不動産業界の頭を悩ませる事故物件の扱い。孤独死も増えて。
重要事項説明をどこまで、いつまでーーー。国交省も検討始める
中古住宅や賃貸住宅の取引で不動産業者や需要者を悩ませる問題の一つがいわゆる「事故物件」「いわく付き物件」だ。正しくは物件にかかわる「心理的瑕疵」という言い方がされるが、ずばり「自殺」「殺人」などがあった物件のこと。宅建業法では、「取引中に知りえた物件の心理的瑕疵については重要事項説明書に記載し買主に告知しなければならない」とされている。当然ながらこうした事故物件は資産価値が下がり、売買価格も家賃も下げざるを得ない。契約時に告知されず、後で知った買主や借り手との間でトラブルが発生するのはよくあるケースだ。周辺相場より割安で中古物件を買ったり、低家賃でアパートを借りたりし、ラッキーなんて思っていたら、事故物件で夜な夜なうなされたなんていうホラーまがいの話も聞く。物件の所有者にとっては、できたら事故物件であることを告知したくないというのも人情だが、告知義務がある以上告知しないわけにはいかない。だがいつまで告知しなければならないのか。一年以内か、何年過ぎたら告知しなくていいかーーなど議論を呼ぶところだ。所有者や不動産管理会社などが事故後に買い手がついたとか、入居者があったとかのワンクッションおいての見せかけに近い姑息な手段で事故物件を覆い隠すケースもなくはないが、やはり近所などから漏れるケースは多く、今は禁じ手だ。
最近、単身高齢者の入居が断わられるケースが問題になっているが、これも本音は高齢者の孤独死が増えているという事情がある。事故物件は、その居室だけの問題ではなく、隣接、近接の住戸にも影響を与えることから、不動産業界にとってはなかなか表面には出せないが深刻な問題なのだ。孤独死についても、病死など自然死なのだから事故物件ではなく告知義務はないとの見方もあるが、気が付くまでに時間がかかり、異臭などがあってはじめて発見されたというケースもあり、この場合消毒などクリーニングや改装工事などを余儀なくされる。買い手や借り手を探すのにマイナスであることは間違いないだろう。孤独死も告知すべきという意見も少なくない。
事故物件の扱いに戸惑う中で、不動産賃貸会社で組織する日本賃貸住宅管理協会の総合研究所が、昨年末に「心理的瑕疵物件における重要事項説明」に関する調査を行った。それによると、重要事項説明を行う範囲については「当該住戸のみ」が65.7%と圧倒的で、「一棟すべて」も12.4%、「当該住戸+両隣住戸」が6.6%と続く。興味深いのは、エリア別調査で、関西圏が「当該住戸のみ」が80%と際立って高いのが目に付く。ただ、「事故のレベルや騒ぎの有無等を考慮し説明範囲を決める」「基本は当該住戸のみだが、亡くなり方や場所により対象範囲を決める」との意見もあり、この辺が現実的な見方といえるだろう。また、重要事項説明を行う亡くなり方については、「室内で自殺」が74.6%で圧倒的に多く、「室内で病死・損傷や異臭の発生あり」69.4%。「室内で他殺」64.9%。ただ、室内で亡くなった場合では状況を問わず、約6割が重要事項説明を行うとしている。
重要事項説明における告知期間については、「入居者1回入れ替え」が35.1%と最も多く、「入居者2回入れ替え」「半永久的」がそれぞれ14.9%。ただ、実際には事例によって多様な処理がなされているようで、「自殺は数回だが、他殺は半永久的」とするほか、地域によっては10年以上経過しても風評が消えないこともあるようで、告知の難しさをうかがわせる。
また、死後1週間以上たっての死亡が判明したきっかけとしては「家族からの連絡」が76.4%と最も多く、「職場からの連絡」59.1%、「近隣の住民及び他の入居者からの連絡」57.5%。ただ、関西圏では、家族からよりも職場や近隣住民からの連絡のほうが多く、これは関西圏のほうが近隣住民同士の付き合いが深いためとみる向きもある。
このように、「心理的瑕疵」の重要事項説明については、範囲、期間などバラバラなのが実情。業界でもトラブルを防ぐ意味でも取り扱いについての基準を求める声が多い。このため、国土交通省でも事故物件に対する適切な告知、取り扱いに関するガイドライン策定が必要とみて、このほど、専門家や、業界関係者、弁護士らを交えた検討会を立ち上げた。
高齢者が多い古い団地などでは、高齢者の孤独死を防ぐための見守りなど工夫を凝らした対策を進めているが、不動産業界にとっては資産価値という「情」とは別の「利」に絡む問題でもあるだけに、実効となると難しさもことのほかのようだ。ただ、これから予想される単身高齢者の増加を考えると、単に不動産業界だけの問題ではなく、社会、福祉等の問題として、孤独死防止の政策的な対応が求められてきていることは確かだろう。
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