佐渡島の廃校を酒蔵と学び交流の場に再生

「体験プログラム」通じてネットワークは世界に拡大 ゲスト講師を迎え「特別授業」、「蔵カフェ」もオープン

新潟県の離島・佐渡島。2010年に廃校になった西三川小学校を酒蔵と学び交流の場として再生させたのは1892年(明治二十五年)創業の酒蔵「尾畑酒造」だ。『学校蔵』と名付けられた。丘の上にあり佐渡の海が一望でき景観も素晴らしい小学校。この建物に魅せられたのが5代目/平島健代表取締役社長。学校を残したいと市と交渉し2011年佐渡市から借り受け、改装を手掛け2014年より「学校蔵プロジェクト」を始めた。旧理科室と理科準備室を断熱材で囲み、小型醸造機械を入れた。一般教室が麹(こうじ)室となり、大型冷蔵庫も入った本格的な蔵となっている。2020年5月、学校蔵は全国初の内閣府「日本酒特区」第一号として認定適用された。

教室に生まれたお酒を楽しめる「角打ち(かくうち)」は芝浦工業大学ゼミ生の作品。写真は、専務の尾畑留美子さん

酒造りは酒蔵では冬場に行われるが、2つ目の蔵となる学校蔵では、時期をずらし夏場に仕込みが行われている。そのために冬場と同じ環境がつくられている。

使われる米は佐渡島産。学校のプールだった所には太陽光パネルが設置されていて、エネルギーも地産地消を目指している。レンタカーも必要とのことからEVも1台用意されている。

尾畑酒造は2003年から海外輸出を手掛け、現在、アメリカ、香港、シンガポールをはじめ15ヵ国へと広がった。中心となったのが尾畑酒造・専務取締役の尾畑留美子さん。酒造りを学びたいという人がいるということを知り、2015年から「酒造り体験プログラム」を始めた。タンクごとに4、5人、1週間、「学校蔵」で受け入れ本格的な仕込みを杜氏(とうじ)の指導で学ぶというもの。体験は有料で10万円。2024年までに19カ国150人以上の卒業生。2022年に同窓会を結成。世界との繋がりが生まれた。

寄贈されたセレクションされた本で充実した図書館。本を紹介する尾畑さん。ソファやカーペットを入れて快適な読書空間となっている

「私がヨーロッパに出張に行った時に卒業生と会う。隣の国の人もわざわざ来てくれて一緒にご飯を食べたりします。何年か前のクラスメイト達が日本からアメリカまで会いに行き、Zoomでイギリスの人と繋いで一緒にお酒飲んでる(笑)。世界にネットワークコミュニティが広がっている」と、尾畑留美子さん。

酒造りのテーマは「四宝和醸(しほうわじょう)」。米・水・人・佐渡の四つの宝を和して醸す。「学校蔵」から生まれたお酒は音楽になぞらえ「かなでる/KANADEL」と名付けられ販売もされている。

2014年から学校蔵の教室を使い、毎年6月に「学校蔵の特別授業」も始めた。親交のあった藻谷浩介さん(日本総合研究所調査部主席研究員)の訪問をきっかけに学校だからと授業をスタート。藻谷さんを含め有識者を招き、「佐渡から考える島国ニッポンの未来」をテーマにワークショップを開催。これまで養老孟司さん(東京大学名誉教授)、玄田有史さん(東京大学社会科学研究所教授)、出口治明さん(立命館アジア太平洋大学元学長)、ウスビ・サコさん(京都精華大学前学長)などをゲスト講師に迎え、島や地方や地域づくりをみなで考え討議する。授業には、大人から学生まで幅広い層が参加している。参加費は無料だ。

日本で一番夕日がきれいな小学校と謳われた西三川小学校。当時の佇まい、緑豊かな庭が蘇った
学校からは佐渡の海が一望できる。この環境そのものと、そこから生まれる酒造りを、背景から知ってもらおうと酒蔵の体験教室が始まった

さらに芝浦工業大学工学建築学部建築学科の蟹沢ゼミが主宰する「佐渡木匠塾」が2011年より尾畑酒造と連携。学生が夏休みに2、3週間滞在し、椅子、机、棚、調度品などの作品が、学校に生まれた。

閑散としていた図書館には、親交のあったポプラ社の千葉均代表取締役(当時)が本をセレクトして寄贈。また他の出版社へも呼びかけてくださり本が揃い読書の場が生まれた。

毎年開催されている学校蔵の授業。参加者は高校生から80代まで。佐渡の人と外の人が参加している

学校蔵に多くの人が来るようになったことから、2022年7月には、「学校蔵カフェ」もオープン。研修合宿に利活用できる宿泊設備も設けた。また景色が一望できるウッドデッキも生まれた。新たな学びと交流の場として、学校が見事に蘇った。学校蔵は、「酒造り」「共生」「交流」「学び」の4つの柱で運営されている。今後、企業連携や様々なイベントや教育機能、観光企画開発も予定をしている。