New   2026.4.15

住宅再考 通年の快適性をどう実現するか HEAT20の新水準から住宅づくりの次のステップを探る

 

断熱等級6・7の広がりにより「冬の暖かさ」は前提条件となった。
しかし、UA値(断熱性能)の追求による窓の小開口化がもたらす「昼間の暗さ」や、高断熱ゆえに住宅内に侵入した熱気が外へ出られず「オーバーヒート」することが新たな課題となっている。 
本特集では、HEAT20が2025年に策定した「夏期・中間期の外皮性能水準」を軸に、
住宅事業者が進むべき「次なるスタンダード」を浮き彫りにする。

冬期中心の性能評価では、なぜ不十分なのか

現在、日本の住宅市場では高断熱化が推進されている。2022年の建築物省エネ法改正で、すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務付けられることが決定した。あわせて、住宅性能表示制度では断熱等性能等級の上位区分として等級6および7が新設された。25年4月より、新築住宅の省エネ基準義務化がスタートしたが、今後、義務化の基準はZEHレベルまで引き上げられる方針が示されており、住宅事業者はさらなる高断熱住宅の供給へ向けてしのぎを削っている。こうした断熱性能等級の検討にあたって参考とされたのが、HEAT20((一社)20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)が提唱した「外皮性能グレード」だ。

同研究会は、これまで冬期における非暖房室も含めた住宅内の最低体感温度と、暖房負荷の削減率を基準に盛り込んだ外皮性能グレード「G1」「G2」「G3」を提唱してきた。例えば、19年に追加した最上位の「G3」は、各地域において冬期間、非暖房室を含めた住宅内の最低体感温度を概ね15℃以上に保つとともに、暖房負荷を省エネ基準レベルの住宅と比べて約50~75%削減する水準とされ、22年に住宅性能表示制度に新設された断熱等性能等級7に相当する。

省エネ基準住宅、高断熱住宅における夏期・中間期の冷房負荷・最高室温の比較

一方で、日本では気候変動により、高温多湿な時期が頻発・長期化している。それに伴い、住宅の断熱性能が向上したことにより夏期・中間期にオーバーヒート、空調依存、冷房エネルギーの増大といった課題が顕在化してきている。特に、日射に対して無防備な住宅ではオーバーヒートが起こりやすくなる。設計部会の児島輝樹委員(YKK AP)は、「外皮の高断熱化は、外からの日射を遮断し、数台のエアコンで効率的に全室を冷やすことができるため、冷房の最大負荷を減らすという観点では、大きな役割を果たす。しかし、日射対策ができていない住宅や日射が入りやすい中間期においては、放熱しにくいという特徴からオーバーヒートが起きてしまう」と話す。
HEAT20では、中間期の基準となる外気温を27℃未満と設定している。これはシミュレーション上の設定室温である27℃を境に、高断熱化が冷房負荷に与える影響が逆転するためだ。

HEAT20 が提案する新たな外皮性能水準

外気温が27℃以上の場合、外気の方が設定室温より高く、外から室内へ熱が侵入しようとする。このときは、断熱性能が高いほど外皮で熱の侵入を抑えられるため、冷房負荷は小さくなる。一方、外気温が27℃未満の場合、外気の方が設定室温より低く、本来、室内の熱は外へ逃げやすい状態にある。しかし、高断熱住宅ではその放熱が妨げられるため、日射や内部発熱によって生じた熱が室内にこもってしまい、高断熱住宅ほど冷房負荷が大きい現象が起きる。

とりわけ中間期は、太陽高度が低いため、住宅に差し込む日射量が多くなり、外気は涼しいにもかかわらず、室内が常夏のような環境が生じやすい。

こうした背景から、日射熱は冬に取り入れ、夏に遮ることが基本で、年間を通して単純に小さいほど良いというわけではないため、目標値の設定が難しく、省エネ基準において、夏場に窓や壁から建物内部へ入る日射熱の量を表す指標である、「冷房期平均日射熱取得率(ηAC値)」の検討は進んでこなかった。

夏期・中間期の新たな外皮基準

HEAT20は夏期・中間期に起こるオーバーヒートなどの高断熱住宅特有の課題を解決すべく、25年、新たに「夏期・中間期の外皮性能水準」を策定した。

「夏期・中間期の外皮性能水準」は、準セントラル空調(全館空調)を前提とした「G1」、「G2」、「G3」水準の住宅を対象とする。これは、HEAT20水準の住宅では、外皮の高断熱化により、少数の高効率熱源で住宅全体を空調する準セントラル空調の採用が主流になっていることなどを踏まえてのことだ。

これら住宅のうち、冷房顕熱負荷を省エネ基準レベルの住宅比で40%削減する「G‐B」、同30%削減する「G‐A」の2つを設けた。冷房顕熱負荷を40%削減する「G‐B」は、省エネ基準の部分間欠冷房負荷(顕熱)とほぼ同等で全館連続冷房が可能なレベルで、特に6、7地域の温暖地においては、ハイレベルな対策を必要とする。そのため、現実性を優先してそれに準じる30%削減(「G‐A」)を設定した。

また、中間期型負荷(外気温が27℃未満のときに発生する冷房負荷)について、「G‐A」、「G‐B」のいずれも、省エネ基準適合住宅に比べて冷房顕熱負荷を増大させないことも指標の一つとする。

「G‐A」、「G‐B」の水準を達成した場合は、最大冷房顕熱負荷削減率を参考情報として表示できるようにする。冬期の外皮性能水準G1~G3と合わせて、例えば「G2‐B」、「G3‐A」などの表記も検討している。

一方で、今回、地域ごとの具体的な「冷房期平均日射熱取得率(ηAC)」の基準値はあえて示していない。これは、過去に外皮性能グレード「G1」〜「G3」を発表した際、UA値(外皮平均熱貫流率)だけをクリアすれば良いという独り歩きが起きてしまった反省からだ。

夏期・中間期を含めた設計への転換

夏期・中間期の性能水準が提案されたことで住まいづくりはどう変わるのか。
HEAT20は、冷房負荷を削減する主な対策のイメージとして、夏期は「外皮の高断熱化」、「開口部の日射遮蔽強化」、中間期は「開口部の日射遮蔽強化」、「外気の導入によるパッシブクーリング」が有効であるとしている。

「外皮の高断熱化」は、これまでの冬の性能水準を高める動きの中で強化されてきた。これによって、外皮からの日射侵入量が削減でき、冷房負荷の低減にもつながっている。一方で、外皮の高断熱化だけでは、一度室内に入った熱を逃がすことができず、オーバーヒートの原因となってしまう。そのため、夏期・中間期には「開口部の日射遮蔽」と「外気の導入」を対策に加える必要があるというわけだ。

ここでいう「日射遮蔽」とは、庇などの建築的対応に加えて、外付けブラインドやシェードなどの部材による季節制御も含め、開口部から侵入する日射熱を抑制することを指す。対して「外気の導入」は、外気温が室温より低い時間帯に外の空気を取り込み、室内にこもった熱を排出することで室温の上昇を抑える考え方で、「外気冷房」とも呼ばれる。これらはいずれも設備に過度に依存せず、建築的な工夫「建築力」によって冷房負荷を低減する手法として位置付けられる。

一方で、日射遮蔽を考える上では、室内の光環境とのバランスも検討する必要がある。窓には、「採光」、「眺望」などの様々な役割があり、熱の視点だけで考えると住まいの居住性を損ないかねない。


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