どう選ぶ 住まいの屋根材 高性能化で広がる選択肢
防災、耐久性、省施工など
住宅デザインの変化、頻発する地震や台風への備え、住宅長寿命化のニーズの高まり、職人不足への対応など、様々な要因を背景に、住宅屋根市場は変革期を迎えている。
シェアの維持、拡大を狙い、屋根材メーカー間で加速する性能競争の動きから、新しい時代の屋根の在り方が見えてくる。
新築屋根市場に変化
金属屋根がシェアトップに
新築屋根材市場で金属屋根の存在感が高まってきている。(独)住宅金融支援機構がまとめた2017年度の【フラット35】住宅仕様実態調査を見ると、屋根材について、「ガルバリウム鋼板またはジンガリウム鋼板」、つまり金属屋根が、「スレート瓦」を上回り、初めてシェアトップを獲得した。金属屋根が5年前の調査に比べて9.6ポイント伸ばし37.8%まで増加する一方で、スレート瓦は同6.6ポイント減少し32.7%となった。金属屋根が増加する要因の一つには、屋根軽量化のニーズの高まりがある。地震被害が多発し、瓦屋根などの崩落、飛散などの被害が広がる中で、建物全体の軽量化に寄与する金属屋根のニーズが高まっている。また、都市部などで、スクエア型の住宅の人気が高まり、片流れ屋根の採用が増えてきていることも金属屋根が躍進する要因の一つとなっている。この片流れ屋根に特に適しているのが、縦長の一枚もので、高い防水性を備え、低勾配に対応できる立平葺金属屋根だ。そのほか、「住宅の階高を抑え、高さ制限をクリアして建設できる」、「よりシンプルな納まりになり、建設コストを抑制できる」といった特長も備えており、新築市場で金属屋根材が躍進する大きな推進力となっている。
ただ、立平葺金属屋根には、これまで特定のメーカーはなく、鋼板メーカーから二次問屋が鋼板を仕入れ、加工して現場に納めており、明確な施工基準がなく、施工品質にばらつきが出やすいことが指摘されている。こうした中で、メーカーが製造する均一な性能を備えた工業製品として、立平葺金属屋根材を開発する動きが活発化している。
野地の腐朽リスクに着目 屋根に通気構法の発想
通気・換気部材を製造・販売するハウゼコは、立平葺金属屋根が普及する一方で、軒先や野地合板の腐朽リスクがあることに着目し、ガルバリウム鋼板を加工し通気層を持たせた独自の構造を採用した立平金属屋根、「デネブエアルーフ」を今年1月から生産・販売を開始した。
金属屋根材は、透湿抵抗が低い野地合板やアスファルトルーフィングに、密着して施工するため隙間がなく、毛細管現象により、軒先、野地合板などに雨水が浸入しやすく腐朽のリスクを高める。
そこでデネブエアルーフには、独自の通気リブ構造を施した。透湿ルーフィングと組み合わせて通気層を確保することで、野地板上面を乾燥状態に保ち屋根の長寿命化を実現する。
同社の神戸睦史社長は、「屋根の耐久性向上に配慮して、二重の野地下地を設けることも可能だが、施工の負担が増えるほか、施工品質にばらつきも生じやすい。ホコリや虫などが侵入して、通気機能を低下させる懸念もある。対して、デネブエアルーフは、屋根に通気構法の考え方を持ち込む画期的なもの。しっかり漏水などの性能試験を行った上で、標準施工方法を示しているため安心して採用いただける。施工には特別な工具も必要なく、従来の長尺の立平葺金属屋根材の施工の手間と変わらない」と話す。
同社は、一般的な立平葺金属屋根と、デネブエアルーフの試験体をつくり、野地板上面の含水率を測定した。一般的な立平葺金属屋根では、含水率20%~80%の高湿状態のままで推移し劣化リスクが高いことが判明した一方、デネブエアルーフでは、通気層が野地板上部の水分を排出し、20%以下の低い含水率で推移し木材の耐久性向上に寄与していることが分かった。
スレート屋根材の販売は横ばい
多角的な提案でシェアを維持拡大
スレート屋根の防災力をプッシュ デザイン一新でテコ入れも
スレート屋根材メーカーは、より多角的な提案でシェアの維持、拡大を目指す。
スレート屋根材市場において9割以上のシェアを占めるケイミューは、1960年から、「カラーベスト」のブランド名で、これまでに累計11億㎡を販売。戸建て住宅に換算すると約1300万戸分に相当する。
同社は、近年頻発する地震、台風災害に伴い、屋根の「安全・安心」への関心が高まっていることに対応して、スレート屋根材の圧倒的な施工実績や、地震や台風災害での被害の少なさなども前面に打ち出し、「安全・安心」をアピールして販売を強化する。
「一枚一枚の屋根材を独自の釘止め方式で固定する施工方法を採用しているため、強風でのズレや飛散を防止できる。近年の巨大台風により屋根の被害が相次ぐ中で、よりビスを多く打ち、さらに耐風圧性能を高める工法で施工してほしいという要望も増えている」(同社)。
また、陶器瓦のような重厚感と軽量性を両立したいと開発した屋根材「ROOGA」も、高い防災力を備えた屋根材として販売は好調だ。「ハイブリッドピフ」と呼ばれる独自素材を採用した屋根材で、素材内に多くの気泡を設けることで、重量は一般的な陶器平板瓦に比べて約2分の1と、軽量化を実現。2007年の発売以来、新築・改修を問わず、順調に販売を伸ばしている。
大和ハウス工業が2019年4月に発売した「災害に備える家」にも、飛来物への強さを発揮し、屋根材割れ・飛散を抑える高耐久軽量屋根材としてROOGAが採用された。
一方、同社は、スレート屋根材は、汎用品として普及しすぎたため、デザイン面で差別化を図りにくい面もあるため、よりシンプルなデザインを追求した新商品を開発し、設計士、建築家などに訴求する。
2020年3月から平形スレート屋根材「グランネクスト」のラインアップに、シンプルさを追求し、棟やケラバまですっきりと納められる「Simple(シンプル)」を追加。建築デザインの妨げになりそうなテクスチャーを取り除き、形状を限りなくシンプルに、色目も低彩度を基調としたカラーを採用した。飾ることのないシンプルな美しさが評価され、2019年度のグッドデザイン、ベスト100にも選出された。
存在感を高めるシングル材
台風に強く高意匠の屋根が評価
アスファルトシングルは、ガラスの基材にアスファルトを浸透させ、表面に石粒を吹付けた屋根材。シート状で施工しやすい、耐候性が高い、重量が軽い、独特のデザイン性を持つことなどが特徴の屋根材だ。2017年度の「フラット35住宅仕様実態調査」によると、アスファルトシングルは「その他」(5.2%)に分類されシェアは大きくはない。しかし、コストが安いこと、施工が簡単なこと、軽いこと、独特のデザイン性などからパワービルダーでの採用が広がり、大手ハウスメーカーでも仕様に入るなど着実に広がりつつある。
パワービルダーで多く採用されているのが輸入のアスファルトシングル材。旭ファイバーグラスがOEM供給による自社ブランドを手掛けるほか数社が輸入販売している。国産品は田島ルーフィング、日新工業、七王工業が製造販売を行っている。近年の自然災害の多発などを背景にアスファルトシングルへの注目が高まるなか、こうした国内企業の動きが活発化している。
その大きなポイントが自然災害に強いことだ。
アスファルトシングルの重量は、スレート瓦の約3分の2、陶器瓦の約5分の1と軽いことが大きな特徴。また、柔軟性があり、衝撃に強いため、台風などによる飛来物に対して割れることがない。また、屋根材同士がしっかり接着されることで耐風性能が高い。万一シングル材が飛散したした場合でもスレートや陶器瓦に比べると2次被害が少ない、そんな認識が広がっている。
「昨今の台風の巨大化・強風化により、住宅会社やデザイナーの屋根材に対する意識が、割れやすいもの・重いものから割れにくいもの・軽いものへと少しずつ変わってきており、アスファルトシングルの需要が増えてきている」(旭ファイバーグラス 営業本部グラスウール営業支援グループ・手束宣広シングルチームチームリーダー)という。
耐風性をアピール 意匠性も採用増の一因に
旭ファイバーグラスは、2018〜2019年にアスファルトシングル屋根材「リッジウェイ」の出荷を、前年比20%増と大きく伸ばした。「自然災害に対して強いこと、デザイン性が高いことの認知が進んだ」(手束宣広チームリーダー)ことが大きな要因だ。こうした流れを受け、同社では2021年から、台風・強風に対して強いことをさらに強く前面に出していく考え。施工をこれまでの点接着から線接着とし、施工にひと手間加えることでより耐風性能を上げ、風速50mにも耐える屋根材として打ち出していく。
もう一つのポイントがデザイン性だ。「リッジウェイ」は焼き付け塗装した彩色石をランダムに配置することでグラデーションを持たせ、段差部分には陰影をつけることで、重厚感を持たせていることが魅力だ。8割ものシェアを持つ米国の風景の映像などから「あんな屋根がいいね」といった声が若年層を中心に広がり、デザイン性で採用増につながっている面もあるという。
プレセメント加工で省施工 台風への強さも実証された
田島ルーフィングの「三星ロアーニⅡ」は、重厚感のある天然砕石仕上げ、グラデーションカラーの焼付彩色砂仕上げで多彩な屋根表現が可能で、高耐久性・防水性が大きな特徴のアスファルトシングルだ。
本体に工場であらかじめ接着剤を付けたプレセメント加工がポイント。アスファルトシングル材は現場で釘と接着剤で張り付けるが、ロアーニⅡは釘のみで施工が可能であり、施工スピードは従来品比で250%アップしている。台風災害が相次いでいるが、飛んだ物件は一件もなく、耐風性も実証済みだ。輸入シングルでは飛んでしまった例もあるようで、やはり現場の施工が品質を大きく左右する。「一番の肝になるのが接着の加工の部分で、ここである程度性能をカバーできている。施工者にとってもより扱いやすい」(住建営業部・近藤聡副部長)と、プレセメント加工を強く訴求していく。
同社は、この「三星ロアーニⅡ」のモデルチェンジを1〜2年かけて進める考え。「今後の屋根材に求められるポイントは、軽いこと、飛ばないこと、施工手間がかからないこと」と、災害に強いだけでなく、現場の施工性をさらに重視して新たな屋根材を模索しつつある。
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