2023.9.5

積水ハウス、愛着を編み込み、住み継げる家 世界的デザイナー皆川明氏とコラボ

積水ハウスは、ファッションブランド「ミナ ペルホネン(minä perhonen)」とのコラボレーションモデルハウス「HUE(ヒュー)」を2023年4月、駒沢公園ハウジングギャラリーにオープンした。住まい手が愛着を編み込み、長く住み継いでいくことができる家とはどのようなものなのか。家づくりのヒントがちりばめられている。

積水ハウスは、顧客の”感性”を住まいに映し出す新デザイン提案システム「Life knit design(ライフ ニット デザイン)」を開発し、23年6月から全国で始動した。流行のインテリアテイストを追うという考え方から脱却し、普遍的な住まい手の”感性”に寄り添うインテリアの提案手法を一から作り直した。さまざまなインテリア雑誌や同社の顧客の住まいの実例や展示場などから集めた約6600点のインテリア画像を分析し、その印象を言語化したところ、おおらかに「6つの感性フィールド」に分類できた。さらに、各感性フィールドに基づき床・壁・天井のベース素材に関してラインアップを総点検し、大幅に絞り込み刷新。シンプルで美しい空間(床・壁・天井)と、家具や小物を組み合わせるインテリア提案システム(特許出願中)を構築した。

ダイニング(12.3畳)とキッチン(8.3畳)。R形状の開口で2つの空間を緩やかにつなげる

R&D本部 デザイン設計部 デザイン企画グループの足立奈穂 グループリーダーは「シンプルで美しいベースがあれば、そこに家具や小物を組み合わせていくことで十分に感性に対応していける。SNSなどにインテリアの情報があふれているが、本当に豊かに長く住むために核となることは何か、一度立ち止まり考えてもらいたい。『Life knit design』がそのきっかけになれば」と説明する。

家族、暮らしの変化に対応

「Life knit design」を活用した家づくりを体感できるモデルハウスも駒沢公園ハウジングギャラリーに23年4月、オープンした。協力を仰いだのは世界的なデザイナーとして活躍する皆川明氏だ。皆川氏は1995年に「minä perhonen」の前身である「minä」を設立。テキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間ディレクションなど、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。「せめて100年続く」ブランドを標榜し企業経営を実践。国内外の産地と連携しながらテキスタイル開発、ものづくりを行い、多くのファンを持つ。こうした皆川氏の考え方に共鳴し、「Life knit design」という新しいデザイン提案システムを導入するにあたり、住まい手が愛着を編み込み、長く住み継いでいくことができる家づくりを依頼した。「Life knit design」を用いて皆川氏とデザイン設計部がやり取りを繰り返し、約1年をかけてモデルハウスを完成させた。「家族、暮らす人のいろいろな想いが1つの輪としてつながり合いながら、多様性も持つように、色相という意味を持つ『HUE(ヒュー)』と名付けた。通常ハウスメーカーは、住む方は何歳くらいで、といったペルソナを設定して家を建てるが、100年というスパンで見ると、家族構成、暮らし方が変わっていくことを前提にしなければいけない。家族や暮らし方の変化に呼応するような住まいをつくりたいと思った」(皆川氏)。

「光・風・目線」の“導線”を重視した空間の象徴といえるスキップフロアの空間。約4m の天井高を確保。読書などに没頭できる
リビングとダイニングの導線上、中庭が一望できる箇所にはコージーコーナーを設けた

「光・風・目線」の“導線”を重視

モデルハウスづくりの中で、皆川氏がアドバイスしたのは「光・風・目線」の”導線”を重視することだ。「住宅は面積や容積率で語られることが多いが、広さを感じるのは実は視界が大きく影響している。光の入り方も心地よさに大きな影響を与える」(皆川氏)。その象徴と言えるのが、1階から2階につながるスキップフロアに設えた空間だ。9畳ほどのコンパクトな空間だが、約4mと住宅内で最大の天井高を確保し、広さを感じられるように工夫した。北側の壁の高い箇所に窓を設置し、時間によってさまざまに陽の入り方が変化し、室内の雰囲気を変える。夜はほのかな明かりで読書などに没頭できる。

自身で料理をつくる皆川氏の要望で、ダイニング、キッチンの配置にもこだわった。ダイニングとキッチンを独立した空間として配置、R形状の開口で2つの空間を緩やかにつなげる。ダイニングの天井は、居心地の良さを追求し、あえて窓に向けて下がっていくように勾配をつけた。

床・壁・天井のベース素材も厳選した。同社は22年、無垢木材のインテリア材などに定評のあるマルホンを子会社化した。マルホンが展開する草木染めしたフローリング材、ベイマツの上質な天井材などを効果的に使用。また、ミナ ペルホネンが展開するテキスタイルもソファやカーペット、カーテンなどに採用。経年による質感の変化、味わいが増していくことを楽しむことができる。

2階は8m×6mの大スパンの無柱空間を確保。可変性を持たせた間仕切りなどで仕切っているが、将来的に簡単に間取りを可変できる

2階は、長く住み継いでいくことができることを分かりやすく示す空間づくりを行った。ベースとして8m×6mの大スパンの無柱空間を確保。可変性を持たせた間仕切り、家具などで空間を緩やかに仕切るが、将来の家族構成の変化、暮らし方の変化により、簡易的な工事で間取りを変えることが可能だ。「HUE(ヒュー)」は、完全予約制で見学を受け付けている。