怒涛の制度改正で住宅高断熱化が加速
次世代スタンダードの普及へ 対応急ぐ断熱材メーカー
断熱性能は当たり前 +αの性能が価値に
従来、断熱材を評価するモノサシは、熱貫流率や熱抵抗値などの断熱性能のみであったが、ここにきて、優れた断熱性能は備えたうえで、そのほかの+αの性能、価値を訴求し、新しい需要獲得を目指す動きも目立ち始めている。
JFEロックファイバーは24年4月、業界初となる吸音規格JIS A 6301を取得したロックウール断熱材「ロクセラム サイレント」を発売、注目を集めている。密度40以上、熱伝導率0.037で、天井用の熱抵抗値4.4・厚さ161㎜と、壁用の熱抵抗値2.7・厚さ100㎜の2種類をラインアップした。
ロックウール断熱材の音を透過させにくいという特徴を生かした商品だ。もともと同社は、密度40以上を界壁に使用しなければいけないという規定がある集合住宅向けの商品を展開しており、その商品を住宅向けに仕様変更したものがロクセラム サイレントである。
同社の営業部営業統括室 川田健介室長は、「業界初の吸音規格取得の断熱材。壁にも使うことができ、簡単に断熱・吸音効果を得られる、他の断熱材に比べて安価であるといったこともフックとなり、多くの販売店、工務店などから問い合わせ、採用をいただいている。中には一般のお客様からもどういった商品なのか問い合わせがある。ロクセラム サイレントの発売後、戸建住宅においても吸音に関する高いニーズがあることを改めて感じている」と話す。
ロクセラム サイレントの販売好調もあり、24年度の住宅用ロックウール断熱材全体の販売も好調に推移する。ロックウール断熱材メーカーのニチアスが24年3月、住宅用ロックウールの生産を終了した影響も大きい。23年後半から、関東、東海地区で、販売シェアを大きく伸ばした。
ロクセラム サイレントの商品ラインアップを2種類とあえて絞ったのは、分かりやすいラインアップとすることで選択しやすくするためだ。同社のスタンスは、上位等級にも対応できている大規模の住宅会社だけでなく、対応に苦慮している中小規模の住宅事業者も含めて、すそ野を広げた対応をしていくこと。川田室長は、「どちらに対しても受け入れてもらえるラインアップ」と話す。ロクセラム サイレントを使用することで、仕様規定で等級5を簡単にクリアすることができる。すでに等級5レベルの住宅を標準化している事業者からは、計算ルートで使用し、さらにグレードアップした商品にスペックインしてもらう動きも出てきているという。
さらに上位の断熱等級7については、付加断熱が避けられないことから、他素材の断熱材と組み合わせることを推奨している。22年に設置した技術サポート部署では、顧客のニーズに合わせ、断熱材の特徴を生かしたトータル提案を行っており好評を得ている。
王子製袋のセルローズファイバー断熱材「ダンパック」は、熱伝導率0.040という性能だけでなく優れた耐火性能、吸音効果、撥水性などを併せ持つ。
さらに新聞古紙を主原料とするリサイクル商品であるとともに製造時の消費が少ないなど環境負荷低減に貢献する商品であることも大きなポイントだ。SDGs達成にも貢献することができることを強く訴えている。
「ダンパック」は、北海道を中心に天井断熱などで多くの実績を持つ。セルローズファイバーを吹き込むという工法のため、例えば天井であれば厚く吹き込むことで熱抵抗値を高めることができることが大きなポイントだ。小屋裏にまんべんなく敷き詰めることで、断熱欠損が起こりにくい。ただ、北海道の天井断熱の市場は成熟し数量的にはあまり増えていない状況だという。加えて23年度は、全国的に見ても北海道の持家市場が冷え込み、その影響も受けて、販売実績は前年度比微減となった。
一方で、ここにきて関西エリアでの需要が伸びている。昨年度は、関西エリアを拠点とする大手分譲住宅会社2社で採用が決定。断熱材の標準仕様としてスペックインされた。そうした高性能化、差別化の流れとは別に、関西エリアでは、夏の暑さ対策としても断熱が改めて注目され始めているという。「ダンパック」による天井断熱により、室内への熱の浸入を抑制し、快適な住空間の創出につながる効果を訴求し、関西含め、本州エリアでの新規需要開拓を進める。23年度は、ダンパックの生産体制にも大きな変更があった。生産設備を北海道岩見沢市から愛知県名古屋市に移設し、10月から稼働を開始した。関東、関西などの需要地へ輸送コストを抑えて安定供給しやすくなる点を訴求し、競争力強化につなげていきたい考えだ。
加えて、高断熱化が進むなか、グレードアップを目的にハウスメーカーから小屋裏吹き増しの問い合わせが増えているという。「小屋裏空間を有効活用して、厚みをいくらでも増すことができる。厚く吹き込むほど、熱貫流率に有利に働く。目指すUA値に届かない場合は、小屋裏吹き増しで調整できるため、今後、上位等級対応の動きが加速する中で、需要はさらに伸びていくと期待している」(営業本部 ダンパック販売部 西川健 部長)。
一方で、壁は壁厚で吹き込む量が決まるため、上位等級への対応は、地域によってポリスチレンフォーム断熱材やフェノールフォーム断熱材を付加断熱として使用することになる。日本セルローズファイバー工業会では外張断熱にスタイロフォームを使った付加断熱で「30分防火構造」の認定を取得している。
吹き込みという特殊な技能が求められることから、同社は施工込みの販売を行っている。住宅事業者にとっては施工手間を増やすことなく、施工品質を確保できることが大きな魅力だ。登録施工店で組織する「全国ダンパック会」で年2回の講習会を行うなど施工品質の確保、向上につとめている。
イケダコーポレーションは、高い蓄熱容量を備えたウッドファイバー断熱材「シュタイコ」を、温暖湿潤な日本の住宅に最適な自然素材の断熱材として訴求する。
熱伝導率は、0.038とグラスウール断熱材とほぼ同等でありながら、熱容量は2100[J/(㎏・K)]とグラスウール断熱材と比べて約3倍の性能を発揮する。これにより温暖湿潤な日本の気候条件下でも、熱をダムのようにため込み、緩衝材として働くことで、家の中の温度上昇を抑制し夏のオーバーヒートを防ぎ、快適な室内環境を創出する。
また、優れた調湿性能も備え、過度な湿気を遮り最適に調湿することで、蒸し暑い梅雨時や真夏でもカラリと涼しい室内環境を創る。
近年、酷暑ともいえる夏が常態化しつつある中で、酷暑の夏にも家の中で快適に過ごすことができる断熱材として注目を集めている。シュタイコブランドマネージャー 藤澤迪央氏は、「特に屋根に使うのが効果的で、日中、強い日差しを浴びても、熱容量が高いため、断熱材の中を熱が貫通する前に、夜になると、空に向けて熱が放出されていく。部屋の中にまで熱が伝わらないため、酷暑の夏でも快適な住空間を維持できる。茅葺き屋根の古民家のようなカラリとした涼しさが特徴」と説明する。
もちろん、その熱容量、蓄熱性能は冬にも効く。暖房の熱を効果的に蓄えるため、暖房エネルギーを抑えながら快適な空気環境を創出する。
さらに、防音効果も持ち合わせており、騒音を減少させ心地よい音響効果をもたらし、静かでストレスのない生活環境を実現する。
そのほか、ウッドファイバー断熱材は、環境性能に優れた断熱材として注目を集めている。断熱材自体に貯留するCO2は建物の材の中で固定され、また、家を取り壊す際には再利用できる。シュタイコは、生産時に排出するCO2の約2倍の量を貯留でき、カーボンマイナス効果を発揮する。
こうしたウッドファイバー断熱材独自の強みが支持されて、「自然素材にこだわりたい」、「断熱レベルをもう一段階高めつつ、付加価値で他社と差別化を図りたい」と考えているビルダーなどからの採用が増えている。
商品ラインアップとして、外断熱や屋根下地などとして使用できる「シュタイコ デュオ ドライ」、充填断熱用の「シュタイコ フレックス」、吹込断熱材「シュタイコ ゼル」の3種類の製品を用意。これらを組み合わせることで上位等級へも対応できる。同社は、自然素材を扱う建材メーカーとして、「バウビオロギー」という考え方を重視している。
人の健康と自然環境に可能な限り配慮した設計手法で、環境が人を作り、人が環境を作るという考え方だ。そのバウビオロギーの考え方に則り、家の外皮も、人の皮膚のように透湿性を持たせた方がよいと考える。「高温多湿な日本では、湿気とのつき合い方を考えた家づくりが重要になる。壁体内結露が起こり、カビが生えて住む人が健康にならないというケースが非常に多いと聞いている。透湿抵抗値を計算して壁体内結露を起こしにくい家づくりを考えた時に、シュタイコであれば充填断熱も付加断熱もセットで提案できる」。
上位等級の達成へ
断熱材業界で進む企業コラボ
上位等級の達成を目指すとなると、一企業だけでの取り組みでは限界がある。特に、等級7レベルでは、付加断熱が必須となる。
また、断熱性能だけを上げても、気密が伴わなければ、本来目指していた快適な住まいは実現しない。全館空調を前提に、空間全体をいかに快適ですごいしやすい状態に保つことができるかということが問われる。かつては敵対関係にあった企業が企業間の垣根を越えてコラボレーションして、上位等級達成をサポートする取り組みも拡大している。
旭ファイバーグラスは、旭化成建材とコラボレーションし、グラスウールの充填と、旭化成建材のフェノールフォーム断熱材「ネオマフォーム」を付加断熱として使用する「G3プロジェクト」を展開する。香川、釧路、山形、宮崎でモデル棟を建設。G3レベルを達成するための建設地域ならではの設計施工のポイントなどを工務店、施主の声を交えて紹介するウェビナーを定期開催している。
10月2日には、山形モデル、宮崎モデルを紹介し、また、北海道立総合研究機構 鈴木大隆氏が「高断熱住宅の現在・未来」をテーマに講演するウェビナーを開催。同プロジェクトで取得した「HEAT20住宅システム認証:アクリアとネオマでつくるG3の家」について、概要や運用方法なども解説した。
マグ・イゾベールは、伊藤忠建材、旭化成建材と連携して「等級6”+”」の訴求を進める。
天井に「イゾベール・スタンダード」、壁に「イゾベール・コンフォート」の充填と「ネオマフォーム」の付加断熱、床にマグ・イゾベールの「床トップ」もしくは「ネオマフォーム」というような様々な提案をするもので、共同セミナーを開催して住宅事業者への提案を進める。
また、気密部材など、副資材を扱う日本住環境や城東テクノなどと連携してのセミナーも開催している。今後は全館空調システムを手掛ける企業などとのコラボレーションも検討している。「様々な企業と連携を進め、住宅を建てるのに必要な部材を網羅することで、数値だけでなく、住まい手が健康に快適暮らすことができる、真の意味での高性能住宅づくりをサポートしていきたい」考えだ。
アキレスは24年10月、省エネ計算サポートを手掛けるNCNと気密部材の日本住環境と、「東京ゼロエミ住宅」の基準変更についてをテーマにしたセミナーを行った。アキレスはこうしたセミナーを積極的に行っており、例えば、グラスウール断熱材のパラマウント硝子工業、日本住環境とアキレスの3社で、「断熱等級7が必要な理由」と題したシリーズセミナーを23年5月から開催した。等級7の家づくりに必要な知識、施工のノウハウを、座学と日本住環境の研修施設を使った実技で紹介する。
そのほか、パラマウント硝子工業とは、G3をクリアするための仕様などを掲載したパンフレットを共同で作成し配布しており、付加断熱への理解の促進に務めている。
また、アキレスは、基礎断熱の新計算に対応する任意評定(WEBプログラムで算出した線熱貫流率)を取得しており、新計算式に移行後も性能を落とさず、優位性を持ったUA値を計算ができる。セミナーなどでは、こうしたメリットも訴求している。
脱炭素社会の実現に向けて、住宅の断熱性能に関連して怒涛の制度改正が進む。断熱材メーカー各社はそれぞれの戦略を立て住宅高性能化のニーズへの対応を急ぐ。まさに百花繚乱と言える状況だ。
世界的にエネルギー価格が高騰する中、高断熱住宅の普及が進むことで、省エネ、地球温暖化対策の切り札となる。加えて、住む人の健康維持増進への効果も期待される。ヨーロッパ並みの住宅断熱先進国へと進化していくことができるのか。重要な転換期にあると言えそうだ。
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