中大規模木造建築を進化させる技術
大空間、大スパンなどを実現する新技術が続々
脱炭素の追い風を受けて、成長市場として期待される中大規模木造市場。
いかにコストや施工性に配慮しながら木造で大空間、大スパン、高層化を実現するか、また、木材の腐朽を抑えメンテナンス性を高めるか、中大規模木造をさらに進化させる技術開発が加速している。
伐採期を迎えた国産材の利用拡大に向けて、建築物の木材利用を促進していこうとする機運が高まり、木造建築市場に追い風が吹いている。また、脱炭素、SDGsといった観点からも、循環型資源であり、炭素貯蔵効果が期待できる木材を建築物に積極的に活用していこうとする動きが広がっている。中でも新市場として期待を集めるのが中大規模木造市場だ。人口減から新設住宅着工戸数が減少することが見込まれる中で、非住宅、中高層住宅や店舗・事務所をはじめ住宅以外の建築物での木材利用の促進を進める動きが活発化している。
令和5年度森林・林業白書によると、我が国の令和5(2023)年の建築着工床面積の木造率は44.7%であり、用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅は80%を超える。しかし、低層非住宅建築物は15%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下で、低層住宅以外の非住宅・中高層建築物の木造率は、5.8%と低い状況にある。一方、低層で500㎡未満の床面積の小さい非住宅については、木造率43%(国土交通省「建築着工統計」令和4(22)年度)に基づいて林野庁が算出)となっている。既存の住宅建築における技術をそのまま使える場合があることなどから木造率が比較的高い傾向にある。
中大規模木造市場拡大への期待が高まる中で、様々な事業者が取り組みを活発化させている。木造化率の低い低層の500~3000㎡未満(22年度の木造化率14%)の建物などを含めて、今後さらに木造化が進むことで、大きな市場拡大のポテンシャルを秘めている。
耐火、防火それぞれのハードルを
クリアする技術開発が加速
ここにきて4階建て以上の木造建築についても、いかに構造、耐火それぞれのハードルをクリアして、市場競争力を持たせることができるか、業界団体などを中心に技術開発が加速している。
(一社)日本木造住宅産業協会では、現在、最大20倍の壁倍率を目指した構造用耐力壁の開発が進行中で、4階建ての建物で1階部分に使用可能な強度を実現することを目標としている。「20倍相当になると知見が少なく、今まで提供している高耐力壁とは違うものになる。柱頭柱脚の金物から全て開発している。これまでと同様、施工性やコストを考慮して誰もが使いやすい形で提供することを目指している。24年度は実物大で試験、検証をして25年度中に構造評定を取得したい」考えだ。
(一社)日本ツーバイフォー建築協会は、24年度90分耐火構造の間仕切壁(断熱材有・無)の大臣認定試験を実施し認定申請を行った。引き続き外壁の90分耐火構造の大臣認定の取得に取り組む。コスト、施工面でより合理的な防耐火被覆で、4階建て以上の防耐火構造の整備を進める。実現すれば、1階が90分耐火構造、2階から5階の4層が1時間耐火の、5階建ての木造建築などが建てやすくなる。
コスト、施工性を抑えながら
大スパンを確保して設計自由度も向上
中大規模木造建築にかつてない追い風が吹く中、その進化を支える技術開発も加速している。いかに高耐力の壁や、梁材を開発して実現して大スパンを確保し、設計自由度を高められるか。壁の高耐力化に伴い、接合部により大きな力が加わるため、より高耐力な金物も必要になる。金物メーカーなどを中心に新商品開発が相次いでいる。
タツミ、高耐力壁、鉄骨梁など
独自の技術開発で木造を進化
タツミ(新潟県見附市)は、鋼材が持つ強度や靭性を木造に生かし、その合理化を提案する工法「TN-WOLSH(ティーエヌ・ウォルシュ)」シリーズを展開している。同シリーズに壁面材にバーリング孔付き鋼板(バーリング面材)を用い、木造の設計・施工面の汎用性をそのままに鋼材の強度と靭性を融合させた狭小耐力壁 「TN-WOLSH Burring Wall(バーリング・ウォール)」を加え25年3月に発売する。日本製鉄、NSハイパーツと三者で共同開発したもので、壁長さ455㎜で壁倍率6倍相当を実現する。釘打ちは通常の木造の釘打ち機で行え、薄板鋼板の裁断も通常の電動鋸で現場切断が可能と、構造用合板と同じように取り扱うことができる。施工は枠材に面材を留め付け、構造躯体にはめ込んで枠材を専用ビスで留めるだけ。合板耐力壁と同様の設計・施工が可能で、特殊な計算や設計が不用で、オープン工法で誰でも使うことができる。壁勝仕様と床勝仕様で使用することが可能で、柱材間内法寸法は350㎜と335㎜の2種、横架材間内法寸法は1860㎜~3340㎜まで対応可能。住宅や非住宅などさまざまな建物で使用することができる。
25年4月に4号特例の縮小がスタートし、確認申請に構造関係書類の提出が求められることになる。これまで以上に耐力確保とプランニングの両立が重要になる。何も手を打たなければ、壁量増加により、コストアップ、プランの制約を受けることは避けられない。開放的なプランを作るためには、住宅、非住宅を問わず、狭小耐力壁は欠かせないものとなりそうだ。
商品企画開発チーム 主任の山田塁史氏は、「狭小耐力壁は、もはや珍しいものではなく、バーリング・ウォールは後発品となるが、その中でコスト面、性能面において、できるだけ手に取りやすい商品となるように開発した。発売前だが、すでに年間数百棟規模を供給する住宅会社から標準採用いただくことが決まっている。サイズも豊富で、それほど高い階高を求められない非住宅建築、例えば事務所や店舗などでは、問題なく使用することができる」と話す。
また、一般流通する木材と軽量H形鉄骨梁を組み合わせた「TN-WOLSH Beam(ウォルシュ・ビーム)」を開発し、販売を強化する。軽量H形鋼を既製品の梁受金物を用いて木材と接合する工法を開発し、ローコストで最大12mのスパンを飛ばすことができるようにした。木造で大スパンを実現するハードルが高く、一般的に特注の大断面集成材を使用するか、トラス構造を用いるかの2つの方法しかない。しかし、大断面集成材はコストが跳ね上がり、梁せいが大きくなるため天井高を確保することも施工も難しくなる。トラス構造の金物も複雑で、地面で組んでからクレーンで吊り上げる必要あり、場所の確保も必要になる。「第3の選択肢として鉄骨梁を使ってみてはというのがウォルシュ・ビーム開発のコンセプト。条件にもよるが、コストを大幅に抑えることができ、簡単な施工で済む」と話す。採用実績も着実に伸長している。昨年の実績で5物件約30本が採用されたが、今年は2月時点ですでに大型案件など、50本以上の採用が決まっている。
また、タツミは、金物メーカーとしてだけでなく、プレカット、構造設計もグループ内で対応できることが大きな強みだ。プレカット工場との連携強化や、構造設計から製造までの一貫したサービス提供により、中大規模木造建築においても競争優位性を発揮しやすい。現場からのニーズをいち早く汲み取り、商品開発にもつなげていく。25年5月には、80kNの独立柱脚金物など、中大規模木造建築向けの新商品10数アイテムを新たに発売する計画だ。

タナカ、高倍率耐力壁に対応した
ホールダウン金物を新たに開発
中大規模木造建築において接合部の処理が課題になっている。この課題に対し技術開発で対応を急ぐのが金物メーカーのタナカ(茨城県土浦市)だ。
同社では、25年4月の法改正に対応するため、「高耐力ホールダウンHi84」を新たに開発した。
同商品は、従来の施工方法を維持しつつ、高い耐力を実現していることが大きな特長だ。一般住宅で使用される断面寸法105角でも使用が可能で、施工に配慮したM16の専用アンカーボルトも準備している。また、断熱性能の引き上げによる建物の重量化、増加する柱への軸力やめり込みに対応できるよう、〈通常仕様〉の他に、柱と枠材を一体化させても使用できる〈枠材仕様〉もラインアップに加えて、25年3月中旬から受注生産で販売を開始する予定だ。
同社総合研究部開発推進課の円城寺修一課長代理は「今回の法改正で、壁倍率の上限が5倍から7倍に引き上げられる。例えば、3階建ての1階、2階部分に7倍耐力壁、3階部分に5倍の耐力壁が連層で配置されるケースが想定され、80kN相当の引抜耐力が必要になってくる。市場には100kNを超える柱脚金物は存在するが、いずれも軸組への加工や施工性の課題があるため、従来の施工方法を踏襲する形状で商品化した」と話す。
さらに、市場では中大規模木造建築において15倍を超える耐力壁の開発も行われており、接合部の高耐力化を要望する声も多い。そうした、中大規模木造建築の実情に合わせ、最小寸法を断面寸法120㎜角とし、M20の専用アンカーボルトを使用する「高耐力ホールダウンHi143」も同時に開発を行った。
「高耐力ホールダウンHi143」についても25年3月中旬から受注生産で販売を開始する予定だ。
さらにタナカでは、中大規模木造建築に求められる建物の高耐力化、建物の軽量化の両立に対し、「新・つくば耐力壁」、「勾配用オメガメタルブレース」の提案を強化している。
同社は幅455㎜の狭小壁に対応した筋かい耐力壁「新・つくば耐力壁」を展開している。
従来の「新・つくば耐力壁〈K型〉」は、柱間距離450㎜、455㎜、500㎜で運用が可能。幅455㎜で相当壁倍率4.1~5.0倍の耐力を確保している。面材を併用し、耐力を高めることも可能だ。また、専用の柱脚金物や軸組への加工が不要で、一般の筋かい耐力壁と取付けが同様であるため、施工性に優れている。
さらに24年4月には、かねてより要望の多かった「新・つくば耐力壁〈X型〉」を追加した。〈X型〉は面材を使用せず、相当壁倍率6.3~7.0倍の耐力を確保することができる。
外壁だけでなく面材を施工することが難しい室内壁への使用に最適だ。大空間に加え、開口を確保し、明るい空間を創出するため、ニーズの高い商業施設や事務所などで採用が増加している。
「勾配用オメガメタルブレース」も差別化を図ることができる注目の製品として位置づける。
同商品は、横架材間隔0.9m~3.0m(芯-芯寸法)に対応し、構面サイズに応じた水平構面の床倍率および勾配屋根の屋根倍率(勾配により屋根倍率は変動)を確保できる鋼製ブレースで、国土交通大臣指定の確認検査機関であるハウスプラス住宅保証の評価を取得している。
端部金物とブレースがセットになっているのが特長で、屋根倍率一覧表から任意の構面の倍率を選択でき、構面の寸法と屋根勾配を入力するだけで、ブレースの必要寸法が選択できる計算シートも用意し、採用のハードルを大幅に下げた。
また、M12ブレース仕様であるため、構造用合板と比べて重量が軽く、建物の軽量化にも寄与している。

ビスダックジャパン、在来木造のパネル化で工期を半分に
オープン工法のパネル化により、中大規模木造建築を建てやすくしようとする動きも出てきている。
ビスダックジャパン(大阪府堺市)は23年から、大阪公立大学の石山央樹准教授と共同で研究開発を進め、「在来軸組六工種パネル構法」を開発した。木質系面材、製材のシンプルな部材のみを組み合わせて高耐力を実現したタフボードや、独自開発の接合金物などを組み合わせ、在来軸組工法の六工種(床・壁・間仕切・天井・小屋・屋根)をパネル化し、パネルを組み立てることにより、一つの構法で構造躯体すべてを完成させることができる。壁用のパネルには、外壁下地材や開口部材を施工した状態で搬入することも可能だ。
従来のパネル工法のパネルは、軸材の外側に金物が露出するため、搬入の際、平積みすることができず、運搬効率が悪かったが、「在来軸組六工種パネル構法」のパネルは、接合金物が軸材の中に内蔵され、露出しないように設計されており、平積みすることが可能で運搬効率を高められる。
開発に携わる同社の高島章氏は、「通常の在来木造に比べて工期を半分に短縮できるため、現在の職人の数と同数のまま受注高を倍増させることが可能になる」と話す。
「在来軸組六工種パネル構法」の簡易的な構造計算のソフトを開発し、工務店などがよりスムーズに4号特例縮小への対応が可能になるように支援していきたい考えだ。また、(公財)日本住宅・木材技術センターの木造建築合理化システム認定の取得に向け申請作業を進めている。
加えて、4階建て以上の非住宅分野の開拓に向けて、自社の工場内に、引張り強度、圧縮強度、曲げ強度などを計測できる構造関連の試験機も導入し、予備試験を重ね開発のスピードアップを図っている。確実に予備試験で裏を取ってから本試験に臨むことができ、より迅速かつ効率的な製品開発が可能になる。まずは公共工事などでトータルコストの観点から競争力がある点を訴求し、採用案件を増やしていきたい考えだ。

都市木造も増加
耐久性、メンテナンス性が重要に
木造への関心が高まる中、今後、都市においても木造が増えていくことが期待されている。
ただし、金融機関から融資を受ける場合、木造建築物の法定耐用年数である22年で耐久性が評価され、結果として資金調達が難しくなるケースもあった。鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年であることを考慮すると、木造建築物の物理的な耐用年数を適切に評価する仕組みの構築が求められていた。
そこで国土交通省は、木造建築物の耐久性について、第三者評価の枠組みを構築し、25年4月以降、登録住宅性能評価機関での評価業務を開始すると発表した。
これにあわせて、「木造建築物の耐久性に係る評価のためのガイドライン」も公表している。いかに都市のビルなどの木造化・木質化を進めながら、耐久性、メンテナンス性を高めることができるかも中大規模木造普及の重要なポイントになる。
兼松サステック、独自の乾式処理で
木造耐久性、メンテナンス性を向上
木造建築の耐久性、メンテナンス性向上で、高い認知を誇るのが、兼松サステック(東京都中央区)の「ニッサンクリーンAZN処理木材」だ。業界で唯一の乾式保存処理木材で、木造建築をシロアリや腐朽菌から守り、長寿命化に貢献する。注入処理装置内に木材を入れて、減圧・加圧処理を行い、非水溶性溶媒に溶かした薬剤を注入し、注入処理装置内で溶媒を揮発させることで木材内部に薬剤のみを留める。水を使用していないため再乾燥は不要で、木材の加工、プレカット後にも処理することが可能。注入処理木材の寸法変化が極めて少なく、納品から施工までの時間も短縮できる。エンジニアリングウッドなど、ほとんどの木質材料に対応可能だ。
学校、企業のビル、商業ビルなどにおいて採用実績を着実に積み重ねている。「国立競技場」のトラック屋根の木材にも採用され、大きな注目を集めた。また、「上智大学四谷キャンパス15号館」の外観デザインを際立たせている、異なる太さの木材を交差させた格子など、都市木造のシンボリックな案件で多数の採用実績を持つ。また、学校の改修案件などにおいても、木材を多用して大きく外観デザインの印象を変える事例なども出てきている。
営業推進部には、木構造を専門とする構造設計一級建築士のアドバイザーも在籍しており、大手ゼネコンや設計事務所などに対して、設計プロジェクトの初期の基本設計段階から、中大規模建築の木造化、木質化の技術提案を強化している。
「デザイン性を高めたいという理由で、あわらしに木材が使用されることが多い。ニッサンクリーンAZN処理木材に加えて、木材保護塗料を塗ることで、耐候性を高めることができる。木材にとっては雨が大敵なので、いかに水はけよく、雨が滞留しないように木材を使用するかが重要。豊富な実績があり、設計の初期段階でアドバイスを行えることも強み」(木材・住建事業部 小林亮介氏)という。
中大規模木造をさらに進化させる技術開発が加速している。競争力を高めていくためには、最新の情報を更新し、使いこなしていくことが重要だ。

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