空間の価値を変える スケルトン階段

建売にも広がる採用、各社の差別化競争が本格化

 

狭小住宅の広がりやニーズの多様化とともに採用が増えるスケルトン階段。
視線の抜けや空間の広がりを生み出すだけでなく、デザイン性と機能性を兼ね備え、住宅の印象を左右する建材として注目されている。
各メーカーの工夫と取り組みで、スケルトン階段は今、空間の価値を変える存在へと進化している。


スケルトン階段が空間デザインの中心に

これまで階段といえば、壁で囲われた箱型階段が一般的だった。しかし最近、空間づくりの主役としてスケルトン階段が採用されるケースが増えている。

背景には、住宅事情と暮らし方の変化がある。都市部では狭小住宅が増え、階段室を独立した空間として確保することが負担になることも多い。スケルトン階段をリビングに取り込むことで、階段下を収納やワークスペースとして活用でき、視線の抜けが生まれること、部分的に陰影を作り出すことで空間に奥行きと開放感が生まれる。さらに住宅性能の向上も追い風となった。断熱・気密性能の改善と空調性能の向上により、吹き抜けや、リビング階段の課題とされてきた上下階の温度ムラが生じにくくなり、快適な室内環境を維持できるようになっている。

また、スケルトン階段のデザイン性の高さも再評価されてきている。かつては、高価格帯の注文住宅への採用がメインだったが、近年では、階段ひとつで住宅全体のイメージを大きく変えられる強い訴求力が評価され、建売住宅メーカーや比較的価格帯の低い住宅を扱う事業者にも採用が広がっている。

カツデンが今年11月、住宅設計者1011名を対象に実施したアンケートでは、階段メーカーを選ぶ際に重視する項目として「品質」「価格」「デザイン」が上位を占めた。単なる動線設備ではなく、住宅の印象を左右し、価値を可視化する建材として階段の存在意義が変わり始めている。

スケルトン階段は今、高価格住宅の装飾から、住宅の差別化要素として〝選ばれる建材〟へと進化している。

カツデンは、2003年に、住宅用スケルトン階段「ObheA(オブジェア)」を発売し、スチール製室内階段事業を開始した、室内スケルトン階段の先駆者的存在だ。

同社の25年の施工物件数は5000~6000件で、毎年約10~15%ずつ成長しているという。手すり工事も含めると、約7000物件に上る見込みだ。

西日本支店長 兼 販促企画部長 坂田光穂氏は「10~15年前は、取引先のハウスメーカーから、スケルトン階段の採用は全体の1%に満たないと評価されていた。しかし、最近では、全体の5~10%程度に採用がされていそうな肌感がある」という。購入層も以前は大手ハウスメーカーの注文住宅中心だったが、近年はより単価の低い住宅でも採用されるケースが増えている。参入企業も増加しており、以前は同社のほか1~2社程度だったスチール製スケルトン階段の取り扱い企業が、全国各地に広がりつつある。

カツデンの「ObjeA(オブジェア)」は、途中で90度折り返すなどの複雑な納まりにも対応。難易度の高い特注仕様への対応も可能だ

タハラは、広島県に拠点を置く階段メーカー。これまで西日本を中心にスケルトン階段の営業を行ってきたが、関東、東北などのエリアからの問い合わせが増えたことを受け、今年から全国での販売を開始した。 

同社は年間5000セット以上を販売。木製階段と鉄製階段の両方を長年手掛けてきた経験から、それぞれの素材の特性や構造を熟知しており、住宅事業者のニーズに合わせて様々な提案ができることが強み。例えば、鉄骨階段の場合、一般的な鉄工所では鉄のみで強度を確保する設計が主流だが、同社では木材との組み合わせによる強度設計が可能だ。そのため、鉄材のみで構成する場合と比べ、納まりをシンプルにしやすく、補強材を抑えた軽やかな意匠にも対応できる点が評価されている。

昨今は、以前は採用がなかったローコストの建売住宅を扱うメーカーからの引き合いも強い。「リビングをどう見せられるかが契約の決め手となる。スケルトン階段を採用することでリビングが豪華に見え、キッチンなどの周辺の設備の印象もよくなるのではないか」(営業部デザインスタジオ室 石﨑靖治 室長)。ある建売住宅メーカーと共同で同社のスケルトン階段(デザインは各戸で異なる)を軸に住宅のデザイン設計を行った7戸のコンセプト住宅を分譲したところ、初日に全て完売したという。スケルトン階段が空間全体の印象に大きく影響し、施主の購入意欲を左右することが分かる。

文化シヤッターは、2023年に室内用スケルトン階段「BXモダンステアーズ」を発売。以降、売れ行きは右肩上がりで好調だ。「住宅の断熱性能を向上するために、一棟当たりの窓数が減り、サイズも小さくなっているなか、リビングに光を取り入れるために、吹き抜けやスキップフロアを取り入れる住宅トレンドがある」(住宅建材事業部 西川佳克 営業開発部長)。また、家族構成も変化し、一世帯当たりの居住人数が減ったことから、必ずしも多くの個室を必要としない住宅が増えていることや、家族間の交流を促す導線の提案が増えていることもスケルトン階段の需要を後押ししている。

ウッドワンは、平屋の増加に伴い、市場全体で階段の数が減少するなか、スケルトン階段の「デザイン階段Light」を発売し、差別化を図ってきた。

約10年前から住宅の坪数減少に伴い、階段をリビング空間に設けるリビング階段の採用が増えてきた中で、「リビングに置くならインテリアの一部になるような意匠性の高い階段にしたい」という施主のニーズが高まったのではないかとみる。

同社は2005年に、船底面の踏板デザインを採用した「デザイン階段」を販売開始。その後、施工性を高め、価格を抑えた商品として2015年に「デザイン階段Light」を発売し、現在では階段材のなかでの主力商品となっている。

販売先は地域ビルダーが中心。「地域ビルダーは大手ハウスメーカーとの差別化のため、吹き抜けやプランニングにこだわる傾向にある」(商品企画開発部 間宮僚太郎 プロダクトマネージャー)。こうした特徴を持つビルダーの間で、同製品の採用が広がっているという。

施工性、対応力を武器に競争が激化

スケルトン階段の採用が広がるにつれて様々な納まりへの対応力や、より高い安全性、省施工性など、要求されることも増えている。

カツデンの強みの一つが、様々な納まりへの高い対応力だ。例えば、途中で90度折り返す「L型階段」ひとつでも、踊り場の有無や折り返し部分の支えポールの設置など、多様な納まりのパターンが存在する。こうした階段特有の事情に対し、「主力商品の『オブジェア』を発売してから20年近く、住宅の室内スケルトン階段に特化して製造してきたため、リビング階段に多い複雑な納まりに対して高い設計力を持つ」(坂田部長)。特に高価格帯の注文住宅を主なターゲットとしてきた背景から、難易度の高い特注仕様への対応実績も豊富で、他社では対応困難な案件が“駆け込み寺”的に持ち込まれることも多い。製品部材のバリエーションも豊富で、「オブジェア」では、段板(階段の踏み板)5種、ささら桁(段板を両側または片側から支える、階段状に加工された板)7種、手すり8種を用意。業界きってのバリエーションの多さだ。

また、金属板を切り出すレーザー加工から塗装まで、階段の製造工程を全て自社工場内で完結。現場でパーツを組み立てるノックダウン式のため、重機は必要なく、組み立てたものを現場に搬入して据え付けるタイプよりも施工期間を大幅に短縮できる。出荷する全ての製品について、工場内で、形状や強度、各部材の取り付け位置などを確認する仮組みを行い、現場での不具合の発生を限りなく抑えている。

さらに、1商品の開発にかける時間も長く、発売までに10回以上の試作や、強度試験などを積み重ねる。強度試験は、JISで規格されている試験以外にも、手すりへの荷重試験や継続した衝撃に耐えられるかの試験などを行っている。ノックダウン式でビス固定を基本とすることから、安全性への懸念に対応すべく強度試験は過剰ともいえる程度に行っている。これにより、特注対応をした場合にも必要な強度を取りやすい。

施工面では、階段メーカーの都合のみで設計を進めると、ハウスメーカーごとに構造が異なるため、スケルトン階段に適した構造が分からない現場側が下地位置を誤って施工するリスクがある。そのため、営業担当者には、現場ごとの構造の違いを理解して適切な設計提案を行う役割が求められる。同社では営業担当が現場へ赴き、下地材の配置状況などを確認しながら関係者と打ち合わせを行うことで、施工上のリスクを軽減する。また、階段施工については、北海道・沖縄・離島を除き、同社もしくは同社と契約する階段専門の施工会社が対応している。これにより施工品質の均一化を図るとともに、経験豊富な施工者が細かな異変にも気づき対応できる体制を構築している。

「当社のスケルトン階段は、『オブジェア』が110万円程度で、スケルトン階段の市場価格である60万~70万円から見ると高く受け取られがちだが、営業担当が設計の打ち合わせに入り、社内で施工まで請け負う一気通貫体制が整っている。また、今年4月の建築基準法改正に伴い、住宅全体の構造安全性の確認が厳格化され、鉄骨階段に対してもハウスメーカーから構造計算書の提出が求められることが増えたが、構造計算書の発行も行っている。サービスや安全に対する手厚さを考えれば、決して高くはない価格設定だと考えている」(坂田部長)。

近年はスケルトン階段の購入層の広がりに伴い、企画製品も展開しており、こちらも好調に推移している。また、中~低価格帯の住宅を扱う事業者が「価格が安いため品質も低い」という施主の先入観を払拭したいと住宅展示場の物件には、細部まで品質にこだわっている同社の製品を積極的に採用するケースもみられる。

一方で、スケルトン階段がコモディティ化したことで、アッパー層向けに段板に厚みを持たせて、重厚感を出すことで差別化を図るトレンドが生まれつつある。こうしたニーズに対し、同社が24年6月に発売したのが「Gradea(グラディア)」だ。箱形状段板をささら桁に被せることで、存在感のある仕上がりを実現している。細いスチール製ささら桁との対比により、段板が浮遊しているかのような高い意匠性を確保できる。

また、来年には「オブジェア」にも段板を厚くするオプションを追加予定。さらに、比較的コストを抑えた「FRIS(フリス)」も、来年に大幅リニューアルを予定。ポールを細くして、建築家に刺さるようなデザインへ改良する。

タハラは、設計図の提案まで含めたサービス提供も好評だ。一般的に鉄骨階段をつくる鉄工所では、支給された図面に基づき製作のみを行うことが多いが、同社では設計の意図や空間のコンセプトをヒアリングしたうえで最適な仕様を提案している。「なぜこの階段を採用したいのか、空間をどう見せたいのかを事前に聞いたうえで階段メーカーとしての知見を生かして提案する」(石﨑室長)姿勢が高く評価されている。

特に、〝蹴込み板〟付きの木製スケルトン階段「ZIGZA(ジグザ)」はモデルルームへの採用が多い。蹴込み板とは、階段の踏み板と踏み板の間にある垂直の板のこと。つまずきを防いだり、階段の強度を高めたりする役割がある。通常のスケルトン階段は蹴込み板がないため、人によっては上り下りに不安感を覚え、スケルトン階段から通常の箱型階段へ変更するケースもあった。ただ、スケルトン階段にそのまま蹴込み板をつけると、見た目がごつくなってしまうため、「ジグザ」では、蹴込みと段板の受け材を壁内に完全に収めることで見た目のスタイリッシュさを維持しながら安心して上れる階段を実現した。段板と蹴込みの厚みは36㎜で、すっきりとしたデザインになっており、意匠性の高さで採用されることも多い。また、完全木製のため、鉄製階段に比べコストを抑えて採用できることもメリットとなっている。

一方で、「Cloud(クラウド)」は、段板の片方が壁に固定されもう片方が宙に浮いた状態の“片持ち納まり”の商品。芯材に鉄を使用し、木製の段板で包み込むことで、強度を確保しながら浮遊感のあるデザインを可能にした。こうした片持ち納まりの商品をメーカーとして販売している会社は少なく、設計士などから定期的に問い合わせがあるという。

同社は40種類以上のデザイン階段をラインアップしているが、「商品をそのまま売るよりも、カタログの商品をもとに、こういうことをしたいという要望に応えていきたい」(石崎室長)と、設計意図に寄り添った柔軟な対応を重視している。

文化シヤッターは、集合宅向けの屋外鉄骨階段廊下ユニット「段十廊Ⅱ」を販売しており、前シリーズの「段十廊」も含めると約40年近い鉄骨階段の実績がある。また、以前から首都圏に限定して、段十廊のノウハウを生かした室内スケルトン階段の製造も行っていた。こうしたなかで、全国的な室内スケルトン階段への需要増加に対応して、発売したのが「BXモダンステアーズ」だ。

同社の最大の特徴は、様々な建材の販売で築いた独自の物流網と工事網だ。静岡県にある掛川工場でスケルトン階段を製造した後、他の建材と一緒に工場から出荷、全国にある営業所や倉庫で荷受け、施工現場にジャストインタイムで搬入できる。階段材は大きく、場所を取るため、施工直前に搬入することで現場作業の邪魔にならない。また、工事部隊、設計部隊、営業部隊を社内に有しており、提案から現場管理までを一括で請け負える点も強み。工事は約半日で完了するが、施工業者は、階段を取り付ける時間を他の場所の施工に使えるため、効率よく住宅づくりを行うことができる。

こうした体制から、「手すりだけ」や「スキップフロアにつながる3段だけ」といった小型の受注でも比較的手ごろな価格で対応できる。

製品面では、スケルトン階段に不安を覚える層に対して、オプションで手摺の隙間にはめられるアクリル製の補助パネルを用意。ボルトナットで取り外しができるため、子どもの成長に合わせて取り外すなど、ライフステージの変化に合わせて変更できる。カタログ掲載外のプランでも個別対応を行っており、螺旋階段以外であれば幅広く対応可能だ。もともと同社の主力製品であるシャッターも、寸法に合わせて設計する製品であることから、同社の業態と相性が良いという。

今後は、施主のニーズへの対応力をさら高め、バリエーションを拡充していく考えだ。

ウッドワンの「デザイン階段Light」は、木製階段のため、鉄骨のスケルトン階段よりも低価格で提供することが可能で、設計価格で50万円~販売している。また、住宅事業者は図面を書く必要もなく、シンプルな納まりで施工しやすい。

また、取り付けのしやすさも大きなポイント。スケルトン階段の多くは、ささら桁にプレートが埋め込んであり、踏板を裏側から組み付けて固定する必要があるが、踏板を桁の上から乗せてビス止めするため、取り向けながら施工が完了するため施工性に優れている。さらに、裏側から金具を組み付ける必要がないため、施主が階段を下から見上げた際も、プレートやビスなどの金具が一切目立たない。これにより、スケルトン階段が持つ本来のすっきりとした印象を最大限に高めている。

さらに同社では、発売後も市場からの声を踏まえ、継続的な製品改良を行ってきた。初期モデルではささら桁の上下を長いまま現場に搬入し、職人による現場加工を必要としていたが、現在は構造材や下地材に専用の金物で引っ掛けるだけで施工できる仕様に改善している。同社では「デザイン階段Light」の施工動画をYouTubeで公開している。

また、手すりにはスタイリッシュな見た目のスチールフラットバー手すりを追加するなどデザイン性へのニーズにも応えてきた。その積み重ねが、現在の納まりの良さと高い意匠性につながっている。加えて、スケルトン階段の揺れが心配な人に対しては、揺れを抑える支柱部材(補強束)や、ものの落下が心配な場合は、アクリル踏み込みパネル(透明)も揃える。

最近では、6月に発売した国産ヒノキを使用した無垢フローリング「コンビットソリッドJ」とコーディネートを行えるよう、踏板の樹種に「桧」を追加。内装材全体で統一感を持たせることができる。

メーカー各社の取り組みにより、スケルトン階段はデザイン性と機能性を両立できる建材として定着しつつある。単なる移動手段を超え、空間の価値を高める存在へと進化するスケルトン階段の今後に注目だ。