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2021.8.2

コロナ禍のオリ・パラ/世界はもう経済力強化に

コロナ禍のオリ・パラ

賛否両論が渦巻くなかでの「東京オリンピック・パラリンピック2020+1」の開催である。東京圏の主な競技会場は無観客。いかなる場面でも3密規制がかかる。世界平和の祭典、国際交流の名も影が薄い。この原稿を書いているとき英国ロンドンではテニスのウインブルドンの男子シングルス決勝とサッカー欧州選手権(EURO2020)の決勝が行われた。フル観客での熱戦の模様がTV中継されたが、その熱狂ぶりにこれがなおも新型コロナ感染者を毎日3万人以上も出している国のことかと目を疑った日本人は少くなかったはずだ。感染パンデミック懸念の声はもちろんあったが、ワクチン接種拡大を理由に英国ジョンソン首相は新型コロナの終息ではなく、新型コロナとの共存で社会・経済の正常化にカジを切ったのだ。EUからの離脱など国威の衰退が問われている英国にとってジョンソン首相がコロナ対策では世界の主導権を取ろうとの賭けに出た、との見方さえ出る。

一方で世界の耳目はいま日本に集まっている。とくに外国メディアにとっては“無観客オリ・パラ”“ウイルス感染拡大・緊急事態宣言下のオリ・パラ”という格好の実験台を提供してくれているのだから当然である。スポーツ競技だけでなく、日本の社会、経済、果ては政治にまで足を踏みこむことだろう。すでに外国メディアからは記者に対する行動制限や監視体制に不満の声が出ており、そのホコ先きは1年延期した中での日本の感染対策やワクチン接種の遅れにもホコ先きがおよぶかもしれない。日本の専門家や政治家はどう答えていくか。

NHKの大河ドラマの影響もあってか2024年からの新1万円札紙幣の顔、渋沢栄一が注目の的だが、新千円札の顔は細菌学の権威、北里柴三郎だ。第1回ノーベル賞候補でもあった。彼のもとから野口英世や赤痢菌発見の志賀潔ら世界に誇る弟子が育った。明治20年代半ば彼は「伝染病のことは西洋諸国、医学の開けるにかかわらず、その研究今なお幼稚なり」と言ってのけた。あらゆる分野で仰ぎ見る存在だった西洋を自分の専門分野では“幼稚なり”と言うその強烈なまでの自負心には感嘆のほかない。非常時には胆力を持つ政治家、専門家が必要なのだ。

オリ・パラの開催論議がたけなわの頃、「始まれば、盛り上がるさ」といった声も聞こえた。果たしてどうだろう。無観客のためTV観戦が主体になるのだろうが、個人的には“スポーツの力”を信じたい。何年にもおよぶ努力、トレーニングの成果を一瞬にかけるアスリートの姿に私たちは勇気や希望をもらい、私たちの熱いエールが選手に力を与える。

自分にとってオリンピックで印象に残るのはやはり前回1964年の東京オリンピックであり、選手ではマラソンの円谷幸吉だ。2位で国立競技場に戻ってきた円谷だったが、ゴール前で抜かれての3位だった。大歓声のなか後に迫るイギリスのヒートリーに気がつかなかったと言われるが、日本にとってこの銅メダルは陸上競技で唯一のメダルであり、日の丸掲揚だった。だが、円谷は次のメキシコオリンピックへの金メダル期待のなか、1967年自ら命を絶った。そして残された遺書に国民のだれもが涙した。「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました」から始まり、親族31人の名をあげ、上司にも詫び、「幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」「幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました」で結ばれる文面は、関係者に衝撃を与えた。三島由紀夫や川端康成らは円谷のこの遺書を日本人の精神的、文学的見地も含めて論評した。ある意味、日本でもっとも有名になった遺書といっていい。単にノイローゼや人生の敗北などと規定できるはずがない。三島由紀夫はこうした声に「生きている人間の思いあがりの醜さは許しがたい。傷つきやすい、雄々しい、美しい自尊心による自殺であった」と綴った。円谷の栄光と悲劇にあえてここで触れたのも、「オリンピックにうつつを抜かしているときか、国民の命を守ることが大事だろう」の言葉が大手を振るい、アスリートに“NO”を叫ばせようとの圧力まであったからだ。是非はともかく円谷幸吉のように今もオリンピックに命を賭けているアスリートがいるのだと思う。観客席のエールがなくとも、たかがスポーツと言われようが、人生を、そして命をかける若きアスリートの姿があることを忘れてほしくはない。

世界はもう経済力強化に

もうすでに幕は挙がった。難問山積を承知でここはコロナ禍での日本の組織力、国民の力を示したいではないか。“お・も・て・な・し”で始まったこのオリンピック、世界の人々にさすがニッポンと言わせたいではないか。政治や思想などの思惑は抜きにしてだ。そして、閉幕後に日本はおろか世界中の人々に東京2020+1のオリ・パラを検証してもらったらいい。オリンピックのあり方を含めて大いに議論を呼び起こし、新しいオリンピック像を求めたらいいのだと思う。感染症の専門家らにも変異株を含めた新型コロナ対策の研究、実証成果を世界に発信して北里柴三郎のように日本の専門家としての誇り、自負を披露してほしい。もちろん、政治・行政、経済界の使命も大きい。ポスト・オリンピック、ポストコロナの日本の新たな姿をビジョンと共に打ち出してほしい。すでに欧米は新型コロナ感染で傷んだ財政の再建など経済力強化に大きく動き始めている。日本はどう動くのか。政局などにうつつを抜かしているとワクチンと同じく「周回遅れ」のラク印を世界から押されかねない。ここには“日本の命”がかかっている―。

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ハウジング・トリビューンVol.633(2022年1号)

特集:

閉塞感のその先へ

2022年の幕が上がった。
新型コロナウイルスの感染拡大は沈静化の様相を呈しているが、まだまだ予断は許さない。
脱炭素社会実現に向けた具体的な動きはいよいよ本格化する。
風水害をはじめとする自然災害対策は待ったなしだ。
社会環境の変化のなかで地方活性化の取り組みも活発化し始めている。
2022年は住宅産業のなかでどんなマーケットが拡大し、ビジネスチャンスとなるのか──。

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