2024.9.11

空き家活用をビジネスに

国交省が媒介報酬規制見直しなど推進プログラム

国土交通省は不動産業を軸に空き家対策を推進するプログラムをまとめた。
空き家対策をビジネスの側面から捉え、その魅力を高めようという新たな取り組みだ。
空き家利活用の拡大に拍車がかかることが期待される。

空き家数が900万戸と増加を続け、なかでも”空き家問題”として大きな社会的課題となっている「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万戸、総住宅数に占める割合も5.9%と過去最高となった。

国は、空家対策特措法を制定するなど除去と活用の両面からその対策を強化してきているが、その増加は止まらない。空き家増加の要因としてさまざまな点が指摘されているが、空き家がビジネスとして成立しにくかったという点が大きい。

図1 低廉な空き家等の媒介の特例のイメージ(出典:国土交通省資料より)図1 低廉な空き家等の媒介の特例のイメージ
図2 空き家利活用ニーズ掘り起こしモデル事業のイメージ(出典:国土交通省資料より)

空き家は、都市部、郊外、地方部など全国で、かつ散在的に発生している。また、空き家となる理由も、空き家の状態も、所有者の移行もさまざまである。一件一件個別に対応しなければならず、かつ求められるノウハウも多岐にわたることからマスの市場になりにくく、利益も上げづらかったのである。

そのため、近年、空き家ビジネスを展開し注目を集めているのは、大手の不動産や住宅などの事業者ではなく、地域の事業者であったり一からモデルを作りあげてきた事業者が多かった。

しかし、そうした市場が大きく変わろうとしている。空き家対策が地域の重要課題となり、地域活性化の視点からその活用が広がりだしている。また、移住・住み替えや二拠点居住など新たな暮らし方に対するニーズも高まっている。新築住宅市場がシュリンクしフローからストックへと変わりつつあるなか、買取再販やリノベーションなどストックビジネスが広がりつつあるが、そうした場において空き家活用が大きな割合を占めている。

こうした変化のなか、国土交通省が「不動産業による空き家対策推進プログラム」を打ち出した。不動産業による空き家の流通の取り組みを、官民を挙げて強く推進していく。

管理やコンサルなど媒介報酬以外にも魅力が

不動産業による空き家対策推進プログラム」は、大きく「流通に適した空き家等の掘り起こし」と「空き家流通のビジネス化支援」という2本柱からなる。このうち特に注目されるのが2つめのビジネス化支援だ。「空き家利活用の収益性という新たな観点からビジネス化を支援」(国土交通省不動産業課)という施策が展開される。

そのなかでも目玉と言えるのが「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」だ。宅建業法において宅建業者が媒介・代理の依頼者に請求することができる報酬額には上限が設定されているが、これを一定の空き家などを取り扱う場合に特例として上限引き上げを図るものだ。宅地建物取引業法に基づく大臣告示を改正、今年の7月1日に施行となっている。

売買取引については、依頼者の一方から受け取れる報酬額は物件価格に応じて一定の料率を乗じた金額の合計以内とされているが、物件価格が800万円以下の低廉な空き家などについては、30万円の1.1倍を上限に、原則による上限を超えて報酬を得ることができるようになった。

また、賃貸借取引については、依頼者の双方から受け取ることができる報酬の額の合計額は1カ月分の借賃に1.1を乗じた金額以内であるが、これを「長期の空き家等」(長期間使用されておらず、または将来にわたって使用の見込みがない宅地建物)について貸主の依頼者から1カ月分の2.2倍を上限に原則による上限を超えて報酬を受け取ることができるようにした。

ともに通常の取り引きよりも手間がかかることからその費用を勘案しての措置であり、不動産事業者にとっては空き家活用に取り組むモチベーションアップにつながる。「低廉な空き家、長期空き家が市場に出てくることを期待」(不動産業課)しての施策だ。

また、今後、空き家の管理サービスに対する需要が拡大する可能性が高いことから「不動産業者による空き家管理受託ガイドライン」も策定した。現在、管理サービスはさまざまな事業者が取り組んでいるが、業務適正化を図る制度はない。「不動産業は空き家所有者の高い信頼を得る必要がある」(不動産業課)ことから、不動産業者を主な対象に空き家管理を受託する際の標準的なルールをガイドライン化した。空き家管理の相談、契約締結、管理の作業という想定される場面ごとに留意するポイントを整理したもので、国土交通省のホームページで公表している。

空き家の管理については媒介報酬とは別に報酬を受け取ることが可能で、一件の空き家からさまざまなビジネスが展開できる。「媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進」もそうした視点からの取り組みだ。空き家発生から流通活用まで、不動産業が一括して所有者をサポートできるよう、空き家に係る不動産コンサルティングサービスの認知度向上を図る。1万5000人程度存在する「不動産コンサルティングマスター」を課題別・地域別に容易に検索できるように検索システムを創設、「全国不動産コンサルティングフォーラム」を通じて先進的な取り組み事例など経験・知見の共有を促進する。また、コンサルティング業務は媒介業務とは別業務であり、報酬は媒介報酬規制の適用がないことを通達で明確化する。

不動産業のトータルソリューション力に期待

そのほかプログラムでは「流通に適した空き家等の掘り起こし」として、「所有者の相談体制の強化」や「不動産業における空き家対策の担い手育成」、「地方公共団体との連携による不動産業の活動拡大」などにも取り組む。

特に「地方公共団体との連携」については、「空家等管理活用支援法人」に不動産業関係団体を指定しやすい環境づくりや、市区町村からの指定の促進などに取り組む。

また、地方公共団体が持つ信用力と、不動産業のマッチングノウハウなど官民それぞれの強みを生かして役割分担する「空き家利活用掘り起こしモデル事業」を支援、空き家所有者と利活用希望者をマッチングするモデル事業を収集し、ノウハウなどの横展開を図る考えだ。

不動産業者は、物件調査、相続支援、利活用提案、売買・賃貸の仲介など、空き家の発生から利活用まで一括して所有者をサポートするノウハウを持つ。空き家活用は不動産業者の伸びしろでもある」(不動産業課)と、空き家活用に向けて不動産業が提供するトータルソリューションに期待している。「地方公共団体は地域の課題、ニーズなどを把握している。弁護士、司法書士、建材メーカーやリフォーム事業者など、空き家活用にはさまざまなプレイヤーが必要」(不動産業課)と、地方自治体と住宅・不動産業界のプレイヤーが協働で空き家の活用に取り組むことで、空き家の利活用という新たな市場の拡大に加速がつきそうだ。