セルロースファイバーの容積比熱による優位性を検証
熱伝導率に反映されない断熱材の蓄熱性を確認
セルロースファイバー断熱材メーカーのデコスは、岐阜県立森林文化アカデミーの辻充孝准教授と、断熱材の蓄熱性能を表す「容積比熱」に着目した共同研究を実施した。グラスウール断熱材と比較して、セルロースファイバー断熱材が持つ調湿性に加え、「容積比熱」の違いも住まい手が感じる心地よさに大きく影響を及ぼすことがわかってきた。
心地よさは熱伝導率によるものだけではない
一般的に断熱性能の評価は、「熱伝導率」が用いられている。しかし、熱伝導率が同じ断熱材区分の断熱材を同じ厚さで壁体内に施工しても、断熱材の種類により室内の温度や湿度に明らかな差異が生じることがある。
とくに顕著な差異を生じるのが、セルロースファイバー断熱材とその他の断熱材を一定の厚さで施工し比較したケースだ。デコス 断熱材事業部 東京OFFICE所長の田所憲一氏は、デコスファイバーを施工した住宅では、「夏、家に帰って来た時もムッとしていない(採用施主)」「小屋裏の暑さが明らかに他の断熱材と違う(屋根工事業者)」「空気がさわやか(採用施主)」など、アンケート結果でも体感による評価が高いと言う。
「デコスファイバーを施工した住宅では、外の気温変化が室内の温度に影響を及ぼしにくい。これは、同程度の熱伝導率を持つグラスウール断熱材などを施工した住宅では体感出来ない、セルロースファイバー断熱材が持つ独自のメリットであると自負している。今まで、断熱性能の評価と体感に差があることに疑問を感じていた」と話す。
断熱材の容積比熱による違いが温熱環境に影響と仮定
なぜ、同程度の断熱性能でも断熱材の種類によって住まい手が感じる心地よさに差が生じるのか。心地よさのメカニズムを探るため、デコスでは「容積比熱」に着目した。容積比熱とは、物質1gの温度を1度上げるために必要な熱量を表す「比熱」と「密度」をかけあわせた数値。断熱材によって容積比熱に差異があることが室内の温熱環境に影響があると考えた。
例えば、セルロースファイバーとグラスウール16Kで比較すると、セルロースファイバーとグラスウール16Kの容積比熱は約7.7倍もの開きがある(図①)。
つまり、同じ温度を上げようとすると、セルロースファイバーはグラスウール16Kの約7・7倍の熱量が必要で、その差はセルロースファイバーに蓄熱されることで室内まで熱が入りにくい。
非定常計算ツールWUFIで検証
天井面で2℃以上の温度差
そこで、デコスでは岐阜県立森林文化アカデミー・辻充孝准教授と共同で、シミュレーションによる断熱材の性能検証を行った。用いたのは、ドイツのフランホファー建築物理研究所が開発した、温度湿度非定常同時解析ソフト「WUFI」。多層構造の建築部位の中の熱と湿度の挙動を、自然の気象条件下で計算出来る。
夏期の屋根表面は、日射量が多い日には1日で40℃近い温度変化がある。しかし、冬期の屋根表面は夏ほどの変化はない。外気温変化が少ないと容積比熱はそれほど影響しない。そこで、セルロースファイバーとグラスウールの屋根断熱(構成:針葉樹合板12mm+通気層30mm+断熱材185mm+PB9.5mm)にて、温度と湿度を3年間シミュレーション、比較した(図②)。
その結果、夏期の天井面では、同じ断熱性能でもグラスウールに比べてセルロースファイバーの方が2℃程度低く、変化が緩やかであることが分かった。
辻准教授は、「夏期の最高温度2℃前後の差は、体感としても非常に大きい。これは、半袖短パンと長袖長ズボンほどの差になる。冷めにくい特性もデータを見ると最低温度の差はわずかで、不利になるほどではない。この結果は、明らかにセルロースファイバーの温熱環境が優位であることを示している」と説明する。
また、年間を通して、調湿効果により壁体内の相対湿度が安定していることもメリットの一つであることが分かった(図③)。グラスウールに透湿可変シートを使用し、湿度が通り抜けしやすくした場合と比べても最高湿度は低く推移した。「とくに夏型結露に対して安全な状態を維持しやすい」(辻准教授)。
デコスの田所氏は、「デコスファイバーの生み出す心地よさは感覚的にはわかっていたが、容積比熱という考え方やWUFIによるシミュレーションにより、客観的かつ具体的に説明出来るようになってきた。デコスは施工密度が高く、断熱材使用量が多いため、施工に時間がかかる。しかし、容積比熱という考え方では逆に他の断熱材と比較して、夏の快適性には優位に働くことが明らかになった。今回の検証結果をよりわかりやすく示すことで、デコスファイバー特有の強みをアピールしていきたい」と話す。
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