コロナで変わる住まいの姿

求められる安全安心と心地よさ

新型コロナウイルスの影響により、住まいへのニーズが変化しつつある。
飛沫感染、接触感染、空気感染のリスクを低減し、安全安心な住空間を実現するためには、どのような対策が有効なのか。
「非接触」、「抗ウイルス」、「換気」などのキーワードがクローズアップされている。
一方で、在宅勤務が広がり、家で過ごす時間が増える中、「家時間をより快適に過ごしたい」、「仕事に集中できる個室が欲しい」といったニーズが顕在化し、プランニングや間取りなどにも変化の兆しが見え始めている。
ハウジングトリビューン編集部では、住宅事業者、デベロッパー、建材・設備メーカーなどにアンケートを実施。
コロナ禍のなかで変わる住まいの姿を浮き彫りにする。

【インタビュー】早稲田大学創造理工学部建築学科 田辺新一教授

飛沫、接触感染を防ぎ、その上で換気も
室内でも3拍子揃った対策が重要

新型コロナウイルスの室内での感染拡大を防止するにはどのような対策を行うことが有効なのか。早稲田大学創造理工学部建築学科の田辺新一教授は「飛沫、接触感染を防ぎ、その上で換気対策を行う。3拍子揃った対策が重要」と話す。

──コロナ禍を経て住まいの換気対策は変わっていくのでしょうか。

私の専門は建築環境学ですが、10年ほど前から、順天堂大学の感染制御が専門の堀賢教授と共同で研究を行ってきました。

新型コロナウイルスの室内での感染リスクを低減するために、換気対策だけ行っておけば十分というわけではありません。飛沫感染防止、接触感染防止も含めた3拍子揃った対策が重要になります。

新型コロナウイルスの主な感染経路は3つあります。1つは「飛沫感染」です。感染者がくしゃみや会話をすると出てくる飛沫が、直接粘膜に到達することで感染します。ただ飛沫は重たいので大半は床に落ちます。大体2m以上離れていれば、大きな飛沫は届きません。2つ目は、「接触感染」です。感染者の飛沫の多くのものは沈降し床などに落ちていきます。それらが表面に付いたものを手に触って、口、鼻、目などの粘膜を触ると感染の可能性があります。3つ目は、「空気感染」です。5〜10マイクロメートルの飛沫や、飛沫が蒸発して5マイクロメートル以下にまで小さくなった飛沫核が2mを超えて空気中に漂い、それを吸引して感染します。主な感染経路は、飛沫感染、接触感染ですが、換気の不十分な空間において、空気中のウイルス濃度が高くなることがあり、空気感染のリスクが生じる可能性が指摘されています。

では、住まいの中で具体的にどのような対策が有効なのか。最も重要なのは、飛沫を浴びないことです。住まいの中においても、飛沫を浴びせないように家族同士が配慮し合うことが求められます。家の中では、歌うとか大きな声を出すといったことをしてしまいがちですが問題があります。また、共有するトイレやダイニングテーブルなど、接触感染のリスクが高い箇所については、アルコールなどで除菌することをお勧めします。飛沫に手に触れただけでは感染しません。こまめに手を洗う、またはアルコールで手を除菌することなども有効です。外から帰ってきたときも注意が必要です。体にウイルスが付いていると、それを触ってしまう恐れがあります。服を着替えてシャワーを浴びるといった対策を取ることが重要だと思います。

空気感染リスクを高める小さな飛沫や飛沫核に対しては、換気対策が有効です。国が感染症対策として注意喚起するように、窓のある場所では、可能であれば2方向の窓を同時に開け換気を行います。ただ、どの程度の換気が十分であるのか。確立したエビデンスはまだありません。今の住まいの換気は、体臭や化学物質など室内の発生物質を除去するための換気基準となっています。感染を予防するためのものではないということは知っておいた方がいいでしょう。2003年以降に建った住宅では24時間換気が設置されているので、運転状況を確認する、またレンジフードなどを活用して換気量を大きくすることなども有効です。しかし、家族に感染者がいなければ、通常通りの換気で十分です。換気量を増やす必要はありません。

フィルター式の空気清浄機についても、フィルターが粒子を捉えるので一部のものは効果があります。病院などで使用されているHEPAフィルターを備えたものはお勧めです。ただし、部屋の大きさと能力の関係で効果はまったく異なります。

空気感染で有名なのは結核、麻疹などですが、これらのウイルスについては、結構遠くまで移動しても、不活性化せず感染力を維持し続けます。対して、新型コロナウイルスは、小さな飛沫や飛沫核が浮遊し、ある程度の距離を移動すると不活性化して感染リスクが低くなります。これについては、どのくらいの距離、時間を浮遊すれば不活性化するかなど、まだ分からないことが多くあります。

新型コロナについては、感染した人が、自覚症状がないまま、二次感染を拡大させてしまうリスクが高いことにも注意が必要です。科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文によると、94人の感染者に対して調査を行ったところ、発症時、発症前の咽頭部のウイルス量が最大であることが分かり、また、二次感染者の44%は、一次感染者が発症する前にうつされていると推測されると書かれています。感染していても無症状であれば、家族も疑うことはないでしょう。どのように無症状感染者からの家庭内感染のリスクを抑えるのか。難しい問題です。特に重症化率が高い高齢者と一緒に住んでいる方は、室内においても、飛沫の飛ぶ距離を考えてソーシャルディスタンスを保つ、室内でもマスクをつけるといった配慮が必要なのかもしれません。


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