日頃から書きなぐっていた取材ノートや備忘メモに埋もれていた諸々を拾い、不定期で自由気ままに綴ってみようと思います。落ちこぼれた種から何か芽が出てくるかな——。

古川興一ブログ「落ち穂ひろい」

新型コロナウイルス、広がる院内感染 看護師らへの誹謗、中傷、偏見の悲しさ

分断招く社会学的感染症

新型コロナウイルスが蔓延する中、医療崩壊が現実味を帯びているが、医療最前線の看護現場からはまさに悲鳴に近い苦悶の訴えが聞こえてくる。マスク、エプロン、ガウンなど個人防護具(PPE) はもとより看護師も不足するなどまさにナイナイ尽くし、加えてあろうことか看護師に対する誹謗、中傷なども目立ってきている。看護師たちのメンタルヘルスも極限状態に来ているという。日本看護協会の福井トシ子会長が、このほど日本記者クラブのウェブ記者会見で苦衷を吐露した。

新型コロナ禍で今や大きな問題が、病院など医療機関での院内感染だ。日本看護協会の集計によると4月20日現在で全国の院内感染は19都道府県、54施設、783人に及んでおり、今ではさらに増えているのは確実。その中で看護師たちは、自らの感染不安を抱えながら、感染患者の看護に当たっているが、コロナ感染患者へのケアは通常の看護師配置より増員する必要があり、緊急事態発令以降、看護師不足が顕著になってきている。このため同協会では、看護職の免許を持ちながら離職している人たちに復職依頼メールを一斉に送信するなど、看護師確保に全力を挙げている。呼びかけに応じ、4月20日現在で110人が復職、コロナ相談対応コールセンターや軽症者宿泊施設、病院などに就いているという。だが、新型コロナウイルスはいまだ正体不明ということもあり、感染患者へのケアは看護の根幹にかかわるジレンマを看護師たちに生じさせている。例えば、患者に寄り添い、触れるなどが制限され、入室回数、滞在時間も制約される。また、亡くなった後のエンゼルケアも行えず、敬意を称した一礼での納体袋の見送りを余儀なくされるなど、これまで体験しえなかったことが起こっており、看護師たちのより大きなストレスになっている。

ところが今、それ以上に看護師たちを傷つけているのが、誹謗、中傷、偏見だ。とくに院内感染などで医療機関の名前が報道されるようになったことで、噴き出したという。業務終了後に、病院からタクシーに乗ろうとしたところ、乗車拒否された。看護師の子供が通う保育園から預かりの自粛を求められた。子供がいじめにあっている。妻が看護師という理由で夫が会社から休むように言われたーーなどなどが報告されている。

福井会長によると、コロナウイルス感染症の対応は三つの感染症を引き起こすという。

第一が生物学的感染症で、これはウイルスによる「疾病」そのもの。第二が心理学的感染症で、これは治療法が見つからない中での強い「不安」「恐怖」。第三が社会学的感染症で、不安や恐怖からくる「嫌悪、差別、偏見」。今まさに感染患者や、看護師たちを社会的感染症が襲っているということだろう。ストレスの大きさは想像するに難くない。

中国が3月に「コロナウイルスに直面する医療従事者の精神的負担」についての調査をしており、それによると看護師は「うつ症状あり」が54%にのぼり、心理的ストレスの大きさを物語っている。日本も例外とはなりえず、自らの感染、家族への感染の不安を抱えながら使命感で看護に従事する中でのこうした誹謗、中傷、偏見は堪えるだろう。看護への取り組み姿勢を委縮させ、それが感染の隠ぺいにつながり、離職の連鎖にもつながる懸念を誰も否定できないだろう。

国難とさえ言われる中、カムバックの呼びかけに危険を顧みず馳せ参じている看護師OG・OB、妊娠の身をいとわず就業を続ける看護師、24時間・365日患者にかかわり続ける、をモットーにする看護師たちに感謝とエールをどれだけ送ろうが送りすぎることはない。「家族への感染を心配し帰らずに泊まり込むときの宿泊手当の補助や、危険手当の配慮を」(福井氏)の要望などは当たり前のことだろう。コロナウイルスがいかに猛威を振るおうとも、分断を招くような悲しく、さもしい国民だけにはなってほしくない。

日本看護協会のビルがブルーに染まるライトアップが始まった。東京スカイツリーもブルーに。医療従事者への感謝とエールのしるしだ。大国同士が責任のなすりあいをしている時ではない。今こそ、コロナウイルスの克服に向け、世界が協調、連帯する時だろうことは、家に閉じ込められている子供たちだってわかっているのに。

2020年4月24日