“共創”で広がる中大規模木造
ハード、ソフトの両面から新規参入事業者を支援
新築市場が縮小するなかで、成長市場として中大規模木造市場への期待が大きくなっている。脱炭素社会の実現に向けても⽊造建築が脚光を浴びている。これまで戸建住宅を中心に技術を磨いてきた⼯務店などが、住宅づくりの延長線上で中大規模木造建築に挑戦し始めている。しかし、受注の仕方や、設計、資材調達、施工など、戸建住宅とは違うノウハウが求められるため、ハードルが高いことも事実だ。こうしたなか、中大規模木造建築に挑戦する住宅事業者、ゼネコンなどをハード・ソフトの両⾯から支援し、“共創”で新市場開拓に取り組む動きが広がっている。
人口減から新設住宅着工戸数が減少することが見込まれる中で、非住宅、中高層住宅や店舗・事務所をはじめ住宅以外の建築物での木材利用の促進を進める動きが活発化している。
木造建築推進の法改正の後押しもある。2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(木促法)」が定められて以降、木造建築に関わる法改正が頻繁に行われ、この15年で木造建築を建てやすい環境が整ってきた。木促法の施行から10年以上が経ち、SDGs、脱炭素化といった観点からも木材利用、木造建築に脚光が集まる中で、同法が改正され、法律の題名が「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材の利用促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)へと変わり、22年10月に施行された。同法による木材利用の基本方針、都道府県や市町村が定める基本方針の対象範囲を、現状の公共建築物から建築物一般に拡大し、広く民間建築も含めて木材利用を促進する。また、林業・木材産業の事業者に対し、建築用木材などの適切かつ安定的な供給に努めるよう努力義務を規定した。
令和5年度森林・林業白書によると、我が国の令和5(2023)年の建築着工床面積の木造率は44.7%であり、用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅は80%を超える。しかし、低層非住宅建築物は15%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下で、低層住宅以外の非住宅・中高層建築物の木造率は5.8%と低い状況にある。逆に言えば、今後さらに木造化が進むことで、大きな市場拡大のポテンシャルを秘めている。
実際に非住宅木造建築の市場は徐々に拡大している。国土交通省の「建築着工統計調査」で木造産業用建築物のここ5年間のデータをみると、着工棟数は19年の2万2572棟から25年の1万7626棟と減少しているものの、工事予算額は7110億円から8839億円へと約24%増加しており、木造非住宅建築の大型化が進んでいることが読み取れる。
中大規模木造市場拡大への期待が高まる中で、様々な事業者が取り組みを活発化させている。特に近年、目立ち始めているのは、中大規模木造市場に新規参入しようとする地域のゼネコン、工務店などを支援する動きだ。ハード・ソフトの両⾯から支援し、〝共創〟で新市場開拓に取り組む動きが広がっている。
中大規模木造の可能性を広げる
ハード面の技術開発が進む
様々な企業が中心となり、中大規模木造建築を建てやすくするためのハード面の技術開発が進む。中大規模木造の可能性を広げる「構法」と、それを実装するための「部材供給の枠組み」が進化し続けている。
「共創〈ともつく〉ネット」をスタート
「AQ木のみ構法」で中大規模木造を推進
AQ Groupは2024年5月に、日本最大級の木造建築集団を目指す「フォレストビルダーズ」を結成した。「フォレストビルダーズ」には、同社のオリジナル技術「AQダイナミック構法」で戸建て住宅を建築する外部組織「アキュラホームFC」とVC「AQビルダー」がある。一方、同じく同社のオリジナル技術「AQ木のみ構法」で中大規模木造建築を担う外部組織が「中大規模木造建築 共創〈ともつく〉ネットワーク(通称:ともつくネット)」で、2025年9月にスタートした。

フォレストビルダー事業部の堀野雅人部長は、「ともつくネット」について、「住宅分野では木造のシェアは高い一方で、中大規模建築分野では木造がほとんど使われていない現状を変えたいという思いがある。住宅着工数の減少、また、鉄筋・コンクリートの資材高騰が続く中で地域のゼネコン、工務店を支援していきたい」と話す。
「AQ木のみ構法」は、主に4階建て以上の中大規模木造建築向けで、30倍から40倍の耐力壁を組み合わせることで、耐震性とデザイン性を両立させている。日本の伝統的な文様と組子技術を融合させた壁倍率35倍相当強度の「組子格子耐力壁」などが特徴で、木を現しで用いて、木造らしさを表現することができる。また、一般流通材を使用することで、コスト削減と施工効率の向上を実現。石膏ボードの使用面積を大幅に削減できることが大きな強みだ。耐火建築では、耐力壁に石膏ボードを2枚以上貼らなければいけないことが、施工面、コスト面からも負担は大きいが、「AQ木のみ構法」では、より高強度の耐力壁を最適に配置することで空間効率を改善、石膏ボードの使用面積を大幅に削減することができる。
このように、「AQ木のみ構法」は、特殊な材料ではなく、一般的に普及しているプレカット材などを組み合わせた構法であり、地域の建設会社でも導入しやすいように設計されている。
「AQ木のみ構法」を開発し、8階建ての本社ビルを建設することで、木造でも中大規模建築が可能であることも実証した。24年3月、さいたま市西区三橋に新社屋「8階建て純木造ビル」を竣工。木構造体の接合部を特殊な金物に頼らず日本古来の継手・仕口の技術を住宅用プレカット工場で量産加工してつくることで、普及資材、工法で、地域の中小ゼネコン、工務店が施工し、免震装置に頼らない耐震構造を実現した。これまでの木造ビルの1/2の費用、坪あたり145万円で建設した(※2024年当時)。堀野部長は、「木造とRC造を組み合わせたハイブリッド構造と比較して、純木造の方がコスト面で優位性があり、より普及しやすい」と強調する。
「SE構法」新バージョンで非住宅対応力強化
適応範囲拡大、在来比で壁量4分の1
エヌ・シー・エヌ(東京都港区、田鎖郁男社長)は、木質ラーメンと面材耐力壁を組み合わせた独自構法「SE構法」の新バージョンを開発し、同構法の登録施工店向けに2025年6月に発売した。高い耐震性と設計の自由度を保証する同構法は登録工務店を通じて全国に広がり、25年3月末までの累計供給数は3万986棟にのぼる。近年は中大規模木造建築の需要拡大の中で、非住宅での引き合いも大きく伸びている。
新バージョン「SE構法Ver.3」では、従来4.5mだった階高を6.0mにしたほか、最大スパンを12mから制限無し、最高高さを24mから30m、延べ面積を3000㎡から制限無しに変更している。
特に非住宅への対応を強化するため、様々な部品を改良した。まずは大規模建築を可能とする180㎜角の集成材をラインアップに加えた。プレカット工場も25年に新たに3工場の稼働を開始し、全国13工場のうち9工場に大断面加工機(フンデガー)を導入するなど供給体制も同時に整えた。150㎜角以上に対応する高耐力柱脚金物も開発し、従来の2.2倍にあたる性能を実現した。
さらに木質廃棄物を原材料とする構造用パーティクルボード「G-BOARD」を標準採用。同ボードはEPD認証を取得した東京ボード工業の佐倉工場で製造されている。G-BOARDの性能を最大限に引き出すため、専用の「TN(Tough Nail)釘」も開発した。これまで使用していた釘より径を太くし、特殊なスクリュー形状とすることで、1本あたりの耐力を向上。この新たな釘だけでも開発に2年を要したという。このG-BOARDを利用した場合の壁倍率換算は11.7倍。在来工法壁合板の2.5倍、従来のSE構法の6.8倍を大幅に上回る高耐力壁が実現した。これにより、地震時の建物変形を大幅に軽減し、壁量を減らした大空間の設計が可能となる。田鎖社長は「在来比で壁量を約4分の1にすることができ、市場に対して大きなインパクトとなるだろう」と期待する。
木材同士をつなげる金物も見直し、特許製法のプレスリングを採用することで金物幅を77㎜から61㎜にスリム化、重量も4.6㎏から3.95㎏へと軽量化した。製造過程において溶接工程もなくしたため、コストダウンにもつながった。
4月1日付けで(一社)日本建築センターから新たな構造評定を取得、適用範囲も拡大した。階高は4.5mから6.0mとなり、上限3000㎡だった延床面積と上限12mだった最大スパンがそれぞれ制限なしとなった。技術開発部の藤代東部長は「構造計算によって確認することができれば、制限を外していいと評価をいただいた。ただ、運搬の問題もあり、可能なのはトラックで運べるサイズまで」と説明する。

新バージョンの技術は、昨年9月にオープンした無印良品の2つの大型店舗に既に活用されている。無印良品唐津、日田両店舗は2000㎡超の木造平屋建築で、いずれも6mスパンのフレームを基本としており、柱は180×360㎜の2枚合わせ、梁は180×500㎜の2枚合わせとした。完成した店舗はすべて、柱と梁が現しになっており、SE構法新バージョンによる非住宅建築の可能性を示す例といえる。
木造耐火建築で先行
純木造超高層ビルのモデルも
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