[健康]健康と住まいの歴史 見直された住宅環境と事業者の責任
人が多くの時間を過ごす住宅は、その環境が身体に与える影響も大きい。ともすると、心身を落ち着けるはずの住宅が居住者の健康を蝕むことにもなりかねない。住まいの高気密・高断熱化が進むなか、いま改めて住まいと健康について顧みる必要性がありそうだ。
あらわになった住宅の健康被害
品質が大きく問われるきっかけに
日本社会が住宅の室内空気環境について考える大きなきっかけになったのが、シックハウス症候群である。
シックハウス症候群とは、カビ・ダニ、粉じん、ホルムアルデヒドなどによる室内空気環境の悪化で眼、鼻、喉、皮膚などの刺激症状や頭痛、倦怠感を発症するもの。1970年代に、オイルショックの影響などで冷暖房効率を向上するために建築物の気密性が高まり、欧米において「シックビルディング症候群」が問題となった。日本のオフィスについては、70年に「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)」が制定され、早い段階で粉じん濃度の測定や換気などが進められたため、さほど問題にならなかったが、90年代に入り日本の住宅でも高気密化、高断熱化が推進されるなかで、住宅における健康問題がクローズアップされることとなる。
ハウジング・トリビューンでは94年11月発刊の62号で、シックハウス症候群を扱っている。当時、ビルの空気環境には規制があったのに対し、特に規制のない一般住宅の方がむしろ危険であると警笛を鳴らしていた。95年には厚生省が健康に害を及ぼす恐れのある汚染物質を放散する住宅建材について、使用状況や人体に与える影響、防止対策などをまとめた「住宅建材ガイドライン」を作成、発表したが、基準を設けることについては賛否があり、行政施策はガイドラインの作成にとどまった。しかし、同年7月の製造物責任法(PL法)施行に先駆けて(一財)ベターリビングが設置した「住宅部品PLセンター」には「入居して2週間で子どもの目が真っ赤になり体調不良で入院」、「築2年、室内に入ると目がチカチカする」などの身体被害の相談も寄せられていた。
96年になると、いよいよシックハウス症候群が大きな問題として注目を浴びるように。国会では、関連行政や団体の横断組織である「健康住宅研究会」が発足し、居住者の身体に悪影響を及ぼさない”健康住宅”の設計ガイドライン策定に向けて本腰を入れた取り組みが始まった。
その後、97年には、厚生省が日本で初めてホルムアルデヒドの室内濃度の基準を示し、翌年には健康住宅研究会が最終報告として「設計・施工ガイドライン」と「ユーザーマニュアル」を発表、どのようにして健康に影響の少ない空間をつくるのかについて方向性を明らかにした。
一方で、PLセンターに寄せられる室内空気汚染の相談は増加、複雑化し、同センターは学識経験者や建築専門家などを迎え機能強化するに至った。そうしたなかで99年3月に閣議決定したのが「住宅の品質確保の促進等に関する法律案(品確法)」だ。健康住宅問題、欠陥住宅問題などがクローズアップされ、行政において消費者重視の視点が強まるなか、「性能表示制度の創設」、「瑕疵担保責任の充実」、「紛争処理体制の整備」の3つを柱にしたこの法律は住宅産業界の構造を根本から変えるものであった。また、エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)に基づく住宅の「省エネルギー基準」が改正されたが、これにおいて「建築主は換気回数を住宅全体で一時間につき0.5回以上とすること」など換気計画の策定を求めた。
同時期に、住宅生産団体連合会は、ホルムアルデヒドを中心とした室内空気汚染物質の放散量を低減するための指針をまとめた。基準や推奨レベルではないが、連合会及び構成団体の会員に対して、同年10月に着工する物件から内容を実施するよう周知を進め建材産業協会が99年10月に「室内環境対策建材の表示」制度を前倒しで開始するなど建材業界の取り組みが加速した。
2000年に入ると、品確法の施行に向けて詳細が決まり、「性能表示制度」にも空気環境の項目が設けられた。01年にはVOC濃度などのシックハウス症候群の対策へ一歩踏み込んだ基準も追加、その後03年には改正建築基準法でホルムアルデヒドなどの使用禁止が義務付けられた。
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