春は春であった/この世は巡礼である
春は春であった
アメリカの南北戦争は、北軍司令官グラント将軍が1865年4月3日、南部の首都リッチモンドを陥落し、4年にわたった内戦は事実上、終止符を打つ。翌日、リンカーンはこの首都に入る。黒人奴隷を解放する自由主義国家、アメリカ合衆国の誕生だ。グラント将軍と南軍のリー将軍との会見でグラント将軍が提示した降伏の条件は実に寛大なものであった。南軍の将兵には食糧が与えられ、各々の馬に乗って故郷に帰ることを許した。この時のグラント将軍の言葉が伝わる。「彼らは春の耕作に馬がいるだろう」。
春4月、銃を鍬や鋤に持ち代えて大地を相手に―の平和への想いが込められた言葉といえよう。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻、TV画面などから伝えられるウクライナ都市の破壊は悲惨だ。多くの人の命が理不尽に奪われて、隣国に難民が溢れる。停戦協議の行方は予断を許さないが、国民の心の傷はあまりに深い。街の復興はもとより憎しみを伴う心の復興はそう簡単ではなかろう。“春の耕作”に向かうことができるかどうか。近代戦争に勝者のいないことに気づかない人間の愚かさに溜息のほかない。「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。他人の幸福の中にこそ自分の幸福もある」とは、ロシアの文豪、トルストイの言葉。今のロシアの為政者はその偉大な先人の思想や歴史のどこを学んだのだろうか。
トルストイの名作『復活』の有名な書き出しも素晴しい。
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