日頃から書きなぐっていた取材ノートや備忘メモに埋もれていた諸々を拾い、不定期で自由気ままに綴ってみようと思います。落ちこぼれた種から何か芽が出てくるかな——。

 

500人イコール530万人での壮大な実験 利賀・黒部とサンクトペテルブルグで舞台芸術の祭典

日・露2カ国で共同開催のシアター・オリンピックス開幕


500人=530万人。この数式は何か。イコールのはずがないだろう。だが、この数式を成り立たせるような世界的なイベントが8月23日、幕を開ける。「第9回シアター・オリンピックス」がそれだ。シアター・オリンピックスは日本の鈴木忠志ら世界の演出家、劇作家により1993年にギリシャで創設された国際的な舞台芸術の祭典。世界の優れた舞台芸術作品の上演のほか次世代への教育プログラムも実施される。1995年のギリシャを皮切りに日本、ロシア、中国など8カ国で開催されてきており、今回が9回目。だが、今回がこれまでと大きく違うのが、初めて日本とロシアの2カ国の共同開催となったことだ。そして、主会場となるのが、日本が富山県の利賀村、ロシアがサンクトペテルブルグ。その人口が利賀村は約500人、サンクトペテルブルグが530万人なのだ。

シアター・オリンピックス ウェブサイトより(https://www.theatre-oly.org/)

今回のシアター・オリンピックスの共同開催はロシアのプーチン大統領の希望によるところが大きく、今年1月22日のモスクワにおけるプーチン大統領と安倍首相との共同記者会見でもこのシアター・オリンピックスのことがプーチン大統領によって言及された。ある意味、国家的なイベントと言えるわけだが、その舞台が、富山県のそれも過疎の利賀村と、世界的に知られる芸術の都、ロシアのサンクトペテルブルグというのだからその格差に驚くのも無理はない。両会場がイコールの形で舞台芸術のたぎるエネルギー、魅力を世界に発信しようと言うわけで、見方によっては、壮大にして、かつ実験的なプロジエクトと言っても言い過ぎではないだろう。

しかし、知る人ぞ知る。利賀村は、今や世界で舞台芸術の聖地として知られる。今回の芸術監督の鈴木忠志氏が主宰する劇団SCOTが活動の本拠地を東京から利賀村に移したのが1976年(昭和51年)。爾来43年、合掌造りの民家の劇場から始まり、今や野外劇場など6つの劇場、稽古場、宿舎などが揃う舞台芸術施設「富山県利賀芸術公演」として、世界的な演劇人が集まり交流する一大拠点になっている。サンクトペテルブルグ何するものぞの気概が溢れていると言ったら言いすぎだろうか。まさに500人と530万人をイコールで結ぶの図である。

シアター・オリンピックスは既にロシアでは6月にスタートしており、12月まで続くが、日本は8月23日から9月23日まで。会場は主力の利賀のほか、黒部市の野外劇場・前澤ガーデン(YKK)なども加わり、世界各国の64作品が上演される。

その開幕式が8月20日に東京で行われた。シアター・オリンピックス国際委員長ら関係者に加え、ロシアの文化大臣らロシア代表団、日本からは文部科学大臣ら政府要人も多数出席する華やかな式典となり、日・露共同開催の威力を見せつけるカタチになった。「国内外から2万人の来場を想定し、準備を進めてきた。本当に大変でしたが、準備万端整いました。日・露の共同開催の実を挙げたい。舞台芸術の力を感じ、感動を味わって欲しい。世界融和のきっかけになってくれたらこんなに嬉しいことはない」(吉田忠裕・実行委員会会長)、「過疎の小さな村からも舞台芸術を通して民族や地域の共通性や違いを知り、人類の未来への共存に貢献できる」(鈴木忠志・芸術監督)「シアター・オリンピックスは各国がもつ様々な伝統や学びの場が出会う広場であり、世界中から集まった異質の舞台芸術家の間での対話を促す場でもある。〈Creating Bridges――架け橋を創る〉の今回テーマにその理念を凝縮している」(テオドロス・テルゾプロス国際委員会委員長)、「初となる日本とロシアの共同開催は世界演劇史に残る祭典になるでしょう。世界演劇の聖地、利賀での上演は世界の演劇人にとって誇りです。またロシアに劇団SCOTを迎えられるのも嬉しく、名誉なことです」(ヴァレリー・フォーキン・ロシア芸術監督)等など日・露の共同開催にちなむ挨拶が続いた。

吉田実行委員会会長
鈴木忠志 日本芸術監督(中央)
テオドロス・テルゾプロス 国際委員会委員長(左)
ヴァレリー・フォーキン ロシア芸術監督(右)

世界が安定さを欠き、戦争の不穏な空気さえ感じられるのが昨今の国際情勢だからこそ、芸術・文化、スポーツなどの世界の連帯感を高める企てが大きな力を持つ。日本においても、地方創生が唱えられる中、わずか500人の利賀村からの舞台芸術のエネルギーの発信は、地域の活性化など日本のみならず世界のモデルケースになると言っていいだろう。ラグビーのワールドカップもまもなく始まる、東京2020オリ・パラも1年を切った。そこに、文化と平和の祭典、シアター・オリンピックスも加わる。世界は争いを忌避しているのだ。

上演作品のプログラム見ても、鈴木の「リア王」「サド公爵夫人」「世界の果てからこんにちは」「ディオニュソス」、ヴァレリー・フォーキン芸術監督の「2016年、今日」テオドロス・テルゾプロス委員長(ギリシャ)の「トロイアの女」、ロバート・ウィルソン(アメリカ)の「“無”のレクチャー」、ラタン・ティヤム(インド)の「マクベス」、宮城聡の「天守物語」など見ごたえのあるものが並ぶ。夏の疲れを癒しに利賀・黒部に、さらに踏ん張ってサンクトペテルブルグに足を伸ばすのも悪くはないか。

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