています。
11月に公表された住生活基本計画の中間とりまとめでは、主要11項目のうち、⑧「持続可能で魅力ある住環境の形成」だけ現時点では評価指標が示されていません。このままだとこれは実質的に「目標年次までにこういうことをやるつもりがない」と見られてしまいます。
タワマン乱立は「がん細胞」
――「規制」「誘導」「事業」の3つのメニューを使って具体的にどのようなことができるのでしょうか。
私は、もともとはコンパクトシティが一番の専門でしたが、最近は「バイオミメティクス」(生物模倣学)というテーマで研修や講演をすることが増えています。都市を生命になぞらえ、無理なく命を永らえさせるためには何をすべきかを考える。このような生き物になぞらえて知恵を得る取り組みを「バイオミメティクス」と呼んでいます。

「バイオミメティクス」の観点から、今の日本の都市は、「成人病」や「メタボ」に例え、健全でない状態にある、病気にならないようにするにはどうしたらいいのか、「規制」「誘導」「事業」の事例を挙げて話しています。
規制に関しては、都市部で急増する高層住宅やタワーマンションに私は規制をかけるべきだと考えています。
今の東京などでは、高層住宅やタワーマンションが乱立し、住宅がたくさんあるのに、多くの若い人が買えない状況です。人口はこれから減少するのに、高層住宅やタワーマンションを増やしていいのか。タワーマンションが急増している地域を「がん細胞」に例え、人口減少時代にもかかわらず特定の地域だけで人口を増やすビジネスモデルには問題があると指摘しています。
こうした問題は2009年頃、大阪の千里ニュータウンで、日本で最初に顕在化しました。
高度成長期に郊外で建設された郊外ニュータウンなどでは古くなった集合住宅の多くがリニューアルの必要な時期となっています。このような課題に対し、往々にして行われるのが低層や中層であった住宅地を高層住宅、場合によってはタワーマンションに建て替えるやり方です。なぜこのようなキャパシティを増やしてしまう方法がとられるかというと、この建て替えの費用を単独の建て替えプロジェクトで賄おうとするため、分譲できる床の面積を増やし、その売却収入でこのプロジェクトのファイナンスを行おうとするからです。地域全体でどう縮小するかを考えなければいけない時に、このようなピンポイントで膨張型の再開発が進められると都市圏全体の症状は明らかに悪化します。しかし、新自由主義の〝儲けるものが正しい〟という論理が蔓延しているため問題ないということになっています。企業が収益を上げるための行動を行うことは当然であるだけに強力で、その感染力は極めて強いため、私はこれを〝がん細胞〟と呼んでいます。がん化を止め、改善させるには規制が必要です。私は不動産学会の理事も務めていますが、健全な形で不動産業界が発展していってほしい。新自由主義ベースでやっていると健全な発展はないと思います。
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