賃貸がソーシャル・バリューを生み出す場になる 供給側にまちとの接点など「仕掛け」の発想を
日本の賃貸市場は、東京23区や地方都市部を中心に賃料の上昇が鮮明になっている一方、住宅価格の高騰やライフスタイル・価値観の変化により質の高い賃貸物件のニーズは高まっている。さらなる賃貸住宅の拡充が求められる中、市場はどう変化していくのか。(一社)住宅改良開発公社 住まい・まち研究所の松本眞理氏に聞いた。

賃貸住宅は「孤独」を解消する社会拠点へ
―― 松本さんは賃貸住宅市場の発展に貢献することを目的に、「あしたの賃貸プロジェクト」などを通じて、住まいのあり方を研究しています。日本の住宅市場が大きな転換点にあるなかで、2026年の賃貸市場はどう変化していくでしょうか。
まず前提として、いま我々が直面しているのは単なる住宅価格や家賃の高騰だけではありません。単身世帯の増加と、それに伴う孤独感の深化という社会の変化が賃貸を含めた住宅の在り方の根底を揺るがしています。内閣府孤独・孤立対策推進室による「人々のつながりに関する基礎調査」(令和6年)をみると、困った時に頼れる人、同居人が「いない」人の中で「孤独感を常に感じる」割合は「いる」人に比べて驚くほど高く、これは全世代に共通する傾向です。こうした孤独感を持つ人は、今後さらに増えていくと考えられます。
我々研究所が、理想の賃貸住宅に何を求めるかを聞いたアンケート(民間賃貸住宅居住者 2829名対象)では、「ほどよい距離感」を求める声が多くありました。これは密ではなく、会ったら挨拶したり、井戸端会議をしたりなどの気軽な関係です。これからの賃貸住宅は、孤独な人を取り残さないための、「知り合いが増える場所」、「社会とつながる拠点」、さらに自分らしく暮らしたいという「ウェルビーイングを満たすための場」などの役割が強く求められるようになるのではないでしょうか。そして、そうした機能を持つ賃貸住宅および場をつくることの社会的価値=ソーシャル・バリューが評価されていく。これが2026年以降の賃貸市場を考える上での大きなポイントの1つだと思います。

賃貸住宅の性能向上にも触れたいところですが、断熱、防音、バリアフリーなどが充実した賃貸住宅を求める場合、新築でないと実現が難しく、都心部のように家賃を高く設定できるエリアでなければ収支を合わせるのは難しいでしょう。ストックを活用した賃貸住宅も含めて広く考えると、立派でなくても一定の設備が整った手ごろな物件、住戸の広さ、人間関係やまちとのつながりなどを重視する傾向がより強くなっていくのではないでしょうか。
賃貸の地位向上とストックの質的ミスマッチの露呈
―― 具体的にどのような変化が現れると考えていますか。
大きく分けて二つの変化が起きると予測しています。一つ目は、「賃貸住宅の地位向上と役割の拡大」です。これまで「賃貸」と「持ち家」は、どちらか一方を選ぶ「or」の関係でしたが、その境界は曖昧になり、さらに賃貸という選択肢がよりポジティブなものへと変わっていくと考えています。
私たちは「あしたの賃貸プロジェクト」として、国内外でユニークな取り組みをする賃貸住宅を取材しているのですが、国内では先進的な物件では住居以外に商い(小商い)ができるスペースや、地域に開かれたコミュニティスペースが併設されるなど、住機能プラスアルファを備えたものが徐々に出てきています。今後は、賃貸は単なる居住機能にとどまらない、個々の人生を表現したり、社会的な居場所を確保したりする場、地域のハブとしての場になる可能性があります。1人で持家に住んでいる高齢者の方をどう地域が見守るのか、というのも社会的な課題ですが、賃貸住宅はそうした持家の人も巻き込んだコミュニティの拠点になる可能性を秘めていると感じています。
二つ目は、ストックの質的ミスマッチの露呈です。現在の東京の統計を見ると、民間賃貸の大半は50㎡以下の狭小な単身者および2人暮らし向け物件ばかりです。家族で住める賃貸、あるいはゆとりを持って暮らせる戸建賃貸は圧倒的に不足しています。新築戸建やマンションの価格が上がりすぎて家が買えない層が増える中で、こうした「ファミリーが住める質の高い賃貸」への需要はますます高まります。しかし、建築コストの高騰で新築供給は厳しくなってくるため、既存の持家や空き家を賃貸化し、いかに利活用していくかが重要になります。
現在、検討されている新たな住生活基本計画では、賃貸住宅に関わる政策も増えています。国民の4割が賃貸住宅に居住する状況、そして家が買えない、あるいは積極的に賃貸住宅を選ぶ層がいることで、あらためて賃貸の在り方を見直す時期にきているということです。偏った供給状況を是正し、賃貸の選択肢を広げることが必要です。
利回りを超えた「ソーシャル・バリュー」の追求
―― 賃貸住宅を供給する側(住宅事業者や賃貸住宅オーナー)に期待したいことは。これからの市場を生き抜くために、供給側はどう変わるべきでしょうか。
最も期待したいのは、建物というハードを作るだけでなく、街との接点(ハブ)を作る意識を持つことです。これまでの賃貸経営は、いかに効率的に戸数を稼ぎ、利回りを最大化するかという視点が中心でした。しかし、それだけでは孤独な入居者を増やすだけです。例えば、建物の1階にカフェやパブ、コインランドリーといった、地域住民も立ち寄れる路面店やパブリックスペースを作ること。人が集まるきっかけを置くことが、結果として物件の価値を高め、入居率の安定にもつながります。
また「ソーシャル・バリュー(社会的価値)」を評価する仕組みへの理解も不可欠です。イギリスなどでは、賃貸住宅を舞台とした運営・管理が住民のウェルビーイング(幸福)にどれだけ寄与しているか、地域課題を解決しているかを数値化して測る「ソーシャル・バリュー」の概念が浸透しています。日本では賃貸住宅を経営するにあたり利回りばかりに目がいきがちですが、金融機関が社会的インパクトをもたらす事業に対して融資や投資を行うように、仕組みづくりをすることがまず必要です。
賃貸オーナーの方々の中には「社会貢献をしたいが、どう踏み出していいかわからない」という方も多くいます。住宅事業者もそうした社会貢献の思いを形にするための提案のほか、戸建住宅を販売するにしても将来的に一部を賃貸住宅へ可変できる設計提案など、長期的・多角的な視点を持つことが求められています。
不確実な時代に台頭する「ビルドセット」の背景
―― 最近の賃貸供給の傾向として、メーカーが土地を仕入れ、賃貸住宅を建ててから投資家に売却するいわゆる「ビルドセット」の形態が目立っています。その背景をどう見ていますか。

この背景には深刻な人材不足と工期の不透明さがあります。働き方改革や資材高騰の影響で、今、大手の事業者であっても完成時期を確約するのが非常に難しくなっています。土地オーナーが受託で建てる場合、着工後に金利が上がったり、追加費用が発生したりするリスク、あるいは竣工時期がずれて入居シーズンを逃してしまうリスクが常に付きまといます。億単位のお金を借りるオーナーにとって、この不確実性はとても悩ましいものです。一方で既に完成している賃貸住宅であれば、事業者は収支を確定させてから売ることができ、買う側もローン実行のタイミングや家賃収入の開始時期が明確で安心して投資できます。事業者にとっても、オーナーを一人ひとり説得して回る手間を省き、自社でコントロールしながら効率的に供給できるメリットがあります。ただし、オーナーの思いが賃貸住宅に反映されにくいため、オーナー自身が何のために賃貸住宅を供給するのか、再確認が必要かと思います。
「所有と賃貸のハイブリッド」の可能性
―― 将来のモデルとして注目すべき賃貸の事例はありますか。
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