スローライフの社会へ/”グリスロ”が面白そう
スローライフの社会へ
コロナ禍の東京オリンピック、パラリンピックが幕を閉じた。ポスト・オリパラ、ポストコロナの時代をどう描いたらいいのか。東京2020+1は1964年の東京オリンピックの「より速く、より高く、より強く」の呪縛からどこまで解き放たれたろうか。パラアスリートたちの笑顔が多様化の価値を多くの人に認識させ、その呪縛をいくらかでも解きほぐしてくれたようにも思う。右肩上がりの成長から成熟の時代へのシナリオを政官民あげて描かなくてはならないだろう。ウサギとカメの駆けくらべの童話が思い浮かぶ。途中で昼寝をしたウサギがカメに追い抜かれるという油断大敵の戒めもさることながら、ウサギを気にせずに山のふもとのゴールまでコツコツと歩みをつづけたカメの教訓でもある。ウサギはライバルのカメしか見なかったのに対し、カメは歩みは遅いがゴール(目標)を見ていたということ。目標を明確にしてのシナリオを描くことの重要性を教えてくれているのだと思う。カメのように遅くてもいい。
前号の本欄で触れたミシャエル・エンデの長編児童書「モモ」もそう。時間ドロボウの灰色の男たちの追跡から逃げるなかで案内役のカメがモモに教える「ウシロむきにススメ」「オソイホド ハヤイ」。コツコツ、ゆっくり、ゆっくり歩くほうが前へ進めることを示唆している。新型コロナのパンデミックは世の中の多くの当たり前の不条理をあぶり出した。会社や学校、医療・福祉のあり方、地域社会や家庭の役割、個人の仕事への意識などことごとく価値観の大幅な転換を迫っている。ただ、慌てることはない。ゆっくりでいい。新たな“進歩”を目指したい。“進歩”には走るの字はない。“歩き”でいい、“止”もあるのだから止まってもいい。立ち止まって深呼吸し、また歩き出していいのだと思う。
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