森林組合が個人所有林で仕事をしない? 地域林業の担い手としての本分を

 

経営方針に反発し何人もが退職

先日訪れた林業産地では、地域の森林組合で働いていた現場の手練れがここ数年で何人もやめてしまい、組合の現場対応力が低下する一方で、組織を飛び出した手練れたちも一本立ちの現場技術者として看板を掲げたものの、安定した仕事になかなかありつけず、苦慮しているという問題が発生していた。

そもそも手練れたちはなぜ組合をやめてしまったのか。何人かに話を聞くと、手入れをすることが必要な山林には手を付けず、やりやすい現場ばかりを選んで森林整備や木材生産を行っている組合の経営方針に嫌気がさしたのだと説明してくれた。

やりやすい現場とはどういうところか。木材の品質が良い、傾斜が緩い、道が適切につけられていて効率よく仕事ができる――といった条件の良さがまずは思い浮かぶ。

ただ、今回、手練れたちが問題にしていたのは、経営形態の話であった。彼らによると、その組合では国有林や県市町村といった自治体が所有している公有林、集落の財産区有林、森林研究・整備機構森林整備センターが管理している水源林といった面積がまとまっている現場ばかりで仕事をつくり、規模が小さく面積がまとまりづらい個人の所有林には手を付けようとしないというのである。

やりやすい現場ばかりを優先

集約化した山林で間伐を行う。組合員が所有する山林の管理に力を入れるのが森林組合の本分だ

言うまでもなく、森林組合とは森林所有者が出資して設立した協同組合である。当然、組合員の利益を確保することに最優先で取り組まなければならない。そのような立場なのだから、組合員つまり個人林家が所有する山林の整備に力を注ぐべきだと手練れたちは力を込める。まったく正論だと言うほかはない。

ただ、個人の所有林は、往々にして面積のまとまりがなく、規模も小さいので、仕事の効率を上げにくい。そこで複数の所有者の山林をとりまとめ(「集約化」と呼ばれる)、まとまった面積で仕事ができる条件を整えようということになる。

個人所有林は規模が小さく、境界が入り組んでいるケースが多い。こうした山林を取りまとめるには多大な手間がかかるため、日頃から所有者と密接な関係を築いておくことが望ましい

そのためには、ひとりひとりの所有者を訪ねて森林整備や木材生産を行うことに関して了解を得る必要がある。全員が素直に応じてくれれば話は早いが、そう簡単にはいかないケースが多い。

このあたりは組合の経営姿勢によるところも少なからずあり、ふだんから組合員とのコミュニケーションを密接に行って良好な関係を築いていれば、むしろ進んで組合に任せようという流れが自然にできる。ところが、組合員の信頼を得ていないと簡単には応じてくれず、とりまとめを実現するまでに多大な時間を要することになってしまう。

さらに組合員が地元に住んでいなかったり、そもそも森林の境界がはっきりしていなかったりと悪条件が重なれば、とりまとめにはいよいよ手間がかかる。

つまり、日頃から組合員と良好な関係が築けていればまだしも、個人所有林の集約化は手間がかかるのが通り相場になっている。

それに対して国有林や公有林、財産区有林、水源林などは取りまとめが不要で、先方が用意した現場で作業しさえすればいいわけだから、仕事のハードルは著しく下がる。手間がかからないから高い利益率も見込める。

結果的に手間のかかる個人所有林にはあまり手を付けず、やりやすく利益を上げやすい現場ばかりで仕事をするという組合が出てきてしまう。今回、手練れたちが何人も退職してしまった組合は、まさにそういうところであるわけだ。

組合経営の基盤が揺らぎかねない

誤解のないように言っておくと、協同組合としての本分を尽くしている森林組合ももちろんある。


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