New   2025.6.6

新基準時代の耐力壁 新たな市場拡大の機会が到来

 

2025年4月、建築基準法の改正により「4号特例の縮小」が始まった。壁量計算の厳格化によって、実務上は必要壁量が1〜2割増加するとされ、これを機に、高耐力かつ施工性に優れた構造用面材、耐力壁への注目が高まっている。設計の自由度を維持しながら性能を確保できる点でも、耐力面材の有効性は再評価されつつある。また、中大規模木造建築市場の拡大においても、大空間・中高層化を実現する要素として高性能耐力壁の開発は不可欠だ。こうした市場ニーズの変化により、耐力壁関連メーカーには技術革新と新たな市場創出のチャンスが訪れている。

2024年6月に公表された(独)住宅金融支援機構の「フラット35住宅仕様実態調査(23年度版)」によると、在来木造住宅の仕様について、主な耐力壁の種類は「筋かい」が40.2%と減少(17年度の調査時は56.4%)し、「面材」が過半数以上を占める割合へと変化している。地震被害が相次ぐ中で、耐震性向上のニーズが高まり、より高耐力を確保しやすい耐力面材へのシフトが進んでいるようだ。加えて、耐力面材は、規定された間隔をあけ釘で固定するだけで、筋かいよりも簡単確実に均一な性能を確保しやすい。施工性向上、施工品質向上の観点からも耐力面材の支持が広がっているようだ。

4号特例縮小がスタート
より高耐力の耐力面材に脚光

25年4月からスタートした4号特例縮小も耐力壁市場に大きな影響を与えそうだ。仕様規定、壁量計算の厳格化により実務上は「必要壁量が約1〜2割増加する可能性がある」と言われている。設計の自由度を高めながら十分な耐震性能を確保するために、より高耐力な耐力壁のニーズが高まっている。
また、4号特例縮小にあわせて行われる建築基準法関連の見直しの一環として、壁倍率の上限も従来の5倍から7倍へ引き上げられた。CLTや高性能耐力壁などの新しい建材・工法の登場により、実験で7倍以上の性能が確認されている。また、木造3階建て以上の中大規模建築物への対応強化も求められている。さらに、必要壁量を厳格化する一方で、設計の自由度を維持する必要もある。こうした変化に対応するための措置だ。

日本ノボパン工業の「novopan STPⅡ」。資材全般の価格が高騰するなかで、価格安定性も強みのひとつ

こうした一連の制度改正を受けて、特に、壁倍率4.3倍などが告示で認められている構造用パーティクルボード(PB)や、構造用MDFなどには追い風が吹く。国内最大のPBメーカーである日本ノボパン工業は、主力商品として9㎜厚の構造用PB「novopan STPⅡ」(以下、STPⅡ)を製造・販売する。営業本部・営業推進部・服部和生部長は、「必要壁量が増えたことで、高倍率の壁を告示で実現できるSTPⅡへ切り替える動きが進んでいる」と話す。資材全般の価格が高騰するなかで、価格安定性も強みだ。接着剤などの高騰の影響はあるが、木材チップさえあれば製造できるため、価格安定性に定評がある。ウッドショック後、STPⅡも値上げを行ったが、上げ幅は他の面材に比べると極めて小さかった。
新工場の設立・稼働により生産供給体制も大幅に強化されている。19年に設立された合弁会社「ENボード」の工場が加わった。静岡県に新設した国内最大のPB工場で22年11月から商用生産を開始。月産1万5000トンと日本一の生産能力を誇り、フル稼働に近づきつつある。しかし、供給能力は上がっているものの、新設住宅着工の減少に伴い需要が落ちてきているため、販売量は微増にとどまっている。22年から23年は5%アップ、23年から24年は横ばいで推移している。

ホクシンは、日本で初めてMDFをつくり、国内生産量1位を誇る。「構造用スターウッド」は1995年、MDFとして初の大臣認定を取得し耐力壁の用途を開いた。業界としてもJIS改定(14年)により「構造用MDF」を規格化するとともに、18年3月に、構造用MDFが告示材料として認められたこともあり、より使いやすい環境整備が進む。

特に、住まい手の将来のライフスタイルや家族構成の変化を考えて、間取りの可変性を高められるように、より少ない壁で耐震等級3の家づくりを行っている住宅事業者などからの採用が増えているという。また、優れた透湿性、耐久性を発揮するMDFは、住宅高断熱化による壁内結露発生の潜在的リスクの抑制に寄与するため、等級5・6・7レベルの高性能住宅を手がける住宅事業者からの支持も集めている。

「評価機関で足元の動向を聞いたところ、現在採用している工法や建て方がそのまま使えるのかを確認したいという防衛策が先行して、壁倍率の上限が緩和されたことを受けて積極的に、新たな工法を確立していこうとする動きは一部にとどまっているようだ。筋交いなど低倍率の耐力壁仕様をうまく組み合わせて対応している住宅事業者は少なくないが、今後は4号特例縮小を機に、徐々に高耐力の耐力壁のニーズが高まっていくとみている。構造用MDFの4.3倍や足し合わせによる高倍率の壁を告示仕様で実現できる強みをしっかり訴求していきたい」(技術開発部 西山直秀 氏)考えだ。

アイカ工業の「モイスTM」は、優れた壁倍率に加え、さまざまな強みをバランスよく有している点が支持を集める

アイカ工業の「モイスTM」は、けい酸カルシウム板をベースに、天然鉱物のバーミキュライト、けい砂などを配合して製造する、天然素材が主成分の多機能建材だ。繰り返しの地震への強さ、透湿性能、バリエーション豊富な防火構造認定などを訴求し、販売拡大を目指している。4号特例縮小の影響については、「構造に関する質問が増加しており、特に高さに関わる部分や、壁倍率の上限が7倍へと引き上げられたこと、モイスTMの使い方に関する問い合わせがあるものの、全体としては劇的な変化はない」という。

モイスTMは、釘ピッチで壁倍率をコントロールでき、様々な壁倍率の大臣認定を取得している。木造軸組工法で最大壁倍率3.8倍、枠組壁工法で最大4.0倍などの認定を取得しており、優れた耐震性を発揮する。初期剛性、最大荷重、粘り強さなどバランスよく備えているのも特徴だ。

特に、防火構造認定については、他社と比較して多くのバリエーションを持ち、外壁の選択肢を広げる点で強みとなっている。多種多様な納まり、仕上げ材で防火構造認定を取得しており、市街地などの防耐火規制の厳しいエリアで建てる木造住宅でも幅広く対応が可能。木製外装材、ガルバリウム鋼板などを含む外装材を使用できる自由度が高く、外観に特徴を持たせ、差別化を図りたい住宅事業者から支持を集めている。

また、透湿性、気密性を併せ持ち、省エネ・長寿命の家づくりを下支えする。住宅の高気密・高断熱化の流れの中で、モイスTMの透湿性は壁内結露対策として評価されている。

こうした様々な強みをバランスよく有している点が、高付加価値化を進める工務店などからの支持を集め、「代替することができない唯一無二の建材」と評価する熱烈なモイスファンも存在する。

同社は、デザイン性を重視したメラミン化粧板や「セラール」などの内装建材も扱っているため、ビルダーや工務店への直接営業が可能であり、「モイスTM」のPRを強化していく方針だ。「近年、SNSで人気が爆発したスタイリッシュカウンターとスマートサニタリーは、造作洗面化粧台市場の拡大に貢献しており、モイスTMの販売にも良い影響を与えると期待している」(同社)。

壁倍率の上限が5倍から7倍に
新商品開発の動きも

壁倍率の上限が7倍まで引き上げられたことで、やはり高倍率の耐力壁のニーズは高まっていきそうだ。

ホクシンは、9㎜の高密度MDFと特注ねじとの組み合わせにより、壁倍率7倍相当が実現可能であることを実証した

日本ノボパン工業の服部部長は、「壁の両面に面材を使い、壁量を増やす提案も可能となる。告示の4.3倍と真壁の2.5倍を組み合わせることで、7倍近くの壁とすることもできる」と話す。

壁倍率7倍の高性能耐力壁の開発の動きも出てきている。ホクシンは、「法改正により必要壁量が増加し、高耐力の耐力壁のニーズが高まっていく。3階以上の建物では7倍程度の壁が必要になっていく」のはもちろん、加えて「生産年齢人口の減少に伴い、建築現場での人手不足も大きな課題」とみる。そこで、22年度から3年間、国土交通省の補助事業「住宅生産技術イノベーション促進事業」の支援を受けて、MDFをより高密度化するアプローチを選択し、全く新たな素材「積層MDF」の開発と仕様の開発に取り組んだ。23年度には、4.5㎜の高密度な板を2枚積層して9㎜とした高密度MDFと特注ねじとの組み合わせにより、壁倍率7倍相当の高い壁倍率が実現可能であることを実証した。しかも、非常に少ないねじの本数でこれを実現しており、大幅な施工時間短縮=生産性向上が期待できる結果を得た。通常の構造用MDFを用いた告示仕様のくぎ本数との単純な本数比較で約7割削減できるという。
4階以上の建物での使用などを想定し、15倍から20倍程度の壁の強度を目指した実験も行ったが、土台へのめり込みや柱のちぎれといったことが起こり、躯体の強度が追いつかないという課題があることも分かった。まずは、7倍程度の壁について、1年以内のリリースを目指す。

構造計算にシフトし設計自由度向上
狭小耐力壁のニーズが高まる

25年4月からの4号特例縮小後も当面は、壁量計算など仕様規定により簡易に構造安全性を検討する事業者が大半を占めるとみられるが、より精緻に構造の安全性確認ができ、壁量が減り、コスト削減にも寄与するため、徐々に許容応力度計算による構造計算へのシフトが進むことになりそうだ。そこで、注目を集めるのが、許容応力度計算が必須となる狭小耐力壁だ。狭小住宅などにおいて、設計の自由度を高めながら、より開放的な空間を創出するためにも、狭小耐力壁へのニーズは高まっている。

タツミは、鋼材が持つ強度や靭性を木造に生かし、その合理化を提案する工法「TN-WOLSH(ティーエヌ・ウォルシュ)」シリーズを展開。同シリーズに壁面材にバーリング孔付き鋼板(バーリング面材)を用い、木造の設計方法・施工性をそのままに鋼材の強度と靭性を融合させた狭小耐力壁 「TN-WOLSH Burring Wall(バーリング・ウォール)」を加え25年3月に発売した。日本製鉄、NSハイパーツと三者で共同開発したもので、壁長さ455㎜で壁倍率6倍相当を実現する。日本製鉄のスチールハウスで使用されている技術を木造用にカスタマイズし、狭小住宅のニーズに合わせた商品として開発した。穴が開いた鋼板自体が日本製鉄の特許技術であり、これにより強度が増し、粘り強さが向上。鋼材の特性を活かし、木材の変形性能が乏しい点を補うことができる。複数の穴が開いていることで地震時の水平力に対してしわが寄りにくく、一点集中を避けて力を分散させ、変形性能を維持できる。

タナカの「新・つくば耐力壁」〈K型〉(左)と〈X型〉(右)。施工性の高さから、販売実績が右肩上がり

釘打ちは通常の木造の釘打ち機で行え、薄板鋼板の裁断も通常の電動鋸で現場切断が可能と、構造用合板と同様の取り扱い方ができる。施工は枠材に面材を留め付け、構造躯体にはめ込んで枠材を専用ビスで留めるだけ。合板耐力壁と同様の設計・施工が可能で、特殊な計算や工具が不用で、オープン工法で誰でも使うことができる。壁勝仕様と床勝仕様で使用することが可能で、柱材間内法寸法は350㎜と335㎜の2種、横架材間内法寸法は1860㎜~3340㎜まで対応可能。

商品企画開発チーム 主任の山田塁史氏は、「住宅の狭小化やエンドユーザーの構造への安心安全ニーズの高まりから、引き合いが非常に多い。オープンな工法であり、特殊な計算が不要で、扱いやすい点も評価されている」と話す。

タナカは、柱間450、455、500㎜幅で高い壁倍率の耐力を確保できる狭小耐力壁2段筋かい「新・つくば耐力壁〈K型〉」を製造・販売する。455㎜幅で壁倍率5.0倍相当(1mあたり)の耐力を確保した。建築基準法で定める許容応力度計算を行うことにより採用できる。構造用面材として構造用合板、MDF、PBなどを組み合わせることで、壁倍率を最大6.91倍相当(1mあたり)まで高めることができる。寸法加工済みの木材(筋かい・中桟)と金物は1壁ごとに箱入りセットで納品される。専用の基礎金物や柱、構架材への加工が不要であるなど、施工性の高さも特長の一つで、一般的な筋かいを取り付けるような感覚で施工が可能だ。「特殊な部材を使用しないため、他の狭小壁の製品と比べて、コスト競争力にも優れている。毎年、販売実績は右肩上がりで伸びており、25年4月も昨年を上回る注文を受けている。とはいえ、狭小耐力壁の認知度が高くなっているとは言えない。2階建て住宅における許容応力度計算の普及率がまだ数パーセントであることを踏まえれば、今後まだまだ市場成長の伸びしろはあると期待している」(同社)。

さらに、24年4月、かねてより要望の多かった、より高耐力で、狭小壁に対応した室内壁用の筋かい耐力壁が欲しいというユーザーの声に応え、「新・つくば耐力壁〈X型〉」を追加した。筋かいのみで相当壁倍率6.3倍~7.0倍(1mあたり)の耐力を確保することができる。構造用面材を施工することが難しい室内壁への使用に最適だ。X型の追加販売から1年が経過し、壁倍率7倍という点で設計の自由度が高まるとして設計事務所などから好評を得ている。K型とX型をバランスよく組み合わせるケースや、X型のみで設計するケースも出てきている。

ビスダックジャパンの「タフボード」は、狭小住宅でも高耐久力を確保したいといったニーズから、幅455㎜の製品の引き合いが増えている

ビスダックジャパンは、約10年前に柱間にはめ込み、釘で留め付けるだけで、施工が完了する木造軸組工法用の耐力壁「タフボード」を開発し、順調に販売実績を伸ばしている。幅900㎜で壁倍率4.5倍の大臣認定を取得している「タフ900」をはじめ、幅600㎜で壁倍率3.8倍相当の「タフ600」、幅455㎜で壁倍率3・5倍相当の「タフ455」の3種類をラインアップ。特殊な材料は一切使用せず、木質系面材、製材のみを組み合わせて高耐力を実現できるシンプルさが特徴で、施工性の高さが支持を集めている。袖壁や、狭小の耐力壁など、これまで耐力壁を設置できなかったところの柱間に、タフボードをはめこみ施工をするだけで耐力を確保できる。

開発担当・高島章氏によると、「455㎜幅は建築基準法で認められていないが、大臣認定品の『タフ900』と同じ試験所で同じ試験内容を実施し、その試験報告書をもって許容応力度計算での運用で第三者機関への確認申請となる。主事判断となるが、これまでほぼ100%申請が下りている」という。

4号特例縮小の法改正前後で、法改正前の昨年末は、着工減に連動してタフボードの販売も振るわなかったが、4月以降に問い合わせが急増、例年比で3~5倍の資料請求があるという。特に近年は、狭小住宅でも高耐力を確保したいといったニーズから、幅455㎜の製品の引合いが増えている。他社の狭小耐力壁と比べて、金物や、プレカットなどが不要で使いやすい。後から壁が足りない場合にも対応できる点や、2階以上でも使用できる点も強みだ。

高島氏は、「狭小耐力壁を設置して一般的な耐力壁を狭小壁に置き換え大開口を確保し開放的な空間を創出する、あるいはガレージの袖壁に狭小壁を設置して、大空間を確保しつつ、車の出し入れもやりやすくするといったニーズは高まってきている。『タフ455』で十分に要求性能は満たしているものの、将来を見越し、さらに高倍率の狭小耐力壁の開発も進めている」と話す。

また、タフボードや、独自開発の接合金物などを組み合わせ、在来軸組工法の六工種(床・壁・間仕切・天井・小屋・屋根)をパネル化し、パネルを組み立てる「在来軸組六工種パネル構法」を開発し、住宅・非住宅それぞれの分野で販売を強化する。「職人不足が深刻化する中で、建築資材を輸送、職人の確保が難しい離島や、短工期での建設が求められる案件など、より施工条件の厳しい場所での活用実績が増えている」(高島氏)という。

同社は、非住宅分野の開拓に向けて、自社の工場内に、引張り強度、圧縮強度、曲げ強度などを計測できる構造関連の試験機も導入し、予備試験を重ね開発のスピードアップを図っている。予備試験で裏を取ってから本試験に臨むことで、より迅速かつ効率的な製品開発が可能になる。まずは公共工事などでトータルコストの観点から競争力がある点を訴求し、採用案件を増やしていきたい考えだ。建材試験センターで、より高強度の柱脚金物を新たに開発し、105角、120角の製材を使用して一体化したパネルで試験を行った結果、引き抜き強度は、120角の製材で52.5kN、105角で46.1kNという高い性能を持つことが確認できた。25年中に販売を開始する計画だ。

スクリムテックジャパンの「壁無双450」。業界最強クラスの最大29倍相当の壁倍率を誇る

スクリムテックジャパンは21年から、柱と耐力壁を一体化させた450㎜の高耐力壁柱「壁無双450」の本格販売を開始、住宅、非住宅を問わず、採用実績が積み重なっている。120㎜×450㎜×高さフリー、150㎜×450㎜×高さフリーの2種類をラインアップし、120㎜×450㎜×2840㎜は壁倍率22倍相当、150㎜×450㎜×2840㎜は29倍相当の耐力を実現した。業界最強クラスの強度を誇る。他社の一般的な狭小耐力壁などと比べて、450㎜というサイズが柱の芯-芯間距離ではなく、外-外での寸法であり、より狭い幅で圧倒的な高耐力を確保することができる。

構造材同士の接合部の強度を高めるため、木材に穴をあけ、そこに挿入された棒状の接合具との空隙に注入・充填された接着剤の硬化により、接合耐力を発生させるGIR(グルードインロッド)という接合金物を独自に進化させた「タフネスコネクター」と柱脚金物「キューブコネクター(鋳物製)」を使用していることが特徴で、工場でGIRに接着剤の注入まで行い、接合金物を取付けた完成品を現場に納入。そのため、現場で行う作業は柱脚・柱頭をナット締めするだけの簡単施工を実現した。さらに、柱脚のキューブコネクターはアンカー取り合い部分に親子フィラーを採用し、アンカーのズレを吸収する。また、キューブコネクターは、土台の高さに合わせて設計しているため、室内空間への金物露出は一切なく、集成材の壁柱のみそのまま現しで使用することができる。デザイン性も評価され、24年のグッドデザイン賞も取得している。河野泰之社長は、「コスト面については、単体で見ると高いものの、壁倍率で割ると安くなる」と説明する。

成長が期待される中大規模木造建築市場
より高耐力、使いやすい耐力壁が鍵に

成長市場として期待される中大規模木造建築の分野でも大空間の確保、中高層化を実現する上で、耐力壁が重要になる。

日本ノボパン工業の構造用PBは、三井ホームが推進する、木造マンションの新ブランド「MOCXION(モクシオン)」において、国内最高レベルの壁倍率30倍を実現する高強度耐力壁「MOCX WALL(モクスウォール)」に、要の建材の一つとして使用されている。特殊な材料を使用せず、一般的な枠組み工法の耐力壁と同じ構成にすることで、特殊な工具や技能がなくても組み立てることが可能。また、大断面木材を使用しておらず、容易に組み立てることができ、工期短縮とコスト低減につながる。
ホクシンは、中大規模木造市場開拓の一環として、3600㎜までの長尺サイズの対応が可能な構造用MDFを開発した。一般的な耐力面材の高さは3000㎜で、より高い階高が求められる中大規模木造において、高さ3600㎜を確保しようとすれば、耐力面材をもう一枚継ぎ足す必要があるが、高い階高でも1枚で対応可能となり、コスト削減、省施工に貢献する。また、構造用MDFの提供による高倍率体力壁の開発をハウスメーカーと共同で進めているという。

アイカ工業は、耐力面材の「モイスTM」の他に、内壁や天井の内装として使用できる「モイスNT」もラインアップしている。今後は、住宅市場だけでなく、文教施設などの非住宅市場にも注力し、「モイスNT」の販売を強化する方針だ。

タナカは、「新・つくば耐力壁〈K型〉〈X型〉」発売当初は主に都市部の狭小地の3階建住宅への採用を想定していたが、非住宅案件などへの採用も全国で広がっており、その出荷量が大きく伸長している。非住宅向けのプランとして、1階が駐車場になっているプランが好評であり、小規模ガレージや事務所としての受注実績がある。

さらに、「新・つくば耐力壁〈K型〉〈X型〉」を連層で用いるための技術開発も進める。例えば3階建ての1階、2階部分に7倍、3階部分が5倍の高耐力壁を連層で使用すると、今までの一般的な60~70kNのホールダウン金物では、必要な性能を満たすことができないケースがあった。そこで、連層の高倍率耐力壁に対応したホールダウン金物「高耐力ホールダウンHi84」を新たに開発した。従来の施工方法を維持しつつ高い耐力を実現していることが大きな特徴で、一般住宅で使用される、断面寸法105㎜角以上の柱材を使用し、専用のM16のアンカーボルトでの施工が可能。約80kNの引き抜き耐力を確保することができる。また、〈通常仕様〉に加えて、柱と枠材を一体化させ、柱の土台へのめり込みに対応した〈枠材仕様〉も用意している。25年3月から受注生産を開始した。

タツミの狭小耐力壁「TN-WOLSH Burring Wall」は、特殊な計算が不要で、扱いやすい点も評価されている

さらに、中大規模木造建築をターゲットとしたホールダウン金物「高耐力ホールダウンHi143」も新たに開発した。断面寸法120㎜角以上の柱材を使用し、専用のM20のアンカーボルトでの施工が可能で、7倍を超える高耐力壁への使用を見込んでいる。例えば、保育園の、子供たちが遊ぶホールなど、大空間を創出するのに最適な商品だ。

タツミの狭小耐力壁 「TN-WOLSH Burring Wall」は、サイズも豊富で、それほど高い階高を求められない非住宅建築、例えば事務所や店舗などでは、問題なく使用することができる。また、25年5月以降、80kN対応の独立柱脚金物など、中大規模木造建築向けの新商品をはじめ10数アイテムを順次発売する計画だ。

スクリムテックジャパンが独自に開発した靭性型接合金物「タフネスコネクター」は、木材に棒状の接合金物を挿入し、接着剤で硬化させるという考え方は、一般的なGIRと同じだが、木材に挿入する棒状の接合金物の形状を工夫することで、粘り強さを持たせることに成功した。木質構造において、設計の自由度を確保しつつ、中高層化の道を拓く接合金物として注目されている。

接合耐力・剛性共に使用本数に比例し高まり、スチール側の破断で終局を迎えるため、木材の材料強度に影響されることなく安定した接合耐力を確保でき、構造設計者にとっても扱いやすい。また、金物が木材表面に露出しないため、木材の美しさを最大限に生かす設計が可能だ。金物及び接着剤は全て木材内部に埋設する、燃え代内部に金物を配置することで高い耐火性能も発揮する。「タフネスコネクター」を使用し、柱と耐力壁を一体化させた450㎜の高耐力壁柱「壁無双450」は、住宅での採用が多いものの、最近では医療施設や店舗での利用も増えている。非住宅事例としては、現在、軽井沢で建設が進む、六角形の特殊な形状の建物での採用が決まっている。通常の耐力壁では対応できないが、「壁無双450」を使用することで、少ない壁量で十分な耐震性能を確保でき、開放的な空間を創出できる点が評価された。

また、国土交通省の住宅生産イノベーション促進事業の採択を受け、4階建てのラーメン構造の開発も進めている。河野社長は、「地場の工務店などが、4階建ての中大規模木造を建てようとしても、既存の技術では難しいが、当社の技術を使用することで、現場でのナット締めだけで建てることが可能となる」と話す。

4号特例縮小という大きな法改正、また、中大規模木造市場の拡大などに伴い、耐力壁市場も新たなステージに入ろうとしている。