New   2026.7.29

『プレミアム住宅建材50』関連イベントを開催 これからの住宅建材に求められることは?

 

6月26日、創樹社主催のイベントとして、「明日から住宅づくりが変わる 今、使いたいスゴイ建材2026」を開催した。
今年2月に発刊した『プレミアム住宅建材50 2026年度版』に掲載した建材を軸に、「これからの住宅建材に求められること」をテーマとした有識者3人によるトークセッション、また、交流・情報交換を行った。
建材メーカー関係者約50人、ハウスメーカー、工務店、設計事務所、建材流通などの関係者約50人の約100人が参加した。

トークセッションでは、(一社)HEAD研究会 山本想太郎 副理事長、早稲田大学理工学術院 創造理工学部 建築学科の田辺新一教授、ものつくり大学 技能工芸学部の松岡大介教授の3人が「これからの住宅建材に求められること」をテーマに登壇した。

コミュニケーティブ・デザインと建材
(一社)HEAD研究会 山本想太郎 副理事長

(一社)HEAD研究会 山本想太郎 副理事長

現代の建築界や社会全体には、「近代的な専門性への不信感」が存在する。専門家に任せておけば安心という近代社会の前提に対し、現在はそのシステムへの疑問が強まっている。都市問題や環境汚染の多くは、この100年間に専門家自身が作り出したものだからだ。

この不信感は建築現場にも波及している。新国立競技場のザハ・ハディド氏の案を巡る騒動が象徴するように、優れたデザインであっても、一般社会との意思疎通が極めて難しければ、結果的に誰もが理解しやすい「普通」なデザインへ落ち着く。専門家が築いてきたセオリーに対し、一般社会の「普通さ」や感性が異議を申し立てている状況が、現在の建築を取り巻く背景となっている。

一方、2000年代以降の「リノベーションブーム」により、社会は新しい感性を獲得した。天井を剥がして構造を露出させるデザインが定着し、かつて「ボロい建築」とされた古い建物がおしゃれで心地よい空間と評価されるようになった。これは完璧なデザインへのアンチテーゼであり、新しい「普通さ」の受け入れを意味する。建材は建築の「少し外側」に位置するため、専門性と一般感覚の乖離を取り持つ「建築へのインターフェース」になり得る。

ここで重要となるのが、製品を通じてユーザーと対話し共創する「コミュニケ―ティブ・デザイン」の概念だ。従来の製品は内部がブラックボックス化された「不透明なパッケージ」として提供されがちであったが、現在はユーザーが性質を理解して関与できる余白を残すアプローチが重視されている。

具体例として、無資格のユーザー自身が配線・デザインできる「ローボルト・ライティングシステム」、開口部を自分でデザインできる「上下開閉型ブラインド」、角を丸く仕上げる「石膏ボード用コーナーボード」、ムラが味わいとなる「ポーターズペイント」、光と音を制御するフェルト製「調音・吸音ブラインド」や、家具化された「移動式トイレ」などが挙げられる。

かつて建材は物理的性能や専門的な意匠性だけで評価されがちであったが、その建材を使った結果として「すべての人に伝わる共有の価値」や「豊かな空間」が生まれるかどうかが重要。建材が専門家と一般社会の対話を促すインターフェースとして機能する「コミュニケ―ティブ・デザイン」の潮流こそが、これからの住宅建築において建材に求められる極めて重要な役割だ。

エネルギー安全保障と建築脱炭素化の変遷
早稲田大学 田辺新一 教授

早稲田大学 田辺新一 教授

日本のエネルギー自給率は16・4%にすぎず、全体の約84%を輸入に依存する。食料自給率も38%と低く、世界の平和と安定は日本の生存に直結する。一方、ドイツはロシアからのパイプライン停止により、電気代が一時1kWhあたり1ユーロ(約180円)を超える深刻なエネルギー危機に直面した。日本が暴騰を抑えられたのはLNG等の長期契約によるものであり、国内の「省エネ」徹底は避けて通れない課題である。燃料の調達構造にはそれぞれリスクがある。原油の中東依存度は95%に達し、ホルムズ海峡が閉鎖されれば調達は行き詰まる。LNGはリスク分散しているが長期備蓄できず、実質3週間分しか国内にストックできないため輸入船を回し続ける綱渡りの状態にある。一方、石炭は国内資源が豊富であり、有事のリスクヘッジとして最新の高効率石炭火力発電技術を維持しておくことが極めて重要である。

温室効果ガスの約85%がエネルギー起源CO2であり、エネルギー問題イコールCO2の問題と言える。一方、非エネルギーの中でもセメント製造は多くのCO2を出すが、都市のごみや下水汚泥を焼き固めセメント資源にするリサイクルインフラでもあるため、脱炭素に向け高度な舵取りが必要となる。 また、エアコン冷媒に使われる「代替フロン(HFC)」の漏洩問題も深刻である。ビル用マルチエアコンなどの配管から微量に漏れ出すスローリークが多発しており、大規模ビルでは建物全体の温室効果ガス排出量のうち、実に3割近くが冷媒漏洩に起因している可能性がある。日本のCO2排出量のうち、家庭部門と業務部門を合わせた都市・建築関連は全体の約33%を占める。建築が消費するエネルギーを減らさない限り、日本の脱炭素は絶対に達成できない。

脱炭素化は、「省エネ(消費電力量:kWhの削減)」と「原単位(g︲CO2/kWh)」の掛け合わせで進める。原単位は地域や時間帯で大きく変動し、太陽光と原子力がある九州では100g/kWhまで下がるが、火力に頼る東京では400g/kWhになることもある。さらに、豊富な水力・風力・原子力を備えるスウェーデンなどではエリア全体の原単位が19g/kWhという驚異的なクリーンさを達成している。カーボンフットプリントの国際競争が本格化すれば、原単位の差により日本国内でのものづくりが決定的に不利になる懸念がある。

住宅を長く使いこなす社会へ

1979年の省エネ法は2015年に「建築物省エネ法」として独立し、2025年4月からすべての新築で基準適合が完全義務化された。さらに2026年、居住時の省エネだけでなく、建材の製造から廃棄までの生涯CO2排出量を管理する「ライフサイクルカーボン」評価が本格化する。完成までに排出されるCO2である「アップフロント・カーボン(A1〜A5段階)」の削減取り組みも始まっており、大規模ビルから順次算定と報告が義務化されていく。さらに、これからは災害に備えた「レジリエンス」を3階層(物理・環境・社会)で組み込む必要があり、特に高断熱化はインフラ途絶時も室内の熱環境を維持し、生存確率を高める「環境レジリエンス」に直結する。

また、最新調査によると日本の木造住宅の平均寿命は「68.9年」であり、RCビルの約64年や鉄骨の約59年よりも長い。これからは器の寿命を心配するのではなく、建材や設計の工夫で「住宅の健康寿命」を延ばすことが重要となる。22年という法定耐用年数の固定概念を打破し、資産として住宅を長く大切に使いこなす社会へ移行することが、日本のカーボンニュートラル実現への確実な道筋である。

「開口部」と「可変間仕切り」の重要性
ものつくり大学 松岡大介 教授

ものつくり大学 松岡大介 教授

住宅の断熱性能や快適性を追求する上で、「開口部(窓)」の処理と、空間を柔軟に変化させる「可変間仕切り」の活用は極めて重要である。熱損失の最大の弱点である窓に対し、樹脂サッシに加え、「木製とアルミの複合サッシ」や「ブラインド内蔵サッシ」などが有効だ。

自邸に20年前に導入した「ブラインド内蔵サッシ」は、ペアガラスの間にブラインドを密閉した構造で、優れた遮熱効果を持つ。窓の外側で日射を遮るのが最も効果的だが、ガラスの間への内蔵はホコリが溜まらずメンテナンスフリーである。自邸の高所窓に採用して20年間故障せず機能しており、長期のメンテナンス性を考慮すれば十分に採用価値がある。さらに直射日光を遮りつつ風を取り込む設計や自動開閉システムが不可欠になる。

リビング階段・吹き抜け空間における寒さ対策と「可変間仕切り」の実証

開放的な空間を生み出す吹き抜けやリビング階段は人気があるが、冬期は「ダウンドラフト(冷気の下降気流)」による寒さをもたらす原因になり得る。

冬期の自邸測定では、エアコン稼働時にリビング階段の上部から足元へ秒速0.4mの冷気下降気流(コールドドラフト、17〜18℃)が発生することが判明した。わずかな気流でも肌が感知し足元に寒さを感じさせる。仕切りのない大空間住宅が増えた現代、断熱性能を上げただけでは解決できない気流の問題が顕在化している。この対策として、階段降り口へ簡易カーテンを閉めるだけで下降気流が劇的に改善され、PMV計算でも快適性向上が実証された。
水平に展開する「水平シェード」の設置も冷気降下を防ぎ、室温を0.5〜1℃上昇させた。

また、可変間仕切りの重要性も増している。コロナ禍以降の在宅ワーク普及に伴い、大空間に一時的な「個」の空間を作り、そこだけを効率的に冷暖房する「部分空間の温熱制御」は、快適性向上と劇的な省エネを両立させる。
さらに、画一的な窓や壁を置くのではなく、光を透過しながら断熱する「光透過型断熱窓」などの新建材や、空間サイズを可変できる間仕切りが必要である。

効率性ばかり求めて小さな窓や画一的間取りに閉じこもるのではなく、開口部のデザインや空間の可変性に挑戦することこそが、豊かな住環境をつくる鍵である。