東京人のお上りさん/空き家の数だけ家族の歴史、物語が
東京人のお上りさん
東京生まれ、東京育ちの家人が久方ぶりに友人と都心に出掛け、帰宅して放ったのが「すっかりお上りさんになったみたい」の言葉。都心のあまりの変ぼうぶりに、ただ驚き、約束の場所に行くのに右往左往、ウロウロ、キョロキョロの態だったらしい。家人に限らない。東京で仕事をする自分だって数年ぶりに足を踏み入れた都心地域がまったく若い頃の面影を残さず、超高層ビルやタワーマンションが林立する姿に、迷路にはまった気分になったのも一度や二度ではない。コロナ禍のなか、地方都市への転出増加が話題になったが、災禍が過ぎればまた東京への転入増が続いている。東京脱出はやはり仇花だった、と言うしかないのか。帰宅した家人とは慣れ親しんだ子どもの頃からの東京のアチコチへ散歩がてら、再発見の旅に出掛けようか、と盛り上がった。そう、ワクワクのお上りさん気分でだ。“思い出探し”の側面もあるが、こうなるともう演歌の世界のようで―。
本気とも冗談とも言える東京人の東京見物願望だが、超高層ビルなどと引き換えに渡してしまっているのが、土であり、植物(野草)だろう。牧野富太郎が「雑草という名の植物は存在しない」と語っていたが、その雑草さえも都心では見かけることが少くなくなった。いまや都会人にとって雑草は慈しみの貴重な存在だ。そこで当然のことながら、憧憬の的になるのが、都会人が失くしたものがある“地方”であり、地方の自然という資産だ。TVの“ポツンと一軒家”なる番組が人気というが、これも都会人にとって望みはするが、自分はできはしない憧れの一光景、ライフスタイルだからだろう。
だが、そんな情緒的な想いをかき消すように地方への旅行で目の当たりにするのが、その寂れ具合いだ。先日も、東京から1時間半ぐらいで湯質では貴重な山梨の温泉へ出掛けようとしたら、冬場は駅前からの路線バスが出ないのだとか。もちろん、送迎のクルマを出せるはずもない小さな温泉旅館。諦めざるを得なかったが、残念な気持ちというより、ライドシェア的な試みも考えられないのか、との悔しい思いしきりだ。数年のうちにこの温泉地はポツンと温泉になってしまうのか。温泉マニアの秘湯になってしまうのか。本当にもったいないと思う。
地方創生が叫ばれてからもう10年以上が経つ。だが、その成果は見えてこない。それどころか、地方鉄道や路線バスなど公共交通の廃止が相次ぐ。地方の衰退を防ぎ、関係人口の増大、地域活性化の核となるインフラを犠牲にして地方創生の実など上がるはずがないではないか。本末転倒なのだ。少子化、高齢化、人口減少など抗えない現実を頭では理解しても、有効な手立てを打てない永田町の姿はまさに切歯扼腕だ。司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」ではないが、極東のこの小さな国を大きく輝かせるのは、人であり、人の智恵だろう。高齢化・少子化など日本と同じ悩みを抱える国は多い。世界のこの小さな国への眼差しは今も熱いはず。“楽しい日本”はそんなもがき、労苦のなかから初めて生まれるような気がする。
空き家の数だけ家族の歴史、物語が
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