久しぶりの“秋”/取り戻したい日本人の季節感

久しぶりの“秋”

〈もみじ葉の 錦の秋や 唐衣〉

良寛和尚

何かずいぶん久し振りな気がした。錦秋の紅葉を堪能したのは―。緊急事態宣言が解除され、おっかな、びっくり、ソロリ、ソロリの信州への小さな旅だ。カラマツは早くも黄色に色づき、針のような葉が降り注ぐ寸前。北原白秋の〈からまつの林をすぎて、からまつをしみじみと見き……〉〈からまつの林を出でて、浅間嶺にけぶり立つ見つ……〉を、らしくもなく口ずさむ。もみじも花もみじの言葉の如くはなやかに輝く。日本の山々の紅葉は世界一美しいと言われる。初もみじ、薄もじみ、夕もみじ、庭もみじ、谷もみじ、岩もみじ、奥もみじ、峰もみじ―等々、紅葉をあらわす言葉の多さも美しさを裏付ける。春の桜も、桜もみじと秋の季語に姿を変え、妖艶さをかもし出す。能・歌舞伎の妖しく、けんらんたる「紅葉狩」の舞台に魅せられるのも、深山の紅葉に鬼女を配するからこそだろう。


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