世界のオザワとみそ汁/“御御御付け”に敬意
世界のオザワとみそ汁
「世界の至宝」「世界のオザワ」が2月に亡くなったとき、まさに世界が哀悼の意を表した。クラシック音楽ファンならずとも小澤征爾の名を知らぬ人は少ないだろう。日本の自慢だった。実は小澤征爾は住宅・不動産業界を担当するジャーナリストにとっても無縁ではなかった。小澤の最初の結婚相手が三井不動産の江戸英雄社長の長女、江戸京子さんだったからだ。江戸さんは記者たちに親しく接してくれた。自宅や別荘に畑を持ち、野菜など土いじりを日課とする江戸さんは記者たちを自然体で招き、帰りに手づくりの野菜を土産に持たせたりもしてくれた。記者たちにとって江戸さんは経営者のなかでも特別な存在だった。それだけにピアニストの京子さんと気鋭の指揮者、小澤夫妻のことは記者仲間でもよく話題にのぼった。
ところが、二人の生活は4年ほどで破綻。世間を驚かせた。だが、結婚中もそうだが、離婚後も江戸さんは小澤を経済的にも支援しつづけた。指揮者としての才能を高く評価していたからだ。小澤も「離婚後も江戸英雄さんは僕のことを息子だと言って、亡くなるまでかわいがってくれ、京子ちゃんとも後に良い友達になれた」(日経・私の履歴書)と語っている。江戸さんの人柄がしのばれるとともに、“世界のオザワ”も、若き日に江戸さんの支援があればこそだったと言えるかもしれない。
ところで、小澤征爾がスクーターに日の丸の旗を掲げて世界に飛び出した話はあまりに有名だが、日本でのクラシック音楽の普及に力を注ぎながら、機会あるごとに日本愛を語った。例えば、こんな言葉もある。「日本国でも歴史上、幾多の政治権力が交代してきた。しかし、みそ汁はあまり変ってないし、四季の変遷も変わってないのね。それが日本人の血というものだと思う」とし、続いて「だから、僕の日本に対する愛は、みそ汁に対する愛国心みたいなものだよ」(ボクの音楽武者修行)と、みそ汁を日本への愛国心と重ね合わせた。世界のオザワも、自らの根っ子を日本ならではのみそ汁に置いたという点で、微笑ましく、嬉しくもあるのだ。まぁ、これも縁といえば縁かもしれないが、小澤さんが亡くなった2週間前に江戸京子さんも亡くなっている。彼の世で良き友達の京子さんのピアノ演奏にタクトを小澤さんは振っているのだろうか。
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