2024.7.9

浮体式太陽光発電の実証実験が進む

都心部の電力供給へ新たな選択肢となるか

脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーの普及が急がれている。
その代表格ともいえるのが太陽光発電だが、近ごろ実証実験が盛んに行われているのが浮体式太陽光発電だ。
いま、注目を集める浮体式太陽光発電の現在地と活用可能性を追う。

エネルギーの脱炭素化が求められるなか、存在感を高めているのが再生可能エネルギーだ。なかでも、太陽光発電は、住宅への設置を促す行政などの取り組みもあり、一般的な発電方法として世間に受け入れられつつある。一方で、メガソーラーに関しては、広大な敷地面積が必要となるため、電力の一大消費地である都内での発電が難しいなどの課題があった。こうしたなか、注目が集まるのが浮体式太陽光発電。電力の地産地消や、災害時の電力供給といった観点でのメリットから、浮体式太陽光発電は、今後の新たな選択肢としての期待が高まる。実証実験も加速、活発化している。

東急不動産はSolarDuckの浮体式太陽光設備の開発を支援する

東急不動産は、24年5月に、オランダのSolarDuck(ソーラーダック)と合同で、浮体式太陽光発電の技術実証に着手した。

両社は22年11月、水上ドローンや風力を推進力にした自動補選技術などの研究を行うエバーブルーテクノロジーズとともに、東京都による東京ベイエリアから世界最先端の発信を目指す実証事業「東京ベイ eSG プロジェクト 先行プロジェクト(以下、先行プロジェクト)」に採択され、実証に向けた調査や開発に向けて取り組んできた。

設備はソーラーダックが開発。1辺30mの三角形の形状で、アルミの下部構造躯体の上にソーラーパネルを載せる。3本のフロートで洋上に浮かせ、14t×6か所の重りで係留する。今回の設備は80kW~100kWを発電するもので、現在は蓄電池に蓄電し、夜間照明の電力に使用しているが、今後竹芝地区でのイベントに合わせて、モバイルバッテリーで運搬、電動モビリティの電力源などにも使用していきたい考えだ。

また、ソーラーダックの浮体式太陽光発電設備は、耐久性を上げるために接合部をボルトで締めるのではなく、液化窒素で縮めたアルミの接合部材を用いて、常温に戻した際にしっかりと接合できることが特徴。実証実験では、強風にあおられた際の耐久性などを検証する。

将来的には、実証に使ったユニットを多角形型に組み合わせ大規模発電を行いたいとする。今回は東京ベイエリアの波がないという立地の特性上、波の影響は考慮しないが、同時期にヨーロッパではフロートを長くし、波の影響を小さくした浮体式太陽光の実証を行っており、ゆくゆくは沖への設置を目指す方針だ。

三井住友建設は海水域での実用に向け、複数のシステムを比較検証

同じく、「先行プロジェクト」に採択され、東京ベイエリアで実証実験を行っているのが三井住友建設だ。

同社はこれまで、ため池をはじめとする淡水域での浮体式太陽光発電を推進してきたが、新たに海水域での実用を目指す。22年にプロジェクト採択を受けた後、各所との調整などを経て23年11月に浮体式太陽光設備の設置を完了した。

種類の浮体システムを設置し、塩害の影響検証や、洋上と陸上、異なる浮体システムの種類による発電量などの比較検証を行う。
フロートシステムは同社が開発した「PuKaTTo(プカット)」(パネルを南向きに設置したもの、山型に設置したもの)、プラスチックメーカーのキョーラク(東京都中央区、長瀬孝充 取締役社長)が開発した「水面ソーラーシステム」、韓国のスコトラ社のフロートシステムの3つを採用。「強風、波浪、潮流、塩害などの課題を解決する」(同社)ため、気象観測、水温計、張力計、軸力計、GNSSなどで様々な要素を計測する。結果をもとに目視で点検を行い、システムの発電効率や係留の安全性を確認する。また、陸上に設置した太陽光パネルとも比較する。

係留の重りは2tのものと300㎏のものを組み合わせた。

発電した電力は、蓄電池に蓄電し、計測機器の電源などに使用する。

積水化学工業、エム・エム ブリッジ、恒栄電設は学校プールで浮体式ペロブスカイト太陽電池の実証を開始

一方、積水化学工業は、エム・エム ブリッジ(広島県広島市、池浦正裕 取締役社長)、恒栄電設(東京都北区、小林永治 代表取締役社長)と共同で浮体式ペロブスカイト太陽電池をプールに設置するための実証実験を24年4月3日より開始した。東京都北区の閉校になった学校のプールに、浮体式ペロブスカイト太陽電池を設置し、浮体構成、施工性、発電性能を実証する。主に、ペロブスカイト太陽電池の開発を積水化学工業が、浮体構造の開発をエム・エム ブリッジが、水上環境や浮体構成の要素データの測定を恒栄電設が行う。

ペロブスカイト太陽電池は軽量であることが大きな特徴で、今回実証に使用するものの重さは1㎏~1・5㎏/㎡ほど。係留の材料を少なくできるなど、コストや施工性の面で強みを持つ。一方で、一般的な浮体式太陽光発電では、強風などに対抗するため、金属のチェーンをたるませた状態で係留用の重りを繋ぐことが多いが、「ペロブスカイト太陽電池は軽いので重いチェーンを使用すると沈んでしまう可能性がある」(エム・エム ブリッジ 木原一禎技師長)と、ペロブスカイトの特徴である柔らかさや軽さを生かしつつ、風や波に耐えうる係留方法を考えることが課題だ。エム・エム ブリッジは、桟橋の建設などで培ってきた、係留が浮体に与える影響の構造解析技術などを生かして浮体の動揺が少ない構造の開発に取り組む。

プールへの設置に向けた実証とした理由は「学校施設は、災害時の防災拠点となるため、災害時のエネルギー供給源として、プール水面が有効だと考えた」(積水化学工業)という。また、学校の屋外プールは、利用が1年を通して夏季のみに限られており、未利用期間は消防用などに水を貯めているだけのことが多いため、未利用期間に太陽光発電を設置することで有効活用できそうであったこともポイントとなったようだ。

ールにおける検証を生かし、将来的にはより大きな市場規模をもつ海上や湖上にも取り組み、水上アセットへの再エネ導入手法を確立するねらいだ。

様々な素材や設置方法が生み出され、日々進化を遂げる太陽光発電。国内ではまだ洋上での太陽光発電は実用化されていないが、未来の電力供給の形のひとつとして期待が高まる。