2022.11.14

ヒト・モノ・カネを地域内で循環させる木造建築

住宅用の資材と技術を利用しコストメリットも創出

【物件】セブンスデー・アドベンチテスト教団施設 神奈川県横浜市
【施工 】株式会社 青木工務店 神奈川県大和市

青木工務店が施工を手掛けたセブンスデー・アドベンチスト教団の教会施設は、まさにヒト・モノ・カネが地域内で循環させることを具現化した木造建築だ。また、住宅用の資材と技術を活用し、コストメリットを創出することに成功している。

非住宅の木造化を進めるうえで、地域社会や地域経済への貢献という視点が重要になる。地域産材を中心とした林業、製材業者、工務店というサプライチェーンが構築されることで、経済の活性化や雇用の創出という効果が期待できるからだ。地域内で人やモノが循環することで、低炭素化にも貢献する。さらに言えば、地域に密着した工務店などが建築を手掛けることで、アフターサービスの充実も図れる。こうした理想的な「地域循環の環」を具現化しようという事例が、神奈川県横浜市のセブンスデー・アドベンチスト教会の教団用施設だ。

一般に流通している材だけで開放感のある大空間を実現

セブンスデー・アドベンチスト教団では、新しい教団用施設の建築に当たり、当初、鉄骨造の建物を検討していたという。しかし、コスト的に難しい面があり、木造での建築を考え、地元で神奈川県において豊富な木造建築の実績を持つ青木工務店に声がかかった。

青木工務店では、設計段階からプロジェクトに加わり、これまでの経験を活かしながら様々な助言を行い、長期優良住宅を建築してきた技術を活用して教会施設を建てていくことになった。

製材会社と連携して着工の1年前から地域産材を確保

この建物には地域産材を利用していくことになったが、神奈川県ではそれほど多くの県産材が市場に流通していない。県でも「かながわ県産木材産地認証制度」や「かながわブランド県産木材品質認証制度」といった取り組みを進め、県産材の活用を促そうとはしているが、都市部が近いだけに林業従事者の減少などはより深刻で、森林面積の割には伐採量が増えないというのが実情のようだ。

こうしたなかで青木工務店の青木哲也社長が会長を務める(一社)神奈川県木造住宅協会、神奈川県建設労働組合連合会とで全木協神奈川県協会を組織し、神川県内の原木供給業者、製材業者、プレカット事業者、設計事務所、そして工務店が協働しながら国交省事業の地域型住宅ブランド化事業、グリーン化事業に取組み、「かながわ200年の家」の普及を進めてきた。県産材の使用比率や性能水準などの基準を設け、山から建築現場までの地域循環型のサプライチェーンを構築しているのだ。

山側、製材所などと連携しながら1年前から準備した神奈川県産材を利用

セブンスデー・アドベンチスト教団の教会施設の建築に当たっては、この「かながわ200年の家」で培ったネットワークを利用した。構造材の生産とプレカットを全木協神奈川県協会のメンバーでもある市川屋(神奈川県厚木市)に依頼。また、「市川屋さんに着工の1年ほど前に木材の使用量などを伝えることで、スムーズな材料供給ができました」(青木社長)という。

市川屋の市川直専務(写真右)と市川寛常務(左)

日頃の事業活動のなかで培ってきた地域産材のサプライチェーンを利用し、なおかつ調達量を早い段階で川上へと伝えておく。こうした活動を行うことで、スムーズな材料調達が可能になるだけでなく、山側も需要予測を立てやすくなりそうだ。また、不明瞭な需要予測に基づき伐採してしまった木材が売れずに、利益を犠牲にしてまで売価を安くするといった事態も回避でき、持続可能な森林経営にも貢献するのではないか。

住宅建築の延長線上で木造建築を考える
長期優良住宅と同等の性能を実現

青木社長は(一社)JBN・全国工務店協会の理事として、(一社)中大規模木造プレカット技術協会(PWA、稲山正弘代表理事〈東京大学大学院農学生命科学研究所教授〉)に理事として参画している。PWAは住宅プレカット技術を利用した非住宅木造の普及を進める団体だ。教会施設の建築は、PWAで得られたノウハウやネットワークを存分に発揮する形で行われた。構造は木造軸組み工法で、2階の小屋組みの一部でトラス構造を採用しているが、基本的には住宅建築と同じものを採用した。構造用金物も全て市販のものを利用している。また、前述のトラス部分も含めて、全て住宅のプレカット技術で加工した木材を利用した。

建物の用途上から、間仕切りが少ない空間が求められてたが、「住宅用の一般的な技術や資材だけでも8mくらいのスパンを確保できる」(青木工務店)という。今回の教会施設も、最大7mのスパンを確保した部屋がある。耐震性能は耐震等級2相当で、壁の位置や耐力など工夫することで偏心率0.1以内になっている。青木工務店では、通常の住宅でも偏心率0.1以内を達成するようにしており、建築基準法で定められた0.3以内という規定よりも優れた偏心率を目指している。

2階の小屋組みの一部にトラス構造を採用

一般的な住宅よりは建物の規模は大きいため、柱軸力による土台めり込みなどの心配もあるが、2カ所に土台プレートを設置するのみで、応力の傾りをできるだけ減らしている。

万が一の火災の際に重要な書類などをまもるために、一部の部屋を耐火室とし、また火災時に安全に避難が出来るように建物中央部に防火帯を配置し、階段も計4ヶ所設置している。

開口部には、住宅用のアルミ樹脂複合サッシとLow-Eペアガラスを採用し、外壁は高性能グラスウール、床はフェノールフォーム、天井は高性能グラスウールなどで断熱している。いずれも住宅用の一般的な資材だ。

青木社長は、「住宅建築と同じやり方をしていけば(長期優良住宅レベルの性能値を達成することは)難しいことではない」と語る。

なおかつコスト的にも設備費用も含めて坪60万円ほどで納まっている。どうしても特殊な工法や材料が必要になるのではないかと思ってしまう木造建築。しかし、規模や用途などにもよるが、住宅建築の技術と資材でも十分に対応可能であり、なおかつコスト的メリットも創出しやすいと言えそうだ。

労働者供給事業によって施工者を手配

構造躯体の建て方は、大工6名程度、重機2台を使い10日間で終わった。大工については、青木工務店の社員大工のほか、労働者供給事業によって神奈川県建設労働組合連合会から派遣された大工3名も施工に参加。

労働者供給事業によって神奈川県建設労働組合連合会から派遣された大工も施工に参加

労働者供給事業とは、厚生労働大臣から認可を受けた労働組合などが、民間企業と労働協約を締結し、労働者を組合が送り出すもの。

この労働者供給事業をめぐっては、全国建設労働組合連合会(全建総連)と(一社)JBN・全国工務店協会の2団体で構成する(一社)全国木造建設事業協会(全木協)が自治体との災害協定に基づき、木造の応急仮設住宅を建設する際に活用されている。地震など災害は発生すると、全建総連が労働供給事業により労働者を派遣し、全木協と災害協定を締結している被災県での応急仮設住宅の建設にあたるという仕組みが構築されているのだ。

青木工務店では、神奈川県建設労働組合連合会で労働協約を締結しており、今回の教会施設の建設にあたっても労働者の派遣を受けた。

今後、木造建築を推進するうえで、木造のノウハウや経験を備えた施工者をどう確保するのかという問題に直面するだろう。青木工務店が労働供給事業を活用して実施した取り組みは、今後の人材不足に一石を投じるものである。と共に、平時からの施工現場で連携を深めて行く事で災害時の対応もスムーズになり、地域のレジリエンス化につながる。

地域産材を活用するためのサプライチェーンを礎として、ヒト、モノ、カネを地域で循環させていく―。このことは、木造建築を推進していくうえで非常に重要なテーマである。セブンスデー・アドベンチスト教団の教会施設は、この重要なテーマを具現化している好事例である。

青木工務店 青木哲也社長

木造部3層までであれば、非住宅であっても特殊な工法や資材に頼ることなく、木造住宅の一般的な技術や資材で建築することは可能です。むしろその方がコストなどを抑えることができます。また、木造建築に慣れている工務店や大工にとっても、日ごろから慣れている工法や資材の方が取り扱いやすく、施工品質も確保しやすい。もちろん非木造ならではのノウハウが求められることもありますが、是非とも地域の工務店が持つノウハウや経験を活用してください。