外装改修の新たな潮流

塗替え市場拡大に向け高耐候の付加価値提案

コロナ禍の巣ごもりニーズが終焉を迎え一服感のある外装リフォーム市場。とはいえストック市場に眠るニーズは根強く、その回復が近いとみられる。塗料各社は、こうした新たな市場に向けて商品ラインアップの強化に力を入れている。高耐候や省エネなどのニーズに応える新たな商品が続々と市場に投入されている。


(一社)日本塗料工業会によると、2023年度の建物における塗料需要は前年度比2.0%減の32万7000t。また、建築仕上げ材・材料メーカーが集まる(一社)日本建築仕上材工業会によると、建築仕上材塗材の2023年の生産数量は、16万1906t、前年比3.0%減である。

もちろん、これらは住宅向けだけではないが、減少の要因として(一社)塗料工業会では、資材価格の高騰、職人不足などが需要を押し下げたとみている。また、新築・塗替えともに低調で、特に戸建住宅関連は消費マインドの冷え込みもあると指摘している。

住宅用塗料の出荷の約8割を占めるのが改修向け、つまり外装の塗替えがその多くを占めている。この改修についてコロナ禍では安定した需要があった。新型コロナウイルスの感染拡大のなか、巣ごもり需要と呼ばれた住まいを快適にしたいというニーズが高まった。外を出歩けなくなった分、住まいに目が向いたのである。そのなかでリフォーム市場は堅調に推移し、外装塗替えもその一つとして従来プラスアルファの需要が発生した。

しかし、コロナウイルス感染症が5類に移行し社会環境が平時を取り戻すなか、物価上昇なども相まってリフォーム需要は一服する。「今年に入ってからリフォーム関係が厳しい。コロナ禍の伸びが想像以上で、その反動という一面も」(関西ペイント 建設塗料本部建設塗料営業部マーケティングG)との指摘もある。

とは言え、各社主力商品は安定した販売が続いていることもあり、市場変化のなかで出荷は若干の減少傾向が続いている。

ただ、各社は、こうした状況は長くは続かず遠からず需要は戻るとみている。新築住宅の需要拡大を見込むのは難しいが、主力の改修市場の拡大に期待だ。「ストック需要は間違いなくある。今年秋、遅くても来年春には需要は戻るのではないか」(菊水化学工業・戦略企画室)、「非常に多くのストックが存在することから、外装塗替え市場はまだまだ伸びていき、長期間安定した需要が期待できる」(関西ペイント)とみられる。

(一社)日本塗料工業会では、24年度の需要について、賃上げや株価上昇による経済の好循環、国内政策による各種助成が進み個人消費が回復し、マンション大規模修繕や都市再開発の活性化などにより、同4.1%増の34万tを見込んでいる。

付加価値向上にしのぎを削る
高耐候性をさらに安く

こうしたなか、塗料メーカー各社は次の時代を見据えた商品ラインアップの拡充に力を入れている。ニーズに応え付加価値を上げる取り組みだ。

住宅の外装塗装は、大きく下塗り材と上塗り材の2種に分けられるが、これまでの上塗り材の変遷を簡単に見てみると、2000年代初頭ではシリコン樹脂系の塗料が主流であった。耐久性が高いフッ素系樹脂塗料も存在はしたが高額であることがネックでボリューム層にはなり得ていない。

こうしたなかで2012年に日本ペイントがラジカル系塗料を発売する。ラジカル系塗料は、耐久性、価格ともにシリコン樹脂系とフッ素樹脂系の間に入る商品で、シリコン樹脂系塗料に代わり大きなボリュームゾーンとなっている。塗料の主成分である酸化チタンは紫外線を浴びることで塗膜劣化因子を発生するが、ラジカル系塗料はこの発生を抑制するなどの技術により耐久性を伸ばし、塗替えまでの年数を長くすることができる。

さらに10年ほど前に無機系塗料が登場、現在、各社がその拡充に力を入れている。無機系塗料はフッ素系塗料よりも耐候性は高いが比較的求めやすい価格とすることができ、現在のボリュームゾーンであるラジカル系塗料の少し上のレンジに位置する。当初は塗膜の硬さを制御することが難しく、経年で硬くなりすぎ塗膜劣化しているわけでもないのに割れてしまうこともあった。さらに価格もフッ素系塗料よりも高額であった。しかし、さまざまな技術開発により、こうしたネックがクリアされてきている。

今、この無機系塗料をいかに拡充していくかが大きなトレンドとなっている。


日本ペイント
無機系塗料の第1弾を発売
技術開発が生む高耐候性を訴求

日本ペイントは、一般住宅向けの無機系の上塗り塗料に力を入れていく。その第一歩となったのが今年6月に発売した「グランセラトップ 2液ファイン」だ。高耐久のハイグレード外壁・付帯部用塗料で、下塗り材を変えることでモルタル、コンクリート、サイディングボード、ALCなど幅広い素材への塗装が可能だ。

最も大きな特徴はフッ素樹脂塗料を超える高い耐候性だ。ラジカル制御技術にセラミックハイブリッド技術を融合することで、高い耐候性と超低汚染性を実現した。

一般的な塗膜は、酸素や水とともに紫外線があたると、顔料の主成分である酸化チタン内からラジカルが発生し、塗膜劣化を誘発する。そこで同製品ではラジカル発生を抑え、かつ発生したラジカルをバリヤー内に封じ込める高耐候酸化チタンの活用技術を採用した。さらに光安定剤の併用により、ダブル効果で優れた耐候性を発揮する。

この技術にさらにセラミックハイブリッド技術も融合した。

これは有機成分と無機成分を配合する技術。従来、無機塗料は紫外線に強く、高い光沢性と燃えにくさが特長であるが半面、塗膜が割れやすい性質があった。同製品では、無機の硬い部分と有機の柔軟部分をハイブリッド化することで「弾性」の性能が発揮される。表層に配向した無機系成分によって超低汚染性も発揮する。

これらの技術により、「グランセラトップ 2液ファイン」はフッ素を超える高耐候性を持ち、長期的にみて塗り直しの塗装回数が減り、メンテナンス費の削減につながる。


高耐候性と超低汚染性を誇る、日本ペイントの「グランセラトップ 2液ファイン」

意匠面では、美しいつやがポイント。これは高いレベリング性によるもので、ローラーで施工した時に平滑な膜を形成しやすく仕上がりが均一となる。さらに、つや有り・7分・5分・3分つや有りと幅広い対応も可能だ。

弾性タイプの下塗り材と組み合わせることで外壁のひび割れに追従でき、各種の弾性形塗料の塗替えにも適応できる。

また、「超低汚染性」(親水性機能)により建物外観に付着した汚れを雨とともに洗い流すとともに、防藻や防かび機能とあわせて、建物の美観と清潔な環境を守ることができる。

発売からまだ日は浅いが、塗装作業性については従来品の「パーフェクトシリーズ」から継承している。「塗着効率が高く塗りやすい」などのポイントが施工者から「扱いやすい」と好評で、仕上がりについても「つや感や平滑性、しっとりとした肌感などが高く評価」(マーケティング本部 マーケティング部 製品担当)され、販売の滑り出しは好調だ。

同社は、今年10月にも「グランセラシリーズ」から新製品を発売予定であり、無機系塗料のラインアップ拡充に力を入れる。

【菊水化学工業】
無機系のラインアップを充実
課題解決に向けた提案営業が強み

外装改修市場が一息つくなか、菊水化学工業は今年7月、「ロイヤルセレクション」シリーズに「ロイヤル無機」、「ロイヤル無機遮熱」、「ロイヤル無機α」、「ロイヤル無機α遮熱」を発売した。

「ロイヤルセレクション」は、一人ひとりにあわせた戸建て塗替え用塗料を提案するシリーズ。同社では同シリーズのリニューアルを進めており、その第一弾として新たに追加したのが無機塗料の4種だ。「リフォーム業者などで差別化を図りたいが、フッ素まではいかないというニーズが顕在化してきた。市場が活性化した時に揃えるのでは遅い。まずは住宅向けのラインアップの充実から」(戦略企画室担当)という狙いだ。

例えば、「ロイヤル無機α」は美観、保護、機能性を高いレベルで両立させたハイエンドクラスの塗料。フッ素系塗料を上回る超耐候性、超低汚染性を持続、さらにトリプルブロック機能を掛け合わせることで建物を長期にわたり保護する。トリプルブロックとは、紫外線吸収剤(UVA)が紫外線を吸収、吸収仕切れない紫外線を酸化チタンのデンスシリカ層により劣化因子となるラジカル発生を抑制する。さらに発生を抑えきれなかったラジカルは光安定剤(HALS)で制御して塗膜の劣化を抑える。

「ロイヤル無機α遮熱」は、超耐候性、超低汚染性の機能はそのままに、チタン系黒色遮熱顔料の配合により遮熱効果を加えた商品だ。

同社は、建築用仕上塗材メーカーとして、塗装業、防水業、タイル業、左官業、吹付業などさまざまな業種と接点を持ち多くの製品を開発、発売してきた。その強みを言い表しているのが、「6つのソリューション」だ。

これは、環境対策、省エネ対策、美観回復、剥落対策、機能回復、漏水対策という6つ。これらの困りごとを解決する提案を主軸に据え、「製品を押し付けるのではなくニーズにマッチする提案営業」(戦略企画室担当)を展開している。施工管理部隊も持ち、特殊なニーズに対して責任施工で行うことも可能としている。

同社の特徴の一つに「バイオマスバランスアプローチ」がある。これは塗料の主成分の樹脂生産の第一段階で、化石由来原料(ナフサ)とともに生物由来原料(バイオナフサ)を使用し、製品の一部にCO2削減量を割り当てることができる手法のことで、第三者機関の認証も受けている。「水系ファインコートフッ素」シリーズで導入しており、1缶あたり製造過程のCO2排出量を従来品よりも10㎏削減した。

美観の維持、長期耐久性、省エネなど塗料に求められる性能は様々だが、カーボンニュートラルの流れのなか、こうした視点からの商品開発、技術開発も今後進みそうだ。

菊水化学工業はロイヤルシリーズに無機系の4商品をラインアップ

【関西ペイント】
遮熱に断熱をプラス
新工法でニーズに応える

外装塗料は、汚れにくいという耐汚染性に始まり、美観維持や耐久性などさまざまな機能が求められてきた。その視点から近年の大きな流れとなっているのが、遮熱だ。気候変動により夏季の気温が上昇、宅内熱中症も大きな問題となっている。さらにカーボンニュートラルが強く求められるなか節電ニーズも高まる。こうしたなかでここ2~3年、遮熱塗料が大きな注目を集めている。もともと工場で使用されていたが、住宅にも採用が広がった。「足元の出荷は高止まり感があるが、市場ニーズを背景にまだまだ伸びるとみている」(関西ペイント)と今後のさらなる拡大も見込まれる。

こうしたなか関西ペイントは、この9月に「ALES DYNAMIC ECO断熱遮熱工法」の展開を開始した。さまざまな機能のなかでも、近年、注目度が高いのが遮熱。夏の暑さ対策、節電ニーズなどを踏まえ採用例は多いが、さらに断熱性を加えその機能を高めたものである。
同社が2015年から展開する外壁・屋根の塗替え用塗料のブランドが「ALES DYNAMIC(アレス ダイナミック)」シリーズだ。

ラジカルの発生を抑制する技術を導入し、高い耐候性を発揮して建物の長期保護を可能にする。汚れや遮熱などユーザーの困りごとを踏まえてさまざまなラインアップを揃えていることが大きな特徴で、例えば、「ダイナミック トップ 遮熱」(外壁用)や「ダイナミック ルーフ 遮熱」(屋根用)は、赤外線を反射する特殊顔料を配合、さらに赤外線反射機能が優れる下塗り材との組み合わせで上塗り部分を透過した一部の赤外線も反射する「ダイナミックIRブロック技術」により表面温度の上昇を抑制する。2年前に屋根用を発売し好評で、壁用を求める声に応えて今年4月に外壁用を発売した。

しかし、遮熱塗料にも限界はある。赤外線を吸収しきれない場合、ある程度熱を発してしまう。

そこで開発したのが「アレス ダイナミックECO断熱」だ。特殊マイクロ中空バルーンと呼ばれる空気層を多く含むことで断熱効果を持つ。

「アレス ダイナミック ECO断熱遮熱工法」は壁用に断熱・遮熱塗料を重ね塗りする工法。下塗り材の上に中塗りとして「アレス ダイナミック ECO断熱」を塗布、その表面には赤外線を反射する機能を持たせた。そして「アレス ダイナミック トップ遮熱」を上塗りする。つまり、表面で赤外線を反射し、一部透過した赤外線を中塗り表面で反射、さらに断熱性を持つ塗料で熱を建物に伝えにくくする。同社はこれを「トリプルブロック技術」と呼んでいる。

同社によると、従来の微弾性フィラー工法に比べて、表面温度をマイナス15度、裏面温度をマイナス21.4℃下げるという。この表面と裏面の温度差6℃が中塗りの断熱効果だ。夏季に熱を伝えにくくするだけでなく、冬季に熱を逃がさない効果も期待でき、事実、寒冷地での評価も高いという。ECO断熱遮熱は塗料ではなく同社初の工法として提案したことがポイント。システム化することで簡易な施工で高い性能を発揮する。

関西ペイントの「アレス ダイナミック ECO断熱遮熱工法」は、トリプルブロック技術で熱を建物に伝えにくくする

価格は「ダイナミック トップ」や「ダイナミックトップ遮熱」に比べECO断熱遮熱は高額となるが「ダイナミックトップシリーズは高耐候で高機能なことが特徴。グレードの違いというよりも、ユーザーが住環境やニーズに応じて選ぶことができる」(関西ペイント)と選択肢を増やし、時代にあったものを選べることを重視している。

住宅市場は大きくストックマーケットへと軸足を移している。これまで新築分野で先行してきた省エネやCO2排出量削減の取り組みもストック住宅での対応が強化されつつある。既存住宅を現在求められる水準へとリフォームし、さらに長く持たせることが求められている。

外装リフォームは外観の美観だけではなく、構造躯体そのものの劣化を防ぐ働きを持つ。その塗替え塗装におけるさまざまなニーズに対して、塗料各社がそれぞれの提案を活発化させている。今後、その動きはさらに加速していきそうだ。