地域工務店が挑んだ住宅の高性能化と大工育成の歴史 大工育成は工務店の務めであり強みでもある
武部建設 代表取締役 武部豊樹 氏
北海道岩見沢市に本社を構える武部建設は、いち早く大工の社員化を進め、大工育成に取り組んできた。同社の武部豊樹社長は、こうした取り組みについて「大工の育成は工務店の務めであり、強みにもなる」と語る。その真意を聞いた。
──なぜ、大工の技を重要視した家づくりにこだわるようになったのですか。

1980年代は、まさに北海道に大手ハウスメーカーが次々と進出してきていた時代でした。彼らと真っ向から価格競争をして叩き合いになれば、我々のような地元の工務店は到底太刀打ちできません。しかも、北海道の工務店は本州などと比較すると在来木造に対するこだわりが薄い。どちらかというと新しいものを好む傾向が強い地域性もありました。それだけに、「あっという間に大手ハウスメーカーにシェアを取られてしまうのではないか」という危機感がありました。
一方で、ちょうどその頃、住宅金融公庫のデータで「日本の住宅は平均23年で解体されている」という事実を知り、非常に虚しさを覚えました。
アメリカなら50年以上、イギリスなら70年以上も家を大切に使いますし、日本国内でも白川郷の古民家などは何世代にもわたって残っています。
23年で壊されてしまうような家づくりに必死になるのではなく、大工の力や技を存分に発揮できるような、価値ある木造住宅をつくらなければ、地域の工務店は生き残れないと強く思いました。それが、職人の手仕事を重視する根底にあります。
高気密・高断熱技術の開発でも大工の技と知識が役立つ
──いち早く高気密・高断熱住宅の技術開発にも携われたそうですが。
1973年の第4次中東戦争を契機にオイルショックが発生し、北海道の住宅でも少ない燃料で冬の寒さを凌ぐ術が求められるようになりました。ちょうどその頃から断熱材が普及し始め、住宅の断熱化が進みました。
しかし、当初はただ家を断熱材で囲うだけ。その結果、内部結露を引き起し、木造住宅の劣化が進行し、新築まもない住宅で床が落ちてしまうといった問題が多発しました。いわゆる「ナミダタケ事件」です。
その状況を変えたのが、室蘭工業大学に在籍していた鎌田紀彦先生です。断熱と気密をセットで考え、通気工法により内部結露を防止しながら断熱性能を向上するための理論を構築し、それを現場に落とし込むために新木造住宅技術研究協議会(新住協)を設立しました。当社も初期メンバーとして新住協に参画しました。
の在来工法には断熱・気密施工を専門とする職種がなく、大工にやらせるしかありませんでした。断熱・気密施工に不慣れな大工からは「やりづらい」と不満も出ましたが、鎌田先生たちと現場でやり合いながら技術を形にしていきました。
今にして思うと、研究者と現場の大工が一緒になって技術を実用化していくという、非常に珍しい事例だったのではないでしょうか。
その過程で様々な新しい発見もありました。特に画期的だったのが、壁の上下の隙間を塞ぐ「気流止め」と、木工事と並行して気密を確保していく「先張りシート」の考え方です。
構造と気密の優先順位をどうするか、大工自身が体感しながら技術を確立していったのです。大工の技術力があったからこそ、現在の高気密・高断熱に関する技術の基礎を確立できと言っても過言ではありません。
──当時は気密性を確保しやすいツーバイフォー工法も普及し始めていました。なぜ、あえて面倒な在来工法にこだわったのでしょうか。
確かにツーバイフォーやパネル工法は、圧倒的に気密が取りやすく施工も楽です。我々も実際にツーバイフォーを手がけ、その合理性を学びました。
しかし、確かに効率性は上がるかもしれないが、大工の技を継承できなくなるかもしれない。そのことが地域工務店の強みを低下させていくかもしれないと思ったのです。
そこで、高気密・高断熱住宅に関する技術をさらに磨いていこうと考えました。また、当時の大手ハウスメーカーが設備機器(暖房や換気など)にお金をかけて性能を上げるのに対し、我々は建物本体(躯体側)の断熱・気密性能を徹底的に高める「パッシブ設計」で勝負しようと考えました。
にお金をかければ、最終的に地域にお金が循環されません。設備を製造しているメーカーへとお金は落ちていくわけですから。しかし、大工の技を活かしながら、構造躯体を高度化することができれば、そのお金は地域に還元されることになる。
我々は新住協のメンバーである十数社でお互いに情報交換し、気密測定の数値(C値)を競い合いながら、北海道全体の技術力を底上げしていきました。
鎌田先生は北海道で開発した技術を常にオープンにし、全国の工務店へ普及していきました。正直に言えば、オープン化に対するちょっとした不満もあったかもしれません。
我々が自分達の現場で試行錯誤しながら開発してきたわけですから。しかし、今にして思うと、あの時の鎌田先生の考えは正しかったと感じています。全国の地域工務店がお互いに情報共有などを行いながら、技術をさらに磨いていくことになったわけですから。
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