たった10℃の室温差で血圧上昇に大差 厚着をしても防げないことも明らかに
奈良県立医科大学 疫学・予防医学教室 教授 佐伯圭吾 氏
住まいの温熱環境が住まい手の健康を大きく左右することが、近年の研究成果から分かり始めている。奈良県立医科大学の佐伯圭吾教授は、「住宅業界の関係者が思っている以上に、住まいのクオリティを高めることにより、冬の死亡リスクの低減効果が期待できる」と話す。
奈良県立医科大学 疫学・予防医学教室 教授
佐伯 圭吾 氏
1999年に自治医科大学医学部を卒業後、奈良県の十津川村、曽爾村で地域医療に従事。その後、奈良県立医科大学疫学・予防医学教室にて、住環境が健康に及ぼす影響に関する疫学研究を実施している。
健康と住まい【後編】
──住まいの温熱環境と健康の関係性を明らかにするために、どのような研究に取り組まれているのでしょうか。
冬の過剰死亡の半数以上が心血管疾患に起因しています。寒い環境下にいることで心血管疾患を引き起こすメカニズムは完全には解明されていませんが、寒さの影響による血管収縮に伴う血圧上昇が一因になっていると考えられます。そこで我々の教室では、被験者の方たちに、実験研究で寝る前から起きるまでの温度をこちらで調節した部屋で一晩過ごしてもらい、その間の血圧がどう変化するかを調査しました。無作為化比較試験と呼ばれるもので、146人の被験者の方たちから、無作為に、温かい部屋で過ごす人と、寒い部屋で過ごす人を割り付ける方法で調査を実施しました。部屋を開けるまで自分がどちらの部屋に割り振られたのかはわかりません。これは医学研究で非常に質が高いと言われている調査方法です。例えば、薬Aと薬Bでどちらの方が、効果が高いかを調べる方法として、また、重要な治療の優劣を判断する際にも使われています。しかし、住環境が健康に与える影響について調査する方法としては、ほとんど活用されていなかったので、そこにトライしました。この調査方法のメリットは、無作為に割り付けているので、いろんな特性を持つ方が平均してそろうことです。この調査で割り付けられた73人対73人の集団は、ほぼ同じくらいの平均血圧になる集団になっているはずです。実際に、調査を実施した日とは別に、それぞれの集団の平均血圧を確認したところ、同じくらいの数値になりました。
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