2021.1.26

2050年に190兆円の経済効果 経産省のグリーン成長戦略の中身とは

2050年の脱炭素化へ道筋

2020年10月に菅義偉首相が2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言したことを踏まえ、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、成長戦略会議で報告した。

カーボンニュートラルへの転換イメージ

グリーン成長戦略では、温暖化への対応を、制約やコストではなく、経済成長の機会と捉え、成長が期待される、住宅・建築物産業、ライフスタイル関連産業など14の重要分野ごとに、課題や行動計画を示した。

国として、可能な限り具体的な見通しを示し、高い目標を掲げて、民間企業が挑戦しやすい環境を作ることで、大胆な投資を行い、イノベーションを起こすといった民間企業の前向きな挑戦を全力で支援する。「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげることで、2030年で年額90兆円、2050年で年額190兆円程度の経済効果を見込む。

2050年、電力需要の5〜6割を再エネに

グリーン成長戦略では、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、電力部門の脱炭素化を大前提とした。

再生可能エネルギーを最大限導入する。系統を整備し、コストを低減しながら、周辺環境との調和を図りつつ、変動する出力を調整するために蓄電池を活用していくことを踏まえて、洋上風力産業と蓄電池産業を成長戦略として育成していく。

2050年の電力需要は、産業・運輸・家庭部門の電化によって、現状の30〜50%増加すると見込むが、すべての需要を再生可能エネルギーで賄うのは困難とし、発電量に占める再エネの割合を50年に約50〜60%とすることを、今後の議論を深めていくための参考値として設定した。
化石燃料による火力発電については、脱炭素化を実現するため、発電所から、CO2を大気に放散する前に回収して地中などで貯留するCCUS/カーボンリサイクルなどを活用することで、オフセットにすることが求められる。

ただ、化石燃料+CCUSは、既存の火力発電がそのまま使える一方、適地や用途拡大の課題が存在する。CCUS/カーボンリサイクル実装に向け、技術や適地の開発、用途拡大、コスト低減などに取り組み、2050年に、確立した脱炭素電源として、安全性を大前提に一定規模の活用を目指す原子力と併せて、発電電力量の約3〜4割を賄う案を提示した。

また、燃焼時に炭素を出さず、調整力、慣性力の利点を持つ電力供給源として水素・アンモニアの活用拡大も進める。水素基本戦略で将来の発電向けに必要となる調達量が500〜1000万tとされていることを踏まえ、水素・アンモニアで2050年の発電電力量の約1割前後を賄うことを参考値として示した。

基金2兆円呼び水に
研究開発・設備投資を誘発

また、政府は、環境関連技術の開発や普及を支援するために、2兆円の基金を創設した。この2兆円の予算を呼び水として、民間企業の研究開発・設備投資を誘発(15兆円)し、野心的なイノベーションへ向かわせる。世界のESG資金3000兆円も呼び込み、日本の将来の食い扶持(所得・雇用)の創出につなげる、としている。

住宅は成長期待の重点分野
省エネ基準適合へ規制的措置も

グリーン成長戦略では、実行計画として、14の重点技術分野別に、開発・導入フェーズに応じて、2050年までの時間軸をもった工程表に落とし込む。

重点分野の一つが、住宅・建築物分野であり、家庭・業務部門のカーボンニュートラルに向けて鍵となり、一度建築されると長期ストックとなる性質上、早急に取り組むべき分野と位置付ける。

2050年カーボンニュートラルを目指すにあたっては、ライフサイクル全体(建築から解体・再利用等まで)を通じた二酸化炭素排出量をマイナスにするLCCM住宅・建築物の普及に加え、ZEH・ZEBの普及、省エネ改修の推進、高性能断熱材や高効率機器、再生可能エネルギーの導入などを可能な限り進めていく。

今後の取り組みとして、当面の間は、省エネ性能の高い住宅・建築物や省エネ改修に対して政策による支援を行い、自立的な普及に向けた環境を整備しつつ、普及状況を踏まえて、住宅についても省エネ基準適合率の向上に向けて更なる規制的措置の導入を検討する必要がある、と指摘する。

具体的には、カーボンニュートラル化に向けて住宅や建築物のエネルギー消費性能に関する基準や長期優良住宅の認定基準・住宅性能表示制度の見直し、住宅・建築物の長寿命化などにより、省エネ性能の向上を図っていく。

その際、創エネポテンシャルの最大化に向け、既存の太陽電池では技術的な制約により設置が困難な①屋根の耐荷重が小さい既築住宅・建築物や、②住宅・建築物の壁面や窓等にも設置可能な次世代型太陽電池の開発も念頭に、太陽光発電等の再エネ導入を促す制度整備を行い、住宅・建築物等に対する規制的手法も検討する。併せて、ビル壁面等への次世代太陽電池の導入による住宅・建築物での創エネ拡大や省エネリフォーム拡大に向けた支援措置を講じる。