積水ハウス、世界初の生物多様性可視化ツールを開発
ネイチャーポジティブ実現へ住産業でも取り組み拡大
シンク・ネイチャー社と共同で「生物多様性可視化提案ツール」を開発した。生物多様性の定量評価が可能となったことで、世界的な社会目標「ネイチャーポジティブ」への取り組みが住産業界でも広がりそうだ。
積水ハウスがシンク・ネイチャー社と「生物多様性可視化提案ツール」を開発し、その詳細を「生物多様性フォーラム」で発表した。このツールは、住宅建築地ごとに生物多様性保全効果が高い植栽樹種の組み合わせをシミュレーションして提案するもので、世界初のシステムだという。提案時における社内ツールとして活用していく予定で、現在1都3県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)で試験運用を開始。効果を検証した上で、全国での導入を目指す。
2022年12月に開催されたCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で、30年までにネイチャーポジティブの実現という新たな国際目標が示された。ネイチャーポジティブとは生物多様性の損失を止め、回復傾向へと向かわせることを意味する言葉で、この取り組みがいま世界の経済界で広がっている。こうした時代の動きに先立ち、同社は01年から生物多様性保全の取り組みとして、「5本の樹」計画を展開。地域の気候風土に合った在来樹種の植栽を提案し、蝶や鳥など生物に配慮した庭づくりを進めてきた。また、19年から琉球大学久保田康弘研究室、久保田教授が立ち上げたシンク・ネイチャー社との共同検証を開始し、「5本の樹」を通じた緑化が都市の生物多様性にどの程度貢献できているかの定量評価を進めてきた。今回はこの「5本の樹」の定量評価と、シンク・ネイチャー社の生物多様性ビッグデータを基に新たなツールを開発した。
ツールを使い、建築地の住所と樹種数を入力すると、生物多様性保全効果の高い樹種の組み合わせ上位10組が表示され、そこから1つを選ぶと、在来樹種、呼べる鳥、呼べるチョウそれぞれの数が示される。こうして生物多様性保全効果の可視化を実現することで、設計担当者の科学的エビデンスに基づいた提案が可能となり、外構提案の満足度の向上も期待できる。仲井嘉浩社長は、「ネイチャーポジティブを可視化できる画期的なツールであり、効果も従来の約2.6倍になる予測をしている。早く全国展開をしたい」と語った。
また、フォーラムでは、生物多様性と住まい手のウェルビーイングの関係性について分析した結果も発表した。東京大学大学院農学生命科学研究科との共同研究で、「5本の樹」計画を採用した居住者にウェルビーイングや環境配慮意識に関するアンケートを実施。身近な自然との触れ合いが自然に対する態度・行動および健康に及ぼす影響を検証した。結果、庭の在来樹種数が増えることで多様な生きものを呼び込み、敷地内での生きもの(鳥・昆虫)とのふれあい頻度が高まり、それが住まい手のウェルビーイングの向上(幸福感・人生の充実度の向上、鬱症状の低下)に寄与し得ることが分かった。また、在来樹種数の増加が、高い環境配慮意識につながることも推定された。
東急不動産はTNFDレポート公開
23年9月には、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言が公開された。このタスクフォースでは企業・団体が自身の経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し、情報開示する枠組みの構築を目指しており、国内外で企業がTNFDに沿って財務状況を開示する動きが広がっている。脱炭素化に向けては、二酸化炭素の排出量削減といった分かりやすい指標があるのに対して、ネイチャーポジティブ実現に向けては、施策効果の評価・測定が難しく、未だ単一の指標は整備されていない。グローバルな指標を整備することが喫緊の課題となっている。フォーラムでは、積水ハウスと同様、ネイチャーポジティブの定量評価を実施する東急不動産、三菱地所レジデンスも自社の取り組みを発表した。
東急不動産は今年1月に国内不動産業初となるTNFDレポートを公開した。特に事業規模が大きく、自然へのインパクトの重要性の高い広域渋谷圏における都市開発事業を分析対象とし、生物多様性のインパクトの定量評価を行った上でリスク、機会、測定指標ターゲットなどを整理し、開示した。同社グループサスティナビリティ推進部の松本恵氏は「レポートを発表したことで、渋谷エリアの企業に非常に興味を持ってもらった。業種問わず一緒に何かやろうという話がある」と、ビジネスのきっかけになっていることを明かした。三菱地所レジデンスは、15年から自社の新築分譲マンションに在来種樹木を使用する「ビオ ネット イニシアチブ」を開始。これまで200物件に採用してきた。シンク・ネイチャー社の定量評価検証により、従来の2・4倍のネイチャーポジティブ効果があると実証されている。
環境省は今年3月に、「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を公表し、その取り組みが企業の成長や評価につながる社会の実現を提言した。住産業界でも、実践がさらに加速していきそうだ。積水ハウス仲井社長は、「ネイチャーポジティブの取り組みが、単なるコストアップではなく、経済の新たなチャンスとして、企業による実践への期待が高まっている。生物多様性保全効果の見える化や、ビジネスでの実践事例を積極的に開示し、業界、業種を超えた連携を図ってネイチャーポジティブを実現していく」と語った。
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