「壊してゼロ」から「動く」建築へ 万博を起点に挑む、資材とアイデアの循環型設計

永山祐子建築設計 永山祐子 氏

 

建築家の永山祐子氏は、2021年10月〜2022年3月にかけてアラブ首長国連邦で開催された2020年ドバイ国際博覧会(以下、ドバイ万博)の日本館をはじめ、2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)の「ノモの国」「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」、さらに来年開催予定の2027年国際園芸博覧会(以下、園芸博)では、(仮)屋内出展施設などに携わる。
永山氏が一貫して取り組んでいるのが、会期後に解体される運命にある万博建築を起点とした、資材とアイデアを循環させる設計だ。場所やテーマに合わせて形を変えながら、各地を巡っていく──。永山氏が「動く建築」と呼ぶその新しいあり方は、建築の可能性をどのように広げるのか。万博建築を通じて見えてきた、建築の未来像について話を聞いた。

永山祐子建築設計 永山祐子 氏

── 建物を設計するうえで、普段から意識されていることはありますか。

土地の背景情報や、建物がどう使われていくかなどを考えてつくっていくのですが、最終的には人を中心とした場をつくることになるので、建築が新しいアクティビティや気づきのきっかけとなればいいなと思って設計しています。

万博には、ドバイ万博から関わることになったのですが、アラブ首長国連邦には大学2年生くらいの頃に滞在していたことがあります。そうしたきっかけもあり、ドバイ万博の日本館の公募が出たという知らせを受け取ったときに、思い入れのある地で建築家として仕事ができたらと思い応募しました。

ただ、いざ関わってみると、万博は5年ごとに新たなテーマで、違う場所で開催され、建築物も6か月の会期が終われば取り壊されるという流れが、毎回繰り返されている。イベントとしての歴史はあるのですが、場所が変わるたびに0からのスタートになっているのが、もったいなく感じました。

そのため、ドバイ万博の公募には、ドバイ万博日本館をスタートとして、つながりが生まれるような建物にしたいと思い、リユースできる仕組みを持った建築を提案しました。しかし、最初に経済産業省に提案を行った際には「過去にもリユースの提案はあったが実現したことはなく、難しいだろう」と言われました。ただ、時代はサステナブルに向かっていることもあり、丁寧な解体を行ってもらった大林組や、運搬と保管を行ってもらった山九(東京都中央区、中村公大 代表取締役社長)などの協力を得られたことはすごく大きかったです。ドバイ万博から大阪・関西万博への部材のリユースでは、大林組の管理ツール「プロミエ」を使用し、数百種類、約1万パーツある部材すべてにQRコードをつけて、部材がどこでどのように使われていたのか履歴が分かるようにしました。

パーツを組み替えて新しい建築に生まれ変わらせる

── リユースを前提にした建築は、一般的な移築とは考え方が異なるのでしょうか。

私の考えるリユースできる建築は、移築とは違い、場所やテーマに合わせて建物の形や大きさを変えていく建物です。その場所その場所に合わせて、形も役割も変わるため、毎回、中間領域とセットでそれぞれのパーツをどのように配置するかを考えます。そこが大変な部分であり、面白い部分だと思います。

例えば、ドバイ万博日本館の大きさは約5000㎡、大阪・関西万博のウーマンズパビリオンは約2000㎡、園芸博の屋内出展施設の大きさは約7500㎡と全く異なる大きさです。ドバイ万博から大阪・関西万博へリユースをするときは、一切新規部材を使わずにどこまでできるかということに挑戦しました。対して、園芸博では施設の面積が大きくリユース材だけでは足りないので、新しい試みとしてTSP太陽(東京都目黒区、池澤嘉悟 代表取締役社長)と協業して、同社がイベントで使用している三角形トラスのリース材を使用することにしました。異なるモジュールをつなぎ合わせ、構造体として力を上手く分散させるシステムを考えました。

もう一つ、大阪・関西万博で「ノモの国」のファサードについても園芸博での再利用が実現しました。こちらは、大阪・関西万博の際に一から構造体を考えたのですが、一つのリングが2パーツでできており、解体すればコンパクトな状態で運搬することができ、また異なる形に組み立てることができます。

園芸博ではドーム型を採用し、そこに植物を巻き付けた緑のドームを作る構想です。現時点では、巻き付ける植物にビールのホップを採用し、会期終了後には収穫してビールづくりをできればと考えています。このように場所やテーマに応じて、同じ資材から違う建物をつくるのはパズルのようで面白いなと思います。

一方で、万博は会期が6か月間のため、開催前に解体計画が決定していないといけません。「ノモの国」のファサードは、会期終了後の採用先をずっと探していました。そうした中、2024年に東邦レオ(大阪府大阪市)の吉川稔 社長が、園芸博に出展する旨をFacebookに投稿していたのを目にして、すぐに連絡を取り提案を行いました。現在は、丁寧に解体した部材のリペアを行い、26年7月から園芸博での建築に着工する予定です。

リユースをするには前もって準備しておくことが非常に重要です。大阪・関西万博でも、リユースできそうなものがたくさんあったのですが、閉幕直前にリユース先を探すのでは、解体計画の変更が間に合いません。そのために、まだまだ活用できそうな資材のリユースが実現せずに、少しもったいないなと思うところもありました。

アイデアが蓄積していく建築をつくりたい

── 構造体、建材などは、壊して別の形で使うリサイクルのような取り組みが多いと思いますが、一度使ったものをそのまま再度使うというのはどのようなお考えからですか。

せっかく作ったアイデアや物が一度限りで壊されてしまうのがもったいないという思いがあります。物として再び活用はできると思うのですが、壊さずに形を変えながら、アイデアを発展させていく方法もあるのではないかと思いました。

私の父は研究者ですが、研究分野はまさにアイデアの積み上げです。毎回ゼロから作っていくのではなく、これまであったものの上に少しずつ新しいものを積み上げて発展させていきます。

物のリユースは、アイデアのリユースでもあるわけです。それによって、新しい建築の考え方が生まれたり、普通だと考えないような発想が生まれたりします。万博の一連の取り組みでは、決まった一つの部材を使いながら、どのように新しい建築をつくっていけるのかを考えてきました。今までの自分の建築の手順とは違うものでしたが、だからこそ生まれるアイデアはとても魅力的に感じました。

「動く建築」が街と記憶をつないでいく

── 万博でのリユース部材を活用するような取り組みは、他のまちづくりや建築にも応用できると思いますか?


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